その55
「立ちなさいよあんたたち。地上を侵略しに来たんじゃないの? そんなんで地底で待ってる煉獄の仲間たちに顔が立つと思ってんの? ひねもす、あんた煉獄一族の次期頭首でしょ! 頭首がそんなんでいいの?」
「でも……俺たちは今、めったに来れない湯をたのしんでいるところなんだし、もうちょっとこうしていたいんだがなあ」
ほかの連中もうんうんとうなずいている。
「立ちなさいよ! こうやって構えてるんだから勝負しなさいよ! あたしたちに恥をかかせる気? それともそのまま無抵抗でこのお湯を真っ赤に染めたいの? あたしを弓矢で殺そうとした時の気概はどこに行ったの?」
「ああ、あの時は申し訳ないことをしたよ。ごめん、あやまる」そういうと煉獄の一同は千歳に頭を下げた。「殺す意志はなかったんだ、ちょっと威嚇しようと思ってただけだ」
「そのあやまりかたは何よ!」どんどん千歳は激高してきた。「肩までお湯につかったままでペコッて軽く頭を下げるって、バカにしてんの?」
「いやあ……立ってあやまりたいのはヤマヤマなんだけど……じゃあ、立ってあやまろうか」
「当然でしょ! あん時あたし死にかけたんだから!」
「湯当たりでね」効太郎がボソッといった。
「よし、じゃみんなで立って千歳にあやまろう」
ひねもすの号令のもと、煉獄一同はバシャッと立ち上がった。
毟沢まるひ以外は全員が全裸だったので、十数本の野郎どものいちもつがびよよよーんとその場に整列した。
「ぐわっ」千歳はうしろにのけぞった。
「あの時はどうもすいませんでした」
煉獄どもがいっせいに深々と頭を下げた。
「許さない……」
「えっ」頭を上げたひねもすが怪訝な顔をする。
「やっぱりあんたたち全員許さない。そのまま勝負しろ! いや……おい効太郎、まずはおまえからだ!」
「え? 僕?」
効太郎と鐘馬とアップルビーの三人は、部外者とばかり首から下をずっとお湯につけていたが、急にお鉢が回ってきたので、とても意外そうな顔を千歳に向けた。
「なんで?」
「あんたが一番タチ悪いんだよ! ここにいる全員をダマして自分は何もせずに敵を勝手に自滅させる腹だったんだから」
「僕は……そんなこすっからくないけどなあ。なあ鐘馬」
「はい」
「いちいちサーバントに同意を得ようとするな! 効太郎、勝負しろ! ここで湯浴一族のリーダーと決着をつける!」
「僕はリーダーじゃないから勝負はなしってことで」
「たとえボンクラでも御影山瞬太郎のひとり息子である限りはリーダーなんだよ! さあ勝負しろ御影山効太郎!」
「それは丁重にお断り申し上げるよ。今、温泉につかってるところだし」効太郎はとうとうあさっての方向を向いてしまった。
「効太郎さん……」アップルビーは心配そうな表情だ。
するとその時、効太郎の腕をグッと掴んだ者があった。
「……え?」
見ると、鐘馬が今までなかったような厳しい顔つきで、効太郎を見つめながら強い力で前腕を掴んで離さないのだ。
「どうしたんだ? 鐘馬……」
「あきれましたよ。効太郎さん」
「え? 何なに? どうしたの?」効太郎が目を白黒させる。
「鐘馬さん……」アップルビーもポカリと口を開けている。
「もういいかげんあなたにはウンザリなんですよ。いつもいつもフニャフニャして」
「鐘馬……マジか」
さすがにこれには、まだ湯舟から立ったままでいるひねもす以下煉獄一族の連中も驚きを隠せない様子だった。いちもつを陳列させながら効太郎たちのほうを向いた状態ですっかり固まってしまっている。
「もうずっと以前からあなたのボンクラぶりには愛想が尽きてたんですよ。同じ湯浴の者として、御影山の名をつぐ資格を私は認めません。だから」
「だから? いったい急にどうしたんだ鐘馬」
「あなたにはここで消えてもらいます。というか、最後の最後で私もあなたを出し抜くつもりでした」
そういうといきなり鐘馬は掴んでいた効太郎の腕をひねるようにしてすばやく投げ技を繰り出した。
抵抗する隙も与えられなかった。
宙でさかさまになった効太郎の体は次の瞬間大きなしぶきとともに湯に叩きつけられた。
「鐘馬さん!」アップルビーが叫ぶ。
ぶくぶくと湯の中に沈んだ効太郎を無理やり引き上げた鐘馬は効太郎の体をうしろからはがいじめにし、
「悪いですね効太郎さん、私は羅鈍につくことにしたんです」
そういうと、千歳と塵芥に目くばせをした。
効太郎はほとんど気を失いかけた状態でいる。




