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その53


「僕たちがひねもすら煉獄のやつらを究極の勇者にしたかったわけが」


「??? この人たち、もう究極の勇者になってるんですよね」


「うん。なってるよ」


「……」


 アップルビーは黙った。

 あっさりしすぎて実感がわかない。

 究極の勇者になりましたという「タダー」とか「ジャジャーン」とか「テッテレー」とか「トゥットゥルー」とかいったような合図のジングルや声の類はまったくなかった。

 それまで見てきたひねもすらと印象は同じだった。

 いや、戦闘的な態度だけは確実に消えていたが。


「光ってるだろ、みんな」


「……あ、はい」


 確かに光っていることはポーッと光っているが、これが勇者の輝きとでもいいたいのだろうか。


「もう彼らに地上を侵略する意志なんてないよ」


「……はあ」


「な、ひねもす」


「ああ」どこまでもフレンドリーにひねもすが笑いかけてくる。「ないよ」


「そこの金魚殿におたずねいたすので御座候」臭左衛門がアップルビーに声をかけてくる。


「あ、はい」


「そなたはわれわれが地上を支配したほうがよいとお考えで御座候?」


「い、いいえ、そんなことありません」


「そんな野蛮なこと、するわきゃないで御座候」


「え、だって……」


「この湯につかっているうち、皆の考えが変わったのよね」まるひが受けた。


「はあ……」


「そう」とひねもすがあとを引き継ぎ「地上を煉獄一族が支配することに何か意味があるのか、なんにもありゃしないってね」


「……」


「無理やりそんなことしたらイヤがる人も出てくるだろうし、悲しむ人だって出てくるだろう。そんな人を困らせるようなことしたって後味も悪いし、末代まで煉獄一族が恨まれるだけで結局メリットなんてどこにもないんだよ。だって考えてもみなよ。怒ったり悲しんだりするより笑ったり感動したりするほうがいいに決まってるし、みんながそうなったほうがよりいっそうしあわせな気分が増すってもんじゃないか」


「……はあ。それはそうですけど」


「なのにどうしてその真逆のことをわざわざ俺たちがしなきゃいけないんだ? おまえはそんなに俺たちに地上を攻めてもらいたいのか」


「違います。私そんなこといってません」


「俺たちは温泉玉をこれからひとつひとつ元のお湯に返しに行くつもりだ。そんで地底に戻ってもっとマシな社会に変えるために煉獄の次期頭首として尽力するつもりでいるよ。まずは公平な選挙で新しいリーダーを選ぶことだな。煉獄一族の長が世襲で支配者でい続ける理由はない。世の中を変えるんだよいい方向に。荒れ地を平らに、曲がった道をまっすぐに。アイ・ハブ・ア・ドリームだ」


 ひねもすが湯から出した右手で力強く拳を握った。


 アップルビーは口をパクパクさせながら絶句した。

 そうしてまるですがりつくかのように効太郎に、


「効太郎さん、この人たちいったいどうなっちゃったんですか?」


「いったろ」効太郎が答えた。「究極の勇者になったんだよ」


「これが?」


 改めて彼女は煉獄一族の一同を眺め回した。

 雄々しい勇者というよりは、レジャーをたのしんでいる平和な観光客の団体といった感じにしか見えない。

 煉獄兵の中のふたりはお湯のかけあいながら子どもみたいにふざけ合っているではないか。

 これが究極の勇者だなんてどうしても彼女には信じられなかった。


「真の勇者っていうのは何も力が強くて悪いやつをバッタバッタと倒していく者のことをさすんじゃないよ」効太郎はほほえみながら「ほんとの究極の勇者っていうのはみんなが自由で平等で平和な社会に暮らせるように導く者のことさ。それが真のヒーローなんだよ。戦いを好まず、非暴力、融和友愛の精神的カリスマこそが真の意味での勇者なんだ。彼らの体から出てる光は後光だよ。勇者であり、ヒーローであり、カリスマであり、救世主になったんだよ」


 いくら効太郎がそのように力説しても、やっぱりアップルビーにはそんなふうには見えない。少なくともカリスマにはまったく見えなかった。


「でもどうして……どうして煉獄一族なんですか」


「え、どういうこと?」


「究極の勇者に、どうして効太郎さんと鐘馬さんがならなかったんですか。わざわざ煉獄の人たちを勇者にするために、どうして効太郎さんたちはこんな秘境まで来て苦労しなきゃいけなかったんですか。そんなのって、変です」


「僕は勇者ってガラじゃないからね。な、鐘馬」


「はい。私もです」


「それに、地上を侵略しようとしてた彼らだからこそ逆に平和を愛する勇者になってくれたほうがてっとり早いだろ。何しろ心を真逆に入れ替えてくれるんだからね。わざわざこの秘境まで誘い出したのも、あれだよ、これから地球を支配するって息巻いてるやつらに正直に湯の効能を説明したって素直に自分たちだけで秘湯めぐりをしてくれるはずはないからね。だから究極の勇者になれるっていう宣伝文句だけを敵の耳にわざと入るように親父が広めたんだよ。別に間違ったことはいってないしね。信憑性を高めるためには僕たちがじっさいに秘湯めぐりをしなけりゃいけなかったんだ。あんのじょうこの連中は僕たちのあとをつけて秘境まで一緒に来てくれたんで、そんでやっとここで究極の勇者になれたってわけだよ。千歳のことは計算外だったけど、まあ全体的にはだいたいうまくいったんじゃないかな。これからはひねもすたちがヒーローだ。真の勇者だ。地上の侵略をやめてくれるどころか、地底に帰ってそこの世界をよくしてくるってんだから一石二鳥だよ。僕はメンドくさいことはゴメンだよ。これからもずっとボンクラのままでいるさ。そのほうが性に合ってるんだ」


「……」




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