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その52


「どうしたんだ」


「だって、まるでわたしたち、覗き魔みたいじゃないですか」


「覗き魔?」


「ああ、そういえばそうですね」


 鐘馬がアップルビーに同意した。「どう見ても私たちは今、風呂場を覗いてますよ」


 そういうと、こちらも思わず笑顔になった。


「わたしたちって、お風呂を覗くために苦労してここまで来たんですか? フフフフ」


 アップルビーの笑いにつられ、効太郎も、


「確かにそうだなあ」


 一瞬の沈黙があった。


 急にツボに入ったのか、三人はいっせいに爆笑した。



 ハッハッハッハッハッハッ。



「おっ?」


『紫の湯』の煉獄一族は、一斉に効太郎たちの潜む岩陰に視線を向けた。


 こらえられないといった感じで大声で笑っていた三人は、しかたなく岩陰から姿を現した。


「おまえら……来てたのか……」ひねもすが意外そうにいった。


「やあ」と、効太郎が片手を上げて挨拶した。


「僕たちもやっと着いたよ。疲れたよ。それにしてもずいぶん気持ちよさそうだね」


 フレンドリーな感じで話しかけると、完全に無防備のままザブザブと湯の中に入っていき、煉獄の連中に近づいていった。


 腰箕だけだからなんの問題もなかった。

 鐘馬も警戒心ゼロのほほえみを浮かべながらあとに続く。


 アップルビーは目を白黒させながらふたりのうしろからついていく。

 効太郎と鐘馬は、ちょうどひねもすのとなりまでやって来ると、ゆっくり肩まで湯につかった。


「ああ、確かにこりゃ気持ちいいや。登山の疲れがいっぺんに癒えるよ」


 とうとうこの場にいる一同は、敵味方関係なく改めて一緒にお湯につかった。


 なんだか変な感じだった。


「な、そうだろう」ひねもすが親しげな口調で「この湯はいいよ。ストレスから一気に解放される。さすがは雲の中に隠れた最後の秘湯だけのことはあるよ」


 ほとんど友だちに接するような態度だ。


 いや、ひねもすばかりではない。煉獄の十二人はそれぞれがひねもすの言葉にうんうんと笑顔でうなずいていた。


 彼らの目は、揃いも揃って目がトロンと溶けそうに下がっている。

 水着のまるひなど胸の谷間をニコニコしながら披露している。


 そして、煉獄の連中からは裸の肌から淡い光が放たれていた。

 それは、発光しているというよりかは発酵しているといったほうが近いぼんやりとした光だった。


 誰もがお湯に癒され、ぽわーんと夢見るような表情でいた。


 例外はアップルビーだけだった。

 彼女ひとりが状況を把握できずに戸惑いの表情を見せながらキョロキョロしている。


「この湯、広いだろ」


ひねもすがニコニコしながら効太郎に聞く。


「うん。広くていい湯だね。なんていうか……うーん、なんていうんだろ」


「なんともいえない湯ですね」鐘馬が引き継いだ。


「そうなんだよ。言葉なんか必要なくなるんだよ。この湯に入るとな」


「ほんとだね」


「ほんとにそうですよね」鐘馬も同意した。


「まったくその通りなのね」まるひもうっとりした顔つきでいった。


「その通りで御座候」臭左衛門も気持ちよさそうだ。「七つの秘湯を巡ってるうちに、体じゅうの悪いところが全部スッキリ治ったで御座候」


「そらそうだ。究極の勇者がリューマチや高血圧じゃ格好がつかないしな」


 ひねもすがそういって笑った。


「若、それにしてもわれわれはこれでほんとに究極の勇者になったんでしょうか」


 鵯兄弟がひねもすに聞いた。


「なったんじゃないのか」


「もう別にそんなことは大きな問題じゃない気がするのね」


「われわれもそう思っていたところです」鵯兄弟が満足げにユニゾった。


「そうそう。みんなしあわせにたのしくなかよく暮らせればそれが一番だ。そのほうがストレスも感じない」


 ひねもすの言葉に、またしても煉獄一族の誰もが賛同の力強いうなずきを返した。


 効太郎は、ただひとり不審感丸出しのアップルビーに、


「な」と同意を求めてきた。


「……えっ?」アップルビーが目をパチクリさせる。

 何が「な」なのかわからない。


「こういうことなんだよ」


「あの……どういうことでしょうか」


「アップルビーも気持ちいいだろ」


「はい。気持ちいいですね、このお湯……」


「だろ」


「それで、なんでしょうか」


「これで、わかっただろ」


「はい。わかりました。って何がですか?」



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