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50/64

その50


      ×     ×     ×



「……ごめんなさい」


 効太郎の背中で、ぐったりしたアップルビーがあやまっている。


「なあに、金魚は泳ぐのが仕事なんだ。山登りが得意な金魚なんて聞いたことがないよ」効太郎がなぐさめる。


「そうですよアップルビーちゃん。ここまで来れたのもすべてあなたのおかげです。感謝していますよ」鐘馬が明るい顔でいった。


 三人は今、上空に笠のような雲が浮かんでいる例の山の頂上近くまで登ってきているところだった。

 アップルビーは効太郎に背負われている。


 あれから一週間はたっていた。


 見上げると、頭上にはまだまだつづら折りの道が延々と伸びている。

 しかし、明らかに山のすぐ上に浮かぶ雲のかたまりとの距離は縮まっていた。

 空は青く、これまでにないほどさらに広くて大きい。


「もうちょっとだ」


 自分に気合いを入れるようにして、効太郎は胸を張りつつ傾斜を登り続けた。


 うしろに続く鐘馬が効太郎の背中に、


「千歳さんや煉獄の連中は、もうあの雲まで行ったんでしょうか」


「どうなんだろう。あいつらにもずいぶん会ってない気がするよ」


「あれから七日くらい会ってないですね」


「もうそんなになる?」


「ずいぶんたちましたしねえ」


「うん。でもようやく終わりが近づいてきたよ」


「ロクなもの食べずによくここまで来れたものですね」


「この山、木の実や果物が豊富で助かったよ」


「いろんな果物が食べられて、どれもおいしかったです」疲労でトロンとした目のアップルビーが少し顔をもたげていった。


「スタミナ補給にはちょっと足りなかったかな」


「千歳さん、今ごろどうしてるでしょうね」鐘馬が思い出すような顔つきになった。


「わたし……」弱々しい声でアップルビーが、どちらにでもなく話しかける。「死にかけてた時……ずっと千歳さんに……今みたいに背負われてたんですよね」


「うん、そうだね」


「わたしには……千歳さんのことが……どうしても地上を侵略するような、そんなひどい人のようには今でも思えないんです……」


「わかってるさ」効太郎が背中にいった。


「もうすぐ会えますよ。雲の中で。千歳さんに。たぶん」鐘馬がアップルビーにやさしく声をかけた。


「はい……」



      ×     ×     ×



「これは……」


「温泉玉だ」


 頂上に辿り着いた三人は、唐突に六つの温泉玉を発見した。


 それらは無造作に地面に固めて置かれてあった。


 太陽の光を受け、真上にある雲のかたまりに向けて太い一本の光線を伸ばしている。


 頭上の雲と、山の頂上が直線的な光の筋でつながっていた。


「……思い出しました」


 効太郎に背負われていたアップルビーが降りたそうに体をもぞもぞさせたので、効太郎がゆっくりしゃがむと、彼女は両方の腹びれでしっかりと頂上の大地に立った。


 そうして二、三歩前に歩むと光線を放つ六つの温泉玉を間近からじっと見つめ、


「この光が『紫の湯』とのかけ橋です」といった。


「じゃあ、あいつらは」


「もう先に行っています」真上の雲を見上げた。「たまたまこの方法に気がついたんでしょう」


「千歳さんたちのほうはもう来てるでしょうか」


「それはまだわからない。行ってみないとね」


「じゃ、私たちも行きますか」鐘馬が聞く。


「そのためにここまで来たんだしね」


 アップルビーが振り返ると、ふたりに力強くうなずきかけた。


 効太郎と鐘馬はアップルビーに並ぶと、しばし温泉玉を見つめていたが、三人で一緒に光線の中に片足を突っ込み、光の中に入っていった。


 ゆっくりと三人の体は宙に浮き、昇天するかのように上昇していくと、上空の雲に吸い込まれていった。




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