表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/64

その49


「友だちって……いいですね」


 アップルビーがうらやましそうにいった。

 滝の裏側でたったひとり『緑の湯』を守ってきたアップルビーだけに、その言葉には実感がこもっていた。


 効太郎は続ける。


「僕たちの芝居にまんまとダマされた千歳は、最初から三人でこの秘境に来たんだっていうウソを僕たちに吹き込んできたんだ。一緒に究極の勇者になって煉獄一族を倒そうってね」


「……はあ」


「あいつが僕たちに近づいたのは、僕たちに七つの秘湯がある場所を案内させるためだった。記憶喪失になったんなら身を隠しながらあとを追いかける必要もないしね」


「秘湯の場所を知らない千歳さんが私たちと一緒に温泉めぐりをすることで、最終的には私たちを出し抜いて自分だけが究極の勇者になるつもりだったってことですね。七つ目の湯に私たちが入る前に温泉玉を取ってしまえば勇者になれるのは千歳さんだけってことになりますからね。ギリギリで抜けがけをするつもりだったんでしょう」


「あの千歳さんがそんなこと、信じたくないですけど……」


「僕たちだってそうさ」効太郎が嘆息する。「まさか僕たち湯浴一族の仲間だった羅鈍一族の中にあんな強い思いを持ってるやつがいるなんて意外だったよ」


 さすがにそこまで考えが至らなかったと効太郎はいった。


「意外でしたね」こちらも同じ思いだというふうに鐘馬がうなずいた。


「それから、地図に関してだけど……」さらに効太郎は続ける。「僕らには最初、敵に地図を渡す予定はなかったんだ。崖から落ちたのが予定外だったからね。でも向こうの手に渡ったほうがかえって手間がはぶけて結果的にはよかったんだけどね」


「……そうですね」鐘馬が同意する。


「やつら、案外近くまで追ってきてたから僕の落とした地図を簡単に拾うことができたんだろうなきっと」


「……」アップルビーは黙って聞いている。


「ただ、親父が七つめの秘湯の場所を書かなかった理由はわからないけれど……」


「効太郎さん、それ、私が出発前に直接旦那さまからお聞きしました」


「えっ? そうなの?」


「はい。湯浴の二代目たる効太郎さんに秘境での試練を与えるためにわざと消したんだといっておられました」


「余裕だな……。それって、本来の目的を見失ってない?」


「温泉玉を六つ集めればおのずとわかるからということでした」


「……わからなかったけどね。まあいいや、結果オーライだし」


 特に気にしたふうもなく、効太郎がつぶやいた。


 そこまでじっと聞いていたアップルビーだったが、ふたりの話に区切りが見えるとふと不思議そうに首をかしげた。


「……でも、どうしてなんですか?」


「え? 何が」


「どうして煉獄一族の人たちを究極の勇者にさせなきゃいけないんですか? 千歳さんもそうなんですか? だってあの人たち、地上に出てきて侵略しようとしてるんでしょう? それに、どうしてわざわざそのために効太郎さんたちはこんなまわりくどいことをしてるんですか」


「それはすぐにわかるよ」効太郎があっさりといった。


「すぐにわかるんですか?」


「すぐにわかりますよ」鐘馬が念を押す。


「すぐにわかるんですか?」


「うん。すぐにわかる。さっそく今から僕たちも『紫の湯』に行こうよ。ねえアップルビー。きみはあの雲まで行く方法知ってる?」


「……いえ、そこまでは私にもわかりません」


「どう行けばいいんだろう」


「あの雲、山のすぐ上に浮いてますよね。とりあえず山の頂上まで行ってみますか」


 鐘馬が遠くの山を指さした。


「でも、山の上からジャンプしたって雲には届きそうにありませんけど……」


 アップルビーが疑問を呈する。


「まあ、とにかく行ってみるさ。あの山の頂上まで」


「雲の中の温泉って、信じられないですよね」


「今までだって信じられないことをたくさん体験したんだし、大丈夫だろう」


 そうして最後までこの小島に残っていた三名は、ようやく行動を再開させた。

 湖のほとりに出ると三者三様に泳ぎはじめた。


 泳ぎながら効太郎がアップルビーにいった。


「きみが作ってくれたこの腰箕、丈夫でいいなあ。まだ腰から落ちないよ」


「そうですか。よかったです」


「アップルビーちゃん、それにしてもさすがに泳ぎが上手ですねえ」


「だってわたし、金魚ですから」


「そうだったな。すっかり忘れてたよ」



 ハッハッハッハッハッハッ。



 まったく緊張感が感じられないまま、三人は岸に向かって泳いでいった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ