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その47


「……そうだな。おいまるひ、温泉玉はすべて回収したか」


「はい、たった今すべて回収したのね」


「よし。鵯兄弟、金魚がいったことを試してみろ」


「はっ」


 兄弟は水をすくうようなかたちに両てのひらを合わせ、兄弟でさらにその両てのひらを合わせて受け皿を広げ、そこに煉獄兵が回収された六つの温泉玉を乗せた。


「……」


 固唾を飲んでじっと見ている一同。

 むろん木の上に隠れている効太郎や鐘馬、アップルビーたちも同じだ。


 鵯兄弟のてのひらの上にある六つの温泉玉は、ここではじめて一緒になって太陽の光を浴びた。


 やがて、それらは神秘的に発光しはじめた。

 それに伴い、あたりが多少薄暗くなったように思われた。


「おお……」


 一同は荘厳な光景に言葉を失い、ただただ光る六つの玉に目を奪われるのみだった。


 やがてひときわ大きなフラッシュの光が炸裂したかと思うと、六つの温泉玉から太い帯の光線が上空に放たれた。


 光線は角度をゆっくり変えていき、やがて遠くにある一片の雲を指し、そこで止まった。


 雲の下には大きな山があり、雲はその山の笠のようなかたちをしていた。


「あそこが『紫の湯』のある場所だっていうのか……」ひねもすがつぶやく。


「雲の中なのね……」


「どうやって行けばいいんだ」


「とにかく行ってみるしかないので御座候」


 煉獄どもが口々にいってるあいだに、ガサッと木立の一角が激しく揺れた。


 皆が警戒すると、木々の中にずっと潜んでいた千歳と塵芥が飛び出してきた。


 ピタッと地面に着地した千歳は煉獄たちのほうを見て、


「おかげで場所がわかったよ。ありがとね。先に行ってるよ」


 そういうと、塵芥とともに、雲のある方向に向かって走っていった。


「殺れ!」


 鵯兄弟の号令で弓矢が一斉に放たれたが、まんまとふたりは森の中に消えていった。


「若、追うで御座候?」臭左衛門が聞く。


 鵯兄弟はすばやく温泉玉を袋にしまい、光線が消えた。


「あいつらにも『紫の湯』の場所を教えてしまったのね」


「大丈夫だ、ほうっておけ」ひねもすがいった。「バカめが。最後の湯の場所をやつらにも知られてしまったのはストレスがたまるが、このさいそんなことはどうでもいい。少なくとも千歳はまだここをあわせても四つの湯にしか入っていないはずだ。従者の塵芥は論外だ。六つの湯に入った我々のほうが圧倒的に有利なのだ。アドバンテージはこちらにある。たとえ千歳たちが先に『紫の湯』に辿り着いてもどうにもならんさ」


「若、それでも紫の温泉玉をやつらに取られてしまうと話はややこしくなるので御座候」


「ああ、まあそうだな。じゃ、俺たちも急ぐか」


「若、効太郎たちもまだこのへんのどこかに隠れているかもしれないのね」


 そういうとまるひが木立ちを見上げてキョロキョロと目で探した。


「あいつらもほうっておけ。あんなボンクラに何ができる。見つけ出すのさえ時間のムダだ。俺たちは『紫の湯』に行くのが先だ」


 効太郎たちが一部始終を見ているのにも気づかず、そうして煉獄一族はゾロゾロと広場から去っていきはじめた。


 あたりに人気がなくなったのを見計らって、効太郎と鐘馬、そして効太郎に抱かれたアップルビーがストンと地面に飛び降りた。


 効太郎から離れたアップルビーは、よろめくように数歩歩んで、すっかり凍ってしまったふたつの秘湯を悲しげに見つめた。


 その目が涙であふれ、とうとうアップルビーはクスンクスンと泣きはじめた。


 効太郎は、そんな彼女の肩にうしろからやさしく手を置き、


「アップルビー、もう泣かなくていいよ」


「……わたし、もう生きるのがイヤになりました」


「今まで死にかけてたんじゃありませんか」鐘馬も寄ってきた。


「私はなんのために生まれてきたんでしょう。すべては『緑の湯』を守るためだったのに、よそから来たひとにメチャメチャに荒らされて、秘湯の温泉玉も全部盗まれて、あの人たちは最後の秘湯も土足で踏み荒そうとしています。それもこれも全部私の責任なんです」


「僕たちを助けてくれたじゃないか。命の恩人だよ」


「そうですよ。私たちは心の底からあなたには感謝しているんです」


 アップルビーは振り向くと、


「でも、くやしくないんですか。このままだとあの人たちは究極の勇者になってこの地上を支配するんですよ。地球全体が侵略されて煉獄一味のものになってしまうんですよ。私は効太郎さんと鐘馬さんこそが無敵の勇者になるべきだったと思います。そうして地上の平和を守るべきだったと思います。あんな悪い人たちをやっつけるべきだったと思います。お願いです。今から行って温泉玉を取り返してください。そうして改めて秘湯めぐりをして究極の勇者になってください。お願いします」




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