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その46


 木陰から見ていた効太郎やひねもすたちは、すっかり呆気に取られてしまった。


「さあいえ、『紫の湯』はどこにある」


「アハハハハ、アハハハハ、ダメです、アハハハハ、いえません」


「いわないとやめないよ」


「アハハハハ、ダメ、ダメ」


「アップルビー殿、早く楽になるの巻」


「アハハハハ、アハハハハ、やめて、やめて」


「なんじゃあれは……」


 ひねもすの口から思わず脱力系の声が出た。


「アップルビーのやつ大丈夫かな」それでも効太郎は少し心配顔だ。


「あれはあれでちょっと心配ですね」


 あまりのくすぐり攻撃に、そのうちアップルビーが白目を剥いてきたのがわかった。


「結構しぶといな。ほら早くいうんだ」


 千歳はなおもアップルビーをくすぐり続けるが、そのうちに効果も薄れてきたのか、あれほど身をよじっていた彼女が今ではぐったりとしてあまり反応を見せなくなってきた。


「失敗の巻か?」


 塵芥がうしろからアップルビーの顔を覗き込もうとしたその時、


「待て!」


 ひねもすが声をかけた。


 千歳たちが見ると、目の前には木陰から出てきたひねもす以下煉獄兵たちが、ズラリと勢ぞろいしていた。


 その中心にいるのは効太郎と鐘馬だ。

 まわりから一斉に矢を向けられた状態でいる。


「おい金魚。こっちを見るのね。おまえの大切な人たちは今やわが手中にあるのね。おまえが吐かなかったら、このふたりを亡き者にするのね」まるひがいう。


 アップルビーが驚いた表情になった。


「効太郎さん……鐘馬さん……」


「おい千歳、どうやら金魚に吐かせることができなかったようだな」とひねもすがニヤニヤしながらいった。「ここで選手交代だな」


 ひねもすが合図を送ると、森の奥にいた弓兵たちも前に出てきて、ターゲットを効太郎たちから千歳と塵芥に変えた。


「クソ……」千歳が身構える。


「おいそこの金魚。聞いたろ。『紫の湯』の場所をいわないとこのふたりの命はないぞ。おまえはこっちに来い」


 ひねもすの言葉に、弓兵たちはさらにギリギリと矢をしぼる。


「アップルビー、もう体は大丈夫かい」自分自身の危機を横に置いて、効太郎がアップルビーに声をかけた。


「……あ、はい、私はもう大丈夫です。千歳さんに助けてもらいました」


「でも、助けてもらったあとに拷問されちゃ世話ないよなあ」


「はい、世話ないです」


「でもアップルビーちゃん、すっかり元気になってよかったですね。ほんとによかった」鐘馬もうれしそうに声をかけた。


「はい、よかったです」


「おまえら何をいってんだ」ひねもすが三人の会話をぶった切った。「おまえらは今、命を奪われようとしてるところ! はい緊張緊張!」パンパンと両てのひらを叩くと「金魚! 早くこっちに来ないとこいつらの体にたくさんの風穴があくぞ!」


 効太郎たちは無言でアップルビーをやさしく見つめるのみだ。


「……わかりました。じゃ『紫の湯』の場所をいいます」


「あ、ああ、そうじゃなくて今そこで吐くな。千歳に教えるな」


「『紫の湯』は六つの温泉玉を集めて太陽の光にかざした時、そこから出る光が差し示す方向にあります」


「ああしゃべっちゃったよこれが」ひねもすがてのひらで顔を覆った。


 途端に千歳と塵芥がジャンプして木の上に登った。


 弓矢がふたりに向けて放たれる。


 そのうちの一本が塵芥の腰から下げていた袋を貫き破り、中からバラバラと玉がこぼれ落ちてしまった。


「拾い集めろ」ひねもすが焦る。


 その隙に効太郎と鐘馬は自分たちに矢を向けていた兵をねじ伏せた。

 そうしてすばやい動きで走り出しアップルビーを軽々と抱き上げると、これまた木の上にジャンプした。


「逃げるぞ、やれ!」鵯兄弟の命令で矢が一斉に放たれるが、うまい具合に三名とも木々の中に身を隠した。


「いい。もう構うな」ひねもすが弓兵を制した。「温泉玉がわが手中に入った限り、もうやつらには勝ち目はない」


 ピタリと矢の攻撃が止まった。


「……効太郎さん」


 不安げなまなざしで効太郎の腕の中にいるアップルビーがふたりを見た。


 三人は今、木立の中に隠れていて、上から煉獄一族の様子をうかがっていた。

 眼下では煉獄兵が地面に散らばった温泉玉を拾い集めているところだった。


「若、早速さっきの金魚のいう通りにしてみるので御座候」


 臭左衛門がひねもすに提案をしている。




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