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その44


「俺もそうしたいんだが、臭左衛門殿が」


 ひねもすがそこまでいうと、散蓮華臭左衛門があとを引き継いで、


「これは罠かもしれんとそれがしは思うので御座候」


「罠?」


「われわれがあとを追ってくるのはわかってるはずなのに、あんな風に湯につかってノンビリしてるのはどう見たっておかしい、きっとわれわれをおびき出す罠に違いないと臭左衛門殿がお抜かしになっておられるのだ」鵯兄弟が声をそろえていった。


「……よくそんな長ゼリフをユニゾれるもんだね」効太郎はしんから関心した。


「ほんとにそうなんでしょうか。私には油断しているだけにしか見えませんが」鐘馬がいった。


「もしそうならあの千歳という女は相当なマヌケだな」


「千歳だけじゃないのね」まるひが軽蔑のまなざしで『黄の湯』を見て、「頭だけ隠してお尻丸出しで泳いでるあの忍者も相当マヌケなのね」


 敵味方全員がうんうんとうなずいた。


「おい、金魚のやつも泳ぎ出したぞ」ひねもすがいった。


「スイスイ泳いでるので御座候」


「あいつ、久しぶりに湯に入れたのですっかりはしゃいでるな」


「よかったですね、効太郎さん」鐘馬が安堵の口調でいった。


「本当によかった。アップルビー……」


「若、どうします」


 鵯兄弟がユニゾってひねもすに次の一手を聞く。


「うーむ。あれがあいつらの罠かどうか考えてるだけでストレスがたまるな……」


「若、あやつらが金魚に『紫の湯』の場所を聞き出すまで、われわれはここで待っているのがベターで御座候」 


「なぜだ臭左衛門」


「滝の裏で『緑の湯』の温泉玉を奪ったわれわれがあの金魚をさらったとしても、恨み骨髄で容易には吐かないと思われるで御座候」


「そうなのね、ずっと行動を共にしてきた千歳たちになら簡単に吐くかもしれないってことなのね?」まるひがいうと、


「御意に御座候」


「確かにそうだな」ひねもすが納得したように頷いた。「こっちはもう六つの湯をすでに制覇したあとだからな。『紫の湯』の場所を金魚がしゃべるのをここに隠れて聞けばあとはこっちのもんだ。温泉玉さえ奪えば圧倒的にこちらが有利になるってわけか」


「……しかし、もう吐いたあとならどうするのですか」鵯兄弟が口を出す。


 煉獄一同がさまざまにディスカッションしていたその時、不意に千歳がこちらに顔を向けた。

 気づかれたのだろうか。


「マズいッ、頭を下げろっ」


 ひねもすの号令一下、全員が茂みの中に身を伏せた。


「……あれ、効太郎さん、私たちは別にいいんじゃないんですか?」


 鐘馬が胡乱な目で効太郎を見た。


「あ、ああ、そうだったな。つい一緒になって隠れちゃったよ」


「あいかわらずお茶目ですね効太郎さんは」


「鐘馬だって」頭をかきながら効太郎が緊張感ゼロの笑顔を見せた。


 そうして立ち上がろうとするふたりに、


「バカ動くなっ」


 背後から鵯兄弟が刃物を突きつけた。

 

 しかたなく効太郎たちは身を伏せた状態のままでいるしかなかった。


 息をひそめて千歳の出方をうかがっていた一同だったが、千歳は特に何も見なかったのか顔を戻すと、


「塵芥、そろそろ出るよーっ」


 まるで銭湯に来た夫婦のようにとなりの湯の塵芥に声をかけた。


 塵芥が湯の底の温泉玉を持って湯から上がる。

 すると、玉を失った『黄の湯』はゆっくりジワジワと凍りはじめた。


 そうして塵芥は体をふいたのかふかなかったのかのうちにモソモソと黒い忍装束を着はじめた。


「アップルビー、そろそろ出るよ」


 今度は泳いでいたアップルビーに声をかける。

 千歳はアップルビーの編んだ腰巻きとトップスを着用していたので、そのままの格好で湯につかっていたのだった。


 彼女も温泉玉を手にして湯から出たので、アップルビーはあわてて上がった。


『橙の湯』の表面から湯気が消えたかと思うと、浮かび上がるように音もなく氷が張り、湯は死んだようになってしまった。


「……」


 アップルビーはぽかんとした顔で、自分が泳いでいた『橙の湯』を眺めた。

 千歳はおかまいなしに屈伸運動などをしている。


「……千歳さん、効太郎さんたち遅いですね」アップルビーが千歳のほうを向いていった。「いつ来るんでしょうか」


「ああ、先に『紫の湯』に行って待ってろってさ」千歳がアッピルビーを見ずに答える。


「……そうなんですか?」


「うん、急に何か用事ができたって」


「何の用事ですか」


「さあ」千歳は首を軽く捻ってみせ、ここではじめてアップルビーに視線をやると「先に行けっていうんだからあたしたちだけで『紫の湯』に行ってよう。で、『紫の湯』はどこにあんの?」


「よし、金魚、いえ」


 この様子を木陰から見ていたひねもすは思わず拳を握りしめた。


 しかし、アップルビーは不審の視線を千歳に向けている。


「ど、どうしたっていうのよ」


「何か変ですね」


「何が」


「用事っていうのが変ですね」


「変な用事なんでしょ」


「秘湯を探す以外の用事があるって変ですね」


「そんなことあたしにいわれても知らないよ」


「先に『紫の湯』に行って待ってろって、効太郎さんたちは『紫の湯』の場所を知らないじゃないですか」




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