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その43


「ですけど、五人でしょ」


「うん、五人じゃね」


 すると、石をぶつけられた敵のひとりが呻きながらいった。


「俺たちは……バカにされてるのか」


「あ、ごめん、そんなつもりはないんだ」効太郎が思わずあやまった。


「傷つけるつもりはありませんでした」鐘馬も同調した。


 効太郎が鐘馬をいたずらっぽい顔で見て、


「どうして敵にあやまってるんだろう」


「ですね」


「こんなに余裕があるってことは、やっぱり僕たちは勇者なのかもしれない」


「じゃ敵が百人現れても余裕で勝てますね」


「うーん。それは無理」



 ハッハッハッハッハッハッ。



「いや笑ってる場合じゃないぞ。アップルビーがどうなったか気がかりだ」


「アップルビーちゃん、無事にお湯につかることができたでしょうか」


「だといいんだけどなあ」


「気になりますね」


「気になるねえ」


「行ってみますか」


「そうだな。僕たちもそろそろ行くか」


 湖に視線を戻すと、遠くに見える小島には岸から見てもなんの変化もない。


 効太郎と鐘馬は、ゆっくり湖に入っていくとしだいにその体を浸していき、やがて小島に向かって泳ぎはじめた。



      ×     ×     ×



 島に着いた効太郎と鐘馬が、ちょっとした森を抜けるともうそこはすぐ広場だった。

 中心にやや小振りなふたつの湯だまりが並んでいる。

『橙の湯』と『黄の湯』だ。

 双方から暖かそうな湯気が上がっている。

 効太郎たちは木陰に身を隠して様子をうかがっている。


「アップルビー……」


 思わず効太郎はつぶやいていた。


「アップルビーちゃん、生きてますよ……」


 鐘馬の声にも驚きが混じっている。


「生きてお湯につかってる……」


「肌つやももとに戻ってますね」


「気持ちよさそうじゃないか。よかった」


 ふたりはホッと胸を撫でおろした。


 温泉金魚アップルビーは今、『橙の湯』に肩までつかり、気持ちよさそうに両目を閉じ、口をパクパクさせていた。


 その顔は少しほほえんでいるようにも見える。

 顔をピンクに染めている。

 もうさっきまでの老婆のような皺はどこにもなかった。


 そのかたわらで湯につかっているのは千歳だ。

 彼女もアップルビーと同じように頬を上気させ、自分で自分のツヤツヤした白い肌に見惚れつつ、体全体で湯の癒しの効能を体感しているところだった。


 となりの『橙の湯』では、温泉忍者……いや偽の温泉忍者の塵芥が頭巾で顔だけ隠した素っ裸の状態で生尻をプカプカ浮かべながらバシャバシャと泳ぎの真似事をしていた。

『橙の湯』と『橙の湯』のあいだにはちょっとした灌木があって、互いにとなりの湯が見えないようになっていた。

 まるで男湯と女湯だ。


 それにしても、ふたりとも敵がここにやってくることに対する緊張感がゼロだった。

 あまりにも湯が気持ちいいので警戒感をすっかり解き去っていたのかもしれない。


「マヌケだ。あまりにもマヌケだ」


「あのひとたちが一番の観光気分ですね」


 効太郎と鐘馬がそんなことをいい合っていると、


「おい」


 うしろから声がした。


 ふたりが振り返ると、箕笠子ひねもす以下七人の煉獄たちがそこにズラリと並んでいた。


「あ、不意をつかれた」


「しーっ」


 すっかり虜にされるものとばかり思っていた効太郎は、相手がくちびるに人差し指を当てたのを見て「?」という表情になった。


「大きな声を出すな。気づかれるだろ」


「あなたたちもここで見張ってたんですか」


「もっとうしろだったのね」毟沢まるひがいった。「あなたたちみたいにこんなに前に出てきたんじゃすぐに見つかってしまうのね」


「どうして隠れてるんだ。アップルビーも元気になったみたいだからさらってくればいいじゃないか。いいってことはないけど」



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