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その41


「拙者は、いや、千歳殿と拙者は羅鈍一族の巻」


「羅鈍一族って……」


「おまえたちは記憶を失ってるから一からちゃんと説明してやるよ」


 千歳が尊大な態度を見せた。



      ×     ×     ×



「あたしら羅鈍一族は主張したんだよ湯浴一族に。煉獄一族と最後まで戦えってね。あたしたちの親の世代だけど。まだみんな地底にいる頃」


「……」


「なのに効太郎、あんたの親父、湯浴一族の長である御影山瞬太郎は戦いを放棄して王の座を捨てた。そうしてここ地上に逃げてきたんだよ。徹底抗戦を主張する羅鈍一族をなだめて一緒にね」


「……」


「とうぜんあたしたちの上の世代の羅鈍の連中にはずっと不満がくすぶっていた。煉獄一族を増長させるとロクなことにならないってね。その結果これよ。あんのじょうこいつら煉獄どもは地底を支配するだけじゃ飽き足らず、この地上まで触手を伸ばしてきた。羅鈍の連中はみんなカンカンよ」


「……」


「もうあんたち湯浴一族なんかとは組まない。羅鈍一族だけで煉獄と戦う。効太郎、あんたみたいなボンクラが次期頭首なら湯浴一族はもうおしまいだからよ。究極の勇者になれる七つの秘湯を探しに出かけたっていう話を聞いて、あたしと塵芥はずっとあとをつけてきたってわけ。秘湯の効能を横取りするためにね。そしたらさすが効太郎、湯浴のボンクラ二世だよね。自分で崖から勝手に落ちておまけに記憶喪失になっただなんてお笑いもいいとこよ。だからあたしはあんたの仲間のフリをして一緒に秘湯を探しながら、最後の最後で出し抜いてあたしたち羅鈍だけが究極の勇者になろうとしたのよ。これからは地上も地下も羅鈍が支配してみせる。湯浴も煉獄も敵。どちらも勇者にはさせないから。究極の勇者になるのはあたしと塵芥だけよ」


「今までずっと湯浴温泉の仲居として働いてきたっていうのは作り話だったのか?」効太郎が聞く。


「ああ、それは事実よ。羅鈍の連中はみんな御影山瞬太郎の湯浴温泉旅館で働いてきた。不満はあっても地上は……日本は平和だったから敵対するも理由もなかった。でも、煉獄が地上に進出してきた今となると話は別」


「……」


「今こそ立ち上がる時よ。湯浴がじゃなくて羅鈍がね。さあ、もう話は終わり。早く小島に行かないとアップルビーちゃんが死んでしまうからね。それじゃ、どうもね。行くよ塵芥」


「コピーザットの巻」


 そうして羅鈍一族のふたりはアップルビーとともにボートに乗り込むと、千歳がぐったりしているアップルビーの頭部に木の枝の切っ先を向けたまま、しだいに離れていく効太郎、鐘馬の湯浴一族、そして箕笠子ひねもすほか煉獄一族をギラギラした目つきでにらみつけ、塵芥ひとりに一生懸命オールを漕がせ、しだいに岸から離れていった。


 弓矢隊が構えると、一斉に千歳を狙う。


「やめておけ」ひねもすが制する。「万が一金魚に当たったら取り返しのつかないことになる」


 その言葉で弓はすべて下げられた。


 遠目にボートが小島に到着し、千歳と塵芥がアップルーを引っ張って陸地に上げたのが確認できる。


「……よし、もういいだろう。われわれもあそこに行くぞ」ひねもすが号令をかける。「鵯兄弟」


「はっ、ここに」


「またボートを出してくれ」


「はっ」


 兄弟はさっきと同じように、また懐から折り畳まれたビニールをスルスルッと取り出すと、地面に広げて口で空気を入れはじめた。


「……あの金魚が『紫の湯』の場所を吐いたあと、千歳に口封じに殺されたらこっちは終わりだ」

ひねもすが小島を見つめながらつぶやくようにいう。


「それは大丈夫です。千歳さんはそんなことするような女性じゃありませんから」


 鐘馬はひねもすの言葉を否定した。


「わかるもんか、あのじゃじゃ馬なら」


「じゃじゃ馬なんて言葉、久しぶりに聞いたな」


 効太郎がひねもすの言葉に反応した。


「そうですね」


 ひねもすの顔がちょっと赤くなる。「……ストレスのたまるやつらだ」


「若、ボートはこれで全部です」


 鵯兄弟がそういって示したゴムボートは三つだけだった。


 十人ほどいる煉獄の連中をすべて乗せるのは不可能だ。


「よし、幹部以外のやつらは後から泳いで小島まで行け」


「こいつらはどうすればいいのね?」


 まるひが効太郎と鐘馬のことを指さしていった。




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