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その40


「そ、そいつを殺せば、おまえらだって同じだぞ。おまえらだって究極の勇者にはなれないんだぞ」


 ひねもすの声に少し焦りが混じり出した。


「おまえら煉獄どもをを阻止できるなら本望だね。絶対におまえたちに地上侵略はさせないから。勇者にもさせない」


「若、若、かまうことはないのね」毟沢まるひが前に出てきて「どのみち『紫の湯』はこの秘境のどこかには必ずあるはずなのね。根気よく探せばいつかは必ず見つかるのね。だからあいつらに温泉玉を渡すことはないのね。それに、あの金魚がほんとに『紫の湯』の場所を知ってるかどうかはわからないのね」


「そうかよ。じゃおまえら一生探してろ」


 そういうと千歳は鋭い木の枝を高々と振り上げた。


「ま、待て!」


 あわててひねもすが制止する。「クソッ、クソッ、これはたまる。たまるぞストレスが!」


「若。くれぐれもストレスは禁物で御座候」かたわらの臭左衛門がアドバイスする。「先代はストレスのためすぎで現役引退を余儀なくされたので御座候。次期頭首の若がストレスにやられたら煉獄一味はあっというまに崩壊で御座候」


「わかっている。だからためるわけにはいかないんだストレスを。……クソ、よしわかった。不本意だが温泉玉をあいつに渡してやれ」


「若」


「若」


 毟沢まるひと鵯兄弟が思わず身を乗り出すように声をかけた。


 塵芥がスタスタと臭左衛門のもとに歩み寄っていくと、小遣いちょうだいといった感じで臭左衛門にてのひらを差し出した。


 チラとひねもすのほうを見た臭左衛門は、不承不承塵芥に温泉玉の六つ入った袋を手渡した。


 受け取った塵芥は、またスタスタと戻り、千歳のとなりに立った。


「そのゴムボートももらうから。小島にある秘湯までこの子を連れていかないといけないからね」


 千歳が目配せすると塵芥は無言でうなずき、またスタスタと煉獄一味のもとに行くと、ふたつのゴムボートを両手でズルズル引っ張って、すぐ湖に浮かべられる場所に置いた。

 塵芥はまるで急に千歳の下僕にでもなったかのように振る舞っている。


「そこの湖に金魚を離せば生き返るんじゃないのか」


 苦しまぎれといった感じでひねもすが提案する。


「ダメよ。温泉金魚なんだからお湯に入れてあげないと」


 千歳はぴしゃりと拒絶した。


「クソ」


「それよりもボートにオールがついてないよ」


「……チッ、どこまでもストレスのたまる女だ」


 ひねもすが鵯兄弟に顎で合図を送った。


 兄弟は、ふたりともまったく同じ動作で手品みたいに懐から長いオールを二本ずつニューッと出した。


「オールでございます」


 ひねもすに差し出されたオールを、スタスタやって来た塵芥が奪い取った。


「じゃ、私たちはこれでアップルビーを助けに小島のお湯まで行ってくるわ」


 無抵抗のアップルビーにヘッドロックをかませたまま千歳はボートのある場所まで後ずさりし、両手にオールを抱えた塵芥がそれに続いた。


 効太郎と鐘馬もそれに続こうとすると、


「あんたたちもダメ」


 千歳が急に、手にしていた木の枝をふたりに向けて威嚇してきた。


「えっ?」


「どういうことですか」ふたりはピタリと立ち止まる。


「まだわからないの? やっぱりおまえらはボンクラだね」


「?????」


 これにはさすがの煉獄一味もそれぞれ顔を見合わせている。


「千歳さん、急に人が変わってしまったみたいですね」


「血迷ったのか千歳」


「塵芥、説明してやってよ」


 千歳がそいういうと、塵芥が一歩前に出てきて演説をぶちはじめた。


「これは最初から決まっていた筋書きの巻」


「?????」


「拙者はほんとは温泉忍者じゃないの巻。お山に入る最初からずっと三人のあとをつけてきていたの巻」


「えっ、最初からって、じゃあ温泉亀が運転していたバスにも?」


「屋根の上に乗ってたの巻」


「洞窟の急流すべりも?」


「一緒にすべって川に落ちたの巻」


「毛剃の滝の裏で僕たちがアップルビーに会った時、あんたはどこにいたんだ」


「ずっと外で待っていたの巻」


「道理で……ずっと誰かにあとをつけられてると思ったんだよ。あれはやっぱり錯覚じゃなかったんだ。煉獄一味かと思ったらあんただったんだ」


「本物の『藍の湯』の守り神は蛇の姿をしているの巻。例のあの高い高い岩塔の上で矢に射られて今も気を失ってるの巻。あそこだけ貴殿らが登っているちょうどその裏側から一足先に頂上まで登ってお湯が凍ってるのを確認したの巻。あとは一気に飛び降りて『藍の湯』の守り神のフリをしたの巻」


「じゃ、あんたは本当はいったい誰なの?」





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