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その38


「え」


「単なる可能性だけどね。目的地はまったく同じなんだからそろそろ出くわしたっておかしくない」


「でも……、たとえ敵がいたとしても、お湯が凍ってるかどうかだけでも確かめないとダメじゃない。アップルビーちゃんの命がかかってんだよ」


「そうだね。じゃ、僕が先にあそこまで泳いで行って様子を見てくるよ」


「効太郎さん、大丈夫ですか」


「もし敵がいたらなんとか温泉玉を取り返す方法を考えてみるよ。大勢でゾロゾロ行くと目立つしね」


「じゃ、あたしが行く」


「私が行きますよ」


「拙者は泳げないのでご辞退申し上げるの巻」


「じゃあ、ジャンケンする?」


 効太郎がそういって手を振りかざしたその時、


「その必要はない」


 不意にあさっての方向から声がした。


 振り返ると、一同はすでに煉獄一味に背後をふさがれていた。弓兵たちに一斉に矢を向けられている。


「しまった。うかつだった」


「いつのまにかうしろにいましたね」


「クソッ」


「オーマイグッドネスの巻」


「ハハハハ、せっかくここまで来たっていうのに、さぞかしストレスが溜まっていることだろうな」


 中心にいる箕笠子ひねもすが腕組みをしながら不適な笑みを浮かべている。


 その左右には毟沢まるひ、鵯兄弟、散蓮華臭左衛門という例の変な連中が並んでいる。


「僕たちになんの用?」効太郎が聞く。「こっちに構わないでさっさと七つの秘湯を制覇すりゃいいじゃないか」


「それが……そうも……いかんので御座候」


 ご老体の臭左衛門が口の中でモゴモゴといった。


「えっ? なんだって?」効太郎が思わず聞き返す。


「それが、そうもいかないのよね」かわりに毟沢まるひが答えた。「なぜなら……ひねもす様、あとはどうぞ」スーッと身を引いた。


「なぜなら、この地図には」


 引き継いだひねもすが息を吸い込んで続きをいおうとすると、


「あっ、やっぱり敵の手に渡ってた! 地図!」思わず千歳が大声をあげた。


 ひねもすは千歳を無視して咳払いすると、


「この地図には秘湯の場所が六つしか載ってないのだ」御影山瞬太郎が描いた地図をヒラヒラさせた。


「七つ目の湯、最後の『紫の湯』の場所がどうしてもわからない。それだけ地図に載ってない。まったくなんてストレスの溜まる話だ。そこで御影山効太郎、御影山瞬太郎のひとり息子、湯浴一族の次期頭首のおまえに直接聞こうと思ってここで待ってたってわけさ。おまえ『紫の湯』について何か瞬太郎から聞いてないか。俺たちに教えてくれ」


「教えるわけないだろバカ!」千歳が怒鳴った。「その地図を返せ!」


「もちろん返すよ。用済みだしな。だがその前に『紫の湯』の場所を教えろっていってんだ」


「いや……僕も聞いてないよ、何も」効太郎は答えた。「鐘馬、きみ何か聞いてる?」


「聞いてるも何も、私たちは崖から落ちてずっと記憶喪失になってるじゃないですか」


「あそうか、よく考えればそうだったな、すっかり忘れてたよ」


「効太郎さん。記憶喪失のことさえ記憶喪失してるなんて、ほんとお茶目ですね」


「お茶目かな」


「お茶目ですよ。お茶目なのんびりやさんですよ」


「お茶目なのんびりやさんか。今はのんびりなんかしてられないんだけどな」


「ほんとそうですよ、危機一髪ですよ」


「危機一髪た恐れ入った」



 ハッハッハッハッハッハッ。



「うるさいっ! 笑うな! ストレスがたまる!」ひねもすが怒鳴った。「俺たちをおちょくる気か」


「だからおちょくる以前に『紫の湯』の場所なんか知らないしなあ」


「そうだ、守り神なら知ってるかもしれませんよ。いえ、知ってるでしょう確実に」


「守り神? なんだそりゃ。ああ、行く先々で俺たちを邪魔した化け物どものことか」


「化け物とは聞き捨てならないの巻」


 気色ばんだ塵芥がズイッと前に出てきた。「貴殿らから温泉玉を守るために神から遣わされてきたのが拙者たちの巻」


「するとおまえも温泉の守り神なのか」鵯兄弟が相も変わらずユニゾリながら塵芥に聞く。「ヒエッヒエッヒエッ笑っちゃうぜ」


「笑い声もユニゾンの巻」塵芥は半ばあきれた口調で「あらかじめ断っておくが拙者は『紫の湯』の場所なんか知らないの巻」


「ほう、守り神のくせにか」ひねもすが底意地の悪そうな目を光らせる。


「守り神だろうがなんだろうが知らないものは知らないの巻」


「じゃあどうしてこの場所をつきとめた」




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