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その25


 ようやく効太郎が口を開いた。「なぜって、今後の教訓に生かせるからね。きみは確実に成長したんだよ。少なくとも二度とこういうことを起こさせないように意識を変えることができるはずだ」


「……」今度は温泉金魚のほうが黙った。


「何ごとも経験だよ。いろんな経験を経て少しずつマシになっていくんだよ誰もがきっと」


「じゃあ……じゃあ……」


「うん」


「わたしも一緒に連れてってください」


「うん。えっ?」


「温泉玉が取られた以上、ここにいても守るものはありません。かんじんのお湯も凍っちゃいました。だったら、効太郎さんたちと一緒にわたしも温泉玉を取り返しに行きます」


「ちょ、ちょっと待ってよ」


 今度は千歳が前に出てきて、


「あんたここの守り神なんだよ。持ち場を離れちゃダメでしょ」


「今、効太郎さんがおっしゃってましたよね、何ごとも経験だって。わたしもいろんなところに行って見聞を広めたいんです。経験を積んでみたいんです。滝の外に出てみたいんです」


「何いってんのよ、あんたに何ができるっていうのよ。はっきりいうけど、あんたについてこられたって足手まといなんだよ」


「足手……まとい……」


 勢い込んでいた温泉金魚は、その言葉を聞いてスーッと激情が引いていったように元のショボンとした感じに戻ってしまった。


「千歳さん、そこまでいわなくても……」金魚を気の毒に思った鐘馬がたまらずに意見した。


「だって、あたしたちには時間がないんだよ。最低でももう三つの温泉玉を敵に取られてるんだよ。誰かのせいで地図も向こうの手にあるし、こっちは今圧倒的に不利なんだよ。それに、考えたらわかるでしょ」と、千歳は温泉金魚を上から下まで眺め下ろし、「金魚が秘境を旅できると思う? 断崖絶壁を登ったり降りたりするんだよ。それ、金魚にできる? そのきれいなヒレ、すぐボロボロになるよ。あんたそれでもいいの?」


「……」


 金魚は思わぬ千歳の剣幕に言葉が継げず、少しのあいだおちょぼ口をパクパクさせていたが、やがて、


「……そうですよね」


 と、しおらしい口調でいった。「わがままいってゴメンなさい」


「……よくしてもらったのは感謝してるわよ」


 少しキツくいいすぎたと思ったのか、千歳のトーンが落ちた。


「あんたがそういってくれるのはとってもうれしいけど、でも、守り神を危険に巻き込むなんてあたしたちにはできないんだよ。緑の温泉玉を取り戻せたとしても、万が一のことがあんたの身に起こったら。そのあと『緑の湯』を見張る守り神がいなくなっちゃうんだよ」


「……」


 金魚は神妙になって聞いている。すっかり顔をうなだれ、元気をなくしてしまっている。


「じゃ、あたしたちはそろそろ行くから」


「あの……これからどちらに?」


 そういわれて千歳はグッと詰まった。

 とりあえずあと四つの秘湯を探さなければいけないのだが、どのお湯も場所がまったくわからない。また、もうすでに敵にすべての秘湯を先に回られてしまっているかもしれない。


「わたし……秘湯の場所はすべて知ってます」


 そう金魚がぽつりといった。


「えっ」効太郎が意外の声をあげる。


「それは本当ですか」鐘馬が金魚に聞いた。


「ここから出たことのないあんたがどうして知ってんの?」


「……いえ、守り神ならみんな知ってると思います、たぶん。自分の持ち場を離れられないから直接ほかの湯に行ったことはありませんけど」


「じゃあ、場所、場所教えてくれない?」


 千歳が金魚の両肩を掴んだ。


「千歳さん、金魚さんがおびえてるじゃありませんか」


「あっ、ごめん」鐘馬に注意されて千歳はあわてて両手を離した。


「でも……道順を口で説明するのは、ちょっと難しいです」申し訳なさそうに金魚は頭を掻いた。


「そりゃそうだ」効太郎が同意する。「だいいち秘境には道も標識も目立つ目印もないからね」


「地図でも書いてもらいましょうか」


「書くものがありません」金魚が答えた。


「わかったよ。じゃあやっぱり僕たちと一緒に行こう」


 効太郎がこともなげにそういってみせた。


「えっ、ほんとですか?」金魚の顔がパッと輝く。


「ちょ、ちょっと待ってよ、そんなこと勝手に決めないでよ」


「効太郎さん、いいんですか」


「だって、僕たちだけでここを出たってどっちに行きゃいいんだか見当もつかないんじゃしかたがない」


「それはそうだけど……じゃこの秘湯は誰が守っていくのよ」



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