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その22

「効太郎さん、ありましたよ」


「見つけた?」


「見つけました」


「よかった」


「よかったです」


 うまい具合に適度な隙間があるので、滝に打たれることなくふたりは、いや三人は空洞に入っていくことができた。



      ×     ×     ×



「あ、なんだこれ」


「これが『緑の湯』ですか?」


 空洞の奥まで来た効太郎と鐘馬は、目の前に広がる意外な光景に呆然と立ちすくんだ。


 確かにそこには温泉然としたたたずまいのものがあったが、しかし決してそれと呼べるものではなかったのだ。


 『青の湯』は、すでに表面がスケートリンクのように凍っていた。


「どうやら、とっくに温泉玉を持ち去られたあとみたいだな」効太郎がつぶやくようにいった。


「そのようですね」


「さっきの煉獄の連中、先にこっちのほうに来てたんだ」


「その可能性は高そうですね。それにしても、どうして場所がわかったんでしょう」


「やつら、ひょっとしたら秘湯の地図を手に入れたのかもしれない」


「やっぱりそうなんでしょうか」


「でも困ったな。これじゃ千歳を助けられないぞ」


「困りましたね。せっかくここまで来たっていうのに」


「おい千歳、まだ生きてるか」


 効太郎が背中の千歳に呼びかける。

 返事はない。


「大丈夫です。どうやら寝てるみたいです」


 顔を近づけた鐘馬が報告した。「変ですね。ずっと苦しんでいたのに、ずいぶん安らかな顔になっていますよ」


「いよいよ最期が近いのかな。あれだけの毒にやられてから何もできずにずいぶん時間がたってしまったからね」


 効太郎は空洞の片隅に、ゆっくりと千歳の体を横たえた。

 千歳はされるがまま、だらりと岩の地面に寝そべった。


「確かにただ寝てるだけのようにも見えるけど……」


「そこにいるのは、誰ですか」


 空洞の奥から女性の声がした。


 驚いて振り返ると、人間とは似ても似つかないシルエットがそこにあった。


 少しずつふたりの前に出てくると、それは小学生の子どもほどの大きさがある巨大な赤い金魚だった。

 腹ひれが足の代わりになっており、ホウキで床を掃くような感じで移動している。こちらを腹を見せるかたちで立っている。


 巨大金魚はつぶらな瞳をパチクリさせながら、


「もうこれ以上、ここで何をすることがあるっていうんですか」悲しそうな声でいった。


「ひょっとして、あなたは……」鐘馬が声をかける。「守り神? 『緑の湯』の?」


「私……守れなかった。守り神なのに守れなかった。『緑の湯』を、こんなふうにされてしまった」


 そういうと温泉金魚のちいさなふたつの目から涙がポロポロこぼれ出した。


「そんなに私をいじめてたのしいですか。そんなに私の困っているのを見るのがおもしろいですか」


 とうとうその場にしゃがみ込むと、胸びれで両目を覆ってしまった。


「……この人、何か誤解されているみたいですね」鐘馬が効太郎にいった。


「そうだね。あ、ああと、金魚さん、僕たちは違うんだ。『赤の湯』の温泉亀にここに連れてきてもらっただけなんだ。ここに来るのははじめてだし、ほら、そっちに寝てる人間がいるだろ。毒が体中に回って今にも死にそうなんだ。急を要するんで一番近いこの湯に来たんだ。でも、わざわざやって来たらこのありさまなんで、僕たちもびっくりしてるところなんだ」


 すると金魚は顔を上げ、泣きはらした目でふたりを見上げたが、


「キャッ」


 とまた胸びれで両目を覆った。


「なんて格好してるんですか。とうとう私を襲う気ですか! そうなる前に私、舌噛んで死にます!」


「あ、いや、それも誤解だよ」 ここにきて、はじめてふたりはようやく股間を両手で隠した。



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