盗人
「終わ……り?」
終わりって、なんの?
と疑問に思って首を捻っていると、どん、と通行人に横からぶつかられた。
「あっ」
よろめいて、なんとか体勢を立て直す。
気がつくと、わたしの手からは、銀の容器が消えていた。
やられた!
ぶつかった相手の姿を探す。
人ごみの中、こちらをちらりと振り向いてにやりと口の端を上げる男――。
あいつだ。
「ごめん、必ず取り返すから!」
少年に謝って、遠ざかる犯人の男を追う。
「そいつを捕まえて! 盗っ人よ!」
叫びながら走るけれど、周囲の人たちは「なんだ、どうした?」と顔を見合わせるばかり。
犯人の男は、そんな人々のあいだを素知らぬ顔で悠々とすり抜けてゆく。
それが厄介だった。
必死の形相で走って逃げてくれれば、周囲の人たちにもどいつが犯人か、わかりやすいのに。
加えて、通りには小さな子どもたちの姿もあるから、その子たちのことを考えると、人々を強引に押しのけて走るわけにもいかない。
ただ、この街についてなら、わたしだってある程度は知っている。
男が脇道に入るのを見て、わたしはその手前の路地を曲がった。
シィムの街は、大通りから一歩中に入ると、複雑に曲がりくねった路地が網目のように広がっていて、高低差も激しい。
けれど地元の人間なら、どの道がどこにつながるか、どこを通れば近道かはもちろん把握している。
両側を石壁に挟まれた狭い路地をぐねぐねと進むと、片側の壁がなくなり、低い塀だけになる場所がある。
塀から下をのぞくと、別の路地がはしっている。下の路地までは、飛び降りられない高さじゃない。
そして、その路地をこちらへと歩いてくる男。ときどき、ちらりと自分の来た道を振り返り、誰も来ないことにほっとしているようだ。
「見つけた」
撒いたと思って油断しているなら、大間違いだ。
わたしは塀をひょいと飛び越え、男の前に着地した。