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人助けの疲弊

 もはや、これ以上大きく崩れる心配のないほどに、宿が無残に崩れ落ちた。


「急がないと」

 

ここまで崩れたら、もう、頭上に落ちてくるものはなにもない。

けれど、先ほどまで見えていた入口を塞ぐ瓦礫は、崩れ落ちた二階部分によって埋まってしまった。


「わかってる。だが、俺たちだけじゃあ、時間がかかるぞ」

「でも他に助けてくれる人なんていないでしょ」


見渡す限りが瓦礫の海。


随分と遠くまで見渡しやすくなったのに、まともに機能しそうな人や物を見つけるのは難しい。

たとえ見つかっても、他人のことに構う余裕は誰にもないだろう。


「ま、そうだわな」


 ゲティが腕まくりをしてその丸太の様な二の腕をむき出しにすると、手前にあった瓦礫を軽々と持ち上げ、後ろに放り投げる。


 わたしも、それに倣って瓦礫を掴む。

 ふと、視線を感じて振り返る。


「イオ?」

「なに」


 宿の崩壊に巻き込まれないようやや距離をとり、屈みこんでこちらをぼうっと見ているイオと、目が合う。

  

「手伝ってもらえると嬉しいんだけど」

「おれは手伝いたくない」


「人助けと思って」

「人を助けたいとも別に思わない」


 イオは小さく肩をすくめて見せる。


 それはそうかもな、と思う。


 イオにとってはギルだって会ったばかりの他人だ。

 人助けは消耗する。


 誰だって死ぬときは死ぬし、生き残るときは生き残る。


 所詮、人ひとりにできることなんてささいなことだけだし、それならわざわざ自分が疲弊しながら誰かを助けなくてもいいだろう、と思う。


 他人なら。


 でもわたしの場合、ギルのことを他人とは言い難い。


 だから、諦めるのは疲弊したあとでいい。


「そうね。そこまで頼むのは分をわきまえてない発言だった。イオにそんなことを頼めるほどに、わたしはなにかを差し出したわけじゃないしね」


ふん、と興味なさそうにイオが鼻を鳴らす。

彼がこうして待っていていてくれるだけでもありがたいことだった。


「ありがと」


 わたしはイオにお礼を言うと、瓦礫をどける作業に戻った。

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