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夜明けの轟音

「初耳だ」


 イオがぼそりと呟く。

 まあ、そうだろうけど。

 わたしが勝手に決めたことだし。


「行く当てがないなら、しばらく傭兵団においてもらって、そのあいだに行先を考えればいいと思うの。それに、あそこなら腕に覚えのある人間ばかりだから、変な人に狙われても、そう簡単にイオを攫うことなんてできないし」


 と、考えていたことを伝える。


「それは、俺たちにこいつの盾になれってことか?」


 ギルの声が、どこか険しい。


「そういうわけじゃないけど……」


 途中まで口にして、でも、自分が今口にしたのはそういうことだと気づく。

 その辺のごろつき相手なら、傭兵団のみんなが負けるわけない。

 でも、さっきのロニ――あんなのがやってきたら……。


 もちろん、ロニが襲ってきたらわたしがその相手をするつもりではいるけれど、もしわたしが負けた場合、傭兵団のみんなにも被害が出るかもしれない。


「おれは別に、守ってもらいたいなんて思ってない」 


 イオが主張する。


「でも、イオとわたしが一緒にいようと思ったら、わたしが傭兵団を抜けるか、あなたが傭兵団に入るかの二択だと思うんだけど」  

「傭兵団を抜ける!?」


 ギルの声が、裏返る。


「そう。でもそうね、みんなに迷惑をかけないためには、やっぱりわたしが抜けるほうがいいよね」

「いやちょっと待て、それは――」


 ギルがなにか言おうとしたそのときだった。


 ドオオォン!!  


 轟音が響き、建物が壊れるんじゃないかってくらいの激しい揺れに襲われる。


 即座にわたしはイオの首をひっつかんで床に押し倒すと、その上に覆いかぶさった。


 ミシミシと軋んでいた部屋の窓が、外からかかる圧に耐えきれず、もぎ取られて部屋の奥の壁にぶち当たって落ちた。


 息を殺して、状況が落ち着くのを待ちながら耳を澄ます。


 夜明け前。

 そろそろ起き出す人がいてもおかしくない刻ではあるけれど、なんせ祭りの最中。

 夜更かしをして、寝坊している人や、酒が抜けてなくて起きられない人もいるだろう。


 轟音は一度きり。続く二度目はない。

 離れた場所から、悲鳴が聞こえる。


 頭を上げると、自分の体を盾にわたしたちを守ってくれていたらしいギルと目が合った。


「ギル、自分を大切に……」

「おまえもな」


 全部を言わせてはもらえなかった。


「……ありがとう」


「いや。それにしても、今の音、なんだと思う?」

「……噴火?」


 このあたりに活火山はない。

 可能性は低いと思いながらも、ぱっと思い浮かんだ答えがこれだった。

 そのくらい、激しい音と揺れに感じられた。


「異国に、砲というものがあるって噂を聞いたことがあるが……」

「近くはなかった。それでこの威力。普通の砲とも思えない」


 ギルの言葉のあとに、イオが続けた。 

 どうやら、イオは砲というものを知っているらしい。


 でも、それじゃあいったい、今の音はなんなんだろう。 


 ギルが立ち上がり、破壊された窓に近づく。

 わたしとイオも身を起こした。


 破壊された窓の外に見える空は、白み始めている。

 これなら、外の様子がわかるかもしれない。

 わたしも状況を把握しようと、窓へ足を向ける。


「なんだこれは……」


 ギルの、掠れた声が聞こえた。


 嫌な予感がして、わたしもすぐギルの視線の先を追った。

 そして息を呑む。


 眼前には、瓦礫の山となり果てた、シィムの街が広がっていた。 

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