行先
「どこへ行かなければならないってこともなければ、どこへ行きたいってこともない」
これからどこへ行くのか、っていうわたしの問いに対するイオの返答だ。
「え、そ、そうなの?」
わたしはてっきり、イオは旅の途中で、どこかを目指しているじゃないかと、勝手に思ってたんだけど。
だから、イオが一緒にいてもいいと言ってくれたからには、所属してる傭兵団に抜ける話をつけに行かなきゃな、とかそんな風に考えていたのに。
「概ねは」
概ね……?
曖昧だ。
「え、じゃあ、これからどうするつもりなの?」
「面倒臭いやつにできるだけ関わらずにいられればそれでいい」
面倒臭いやつっていうのは、ロニみたいな、イオを狙ってる人たちのことなのか、それともわたしみたいなののことなのか――。
ひとまず、前者だって仮定しとこう。
「行くあてはない。目的もない。わたしが一緒で構わない。そういうことでいい?」
「……まあ」
イオが渋々というように頷く。
「じゃあ、とりあえずわたしが泊まってる宿に行きましょ」
「はあ⁉︎」
「このまま立ち話ってのもなんだし、夜が明ければみんな動き出すだろうし、人目につくと色々面倒だと思うのよね」
あのあとヴィドルがどうしたかはわからないけど、もしボルドムの仲間にまとわりつかれたりしたら鬱陶しい。
「まあ、別にいいけど」
「それじゃ、決まりね。こっちよ」
わたしは、イオのローブをつかんだまま、歩き出した。




