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用件

 夜も更けた街を、わたしはただあの少年を探して走り続ける。


 お祭り騒ぎは、さすがに幾分おさまりつつあるみたいだ。

 通りから人の姿は減り、あとはせいぜい酒場や家の中で飲み明かしている連中がいるくらいだろう。

 また、日の出とともに、みんな動き出すに違いない。


 日の出までは、まだ時間がある。

 わたしは、少年の姿を見落とさないようにと、注意深く視線を巡らせる。


 ロニは少年をなにかに利用しようとしていた。

 そして、ボルドムを交渉相手に選んだ。

 何故?


 彼に、どんな利用価値があるのか――なんて、あの、人を一瞬で消し去る恐ろしい力以外に、思いつかない。

 でも、そんな力があるのなら、なんで、彼はロニに捕らわれていたんだろう。


 自分に害を成す連中を、全て消し去る――ってわけにはいかない理由が存在しているのか、それともただ単にしたくてもできなかっただけなのか。


 わかったことは、あの力を知っている人は、少なくないということ。

 そしてそのために、あの少年は狙われている、ってこと。

 さらに言うなら、狙われているというのに、あの少年はろくに戦う術をもっていなさそうだということ。


 そんなに無防備で、これまでどうやって生きてきたんだろう。

 彼のことが気になって仕方がない。


 近づかないほうがいい。

 本能はそう警告しているというのに。


 昼間、あの盗人が消えた場所にさしかかる。

 わたしは、足を止めた。

 さすがにこの時間、こんな裏道に人の気配はない。

 少年の姿も、見えない。


 小さく嘆息する。


 わたしと彼との接点といえば、思いつくのはせいぜいこの場所くらい。

 ここでないとするなら、いったいどこへ行ってしまったんだろう。


 城門は日暮れ以降、日の出まで閉じられていて、外には出られないことになっている。――表向きは。

 絶対に出られないってわけじゃない。


 たとえば門番を殺して閉門するとか、城壁を越えて外へ出るとか。

 そういう手段をとれる人なら、外へ出ることももちろん可能だ。

 ただ、そこまでして外へ出る必要性があるのかどうか。そこが問題なわけで。


 ゆっくりと、盗人が転がっていたはずの場所に近づき、屈む。

 石畳に手を伸ばして触れてみる。もちろん、乾いた血の感触なんかない。

 石の冷たさが伝わってくるだけ。


 月光のみがたよりだけれど、石畳の隙間にも、やっぱり血の流れ込んだあとはなさそうだ。

 なにより、血の匂いが少しもしない。


 わたしなんかが太刀打ちできないような、そういう力。

 もっと知りたい。もっと近づきたい。もっと、もっと――。


「そんなに価値があるものだとは思えないけどな」


 背後から声を投げかけられて、わたしは弾かれるように振り返った。


「あなた、どうして――」


 そこに立っているのは、わたしが探し求めていたあの少年だった。


「どうして? あんたはおれがここにいると思ったから、ここに来たんだろ?」

「それは、そうだけど……」

「用は?」


 少年が、短く問う。


「用?」

「おれに用があるんだろ? なんの用だか知らないけど、あんなところまで乗り込んでくるなんて酔狂な奴だ。昼間会ったときも同じこと思ったけどな」 


 酔狂――?

 少なくとも昼間は、職務に忠実に行動してただけのはずなんだけど。


「用はね……」


 もう一度会いたかった。――それだけ。

 あの廃墟で、ロニにもそう答えた。

 この少年も、それを聞いていたはずだけど。


 その理由じゃあ、納得できなかったってこと?


「早く言え」


 悩んでいると、急かされた。

 用、用件……。


「そう、用はね……あなたのそのローブ、臭うから洗濯したほうがいいよ」


 昼間ローブの中で抱きしめられたとき、少し臭ったのをふいに思い出したからなんだけど、そう告げると、場に沈黙が落ちた。


 あ、あれ――? 


 少年はわずかに目を瞠り、数度瞬きをする。

 そして――すごく哀れなものを見るような目でわたしを一瞥すると、無言で踵を返した。

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