関心
「面白くはない」
背後から聞こえた声に、わたしはぎょっとする。
青年に気を取られていて、確認していなかったけれど――。
「どうして逃げてないの!?」
「逃げるって、どこへ」
なんでそんな冷静なの。
「どこって、どこでもいいから――」
キン、と音がして、短剣がわたしの手から離れる。
しまったっ――‼
「余裕だね」
「っ‼」
即座に、わたしは少年を抱えて、そのまま後ろへ飛び退る。
すぐに距離を詰められるかと思ったけれど、青年は動かず、わたしと少年を愉快そうに眺めている。
「なんで、彼がそんなに冷静でいられるのかも、君は知らないわけだ」
青年の言葉は真実で、わたしは一瞬言葉に詰まる。
確かにわたしは知らないけれど。
でも――。
「わたしは、もう一度、会いたかっただけよ」
「その願いは既に叶ったじゃないか。それなのに、まだなにか用があるとでも?」
「それは――」
会ったっていったって、ほんの少しだけだ。
まだろくに話だってできてない。
「そうね。まだ、用済みってわけにはいかないわ」
「だそうだ。君は、ちょっと邪魔にならないところにでもいてくれないか」
青年が、少年に向かって告げる。
「断る」
にべもない返答に、わたしは思わず目をむく。
「なんで!」
「おれはおまえに用なんかない。どこかへ行くのはおまえのほうだ」
――確かに、そうかもしれないけど。
と、ちょっと納得しかけて、いやいやいや、と首を横に振る。
「そういうわけには、いかないのよね」
そんな風に簡単に諦められるのなら、そもそもこんなところまで来ていない。
偶然、会えたのはついてたけど、ここで会えなくても探し出すつもりだった。
「死ぬぞ」
「そのときは、そのときよ」
自分の力が足りなくて命を落とすのなら、仕方がない。
そういう生き方を今までしてきた。
わたしの返事を聞いて、少年が深いため息をついた。
「礼は言わない」
それだけ言い置くと、少年はようやく踵を返し、外へと向かった。
「本当に、面白い」
「面白がってもらえて、光栄だわ」
わたしは死ぬかもしれない。
それでも、闘わなければならないのなら、闘うまで。
わたしは覚悟を決めて、青年と対峙する。
ひとつ、呼吸をした。
次の瞬間。
わたしと青年は、ほぼ同時に動いていた。




