相似
仰向けなのが幸いだった。
拘束されているのが両手だけなのも、ついている。
ボルドムがわたしをゆっくりといたぶりたい様子なのも。
ボルドムの頭が、僅かにわたしの肌から離れた瞬間。
わたしは自分の左足で、ボルドムの体重がかかっている右足を蹴った。と同時に、重心を崩したボルドムの左腿の内側あたりに自分の右足をひっかけて、ボルドムをあお向けるようにひっくり返す。
わたしは素早く起き上がり、なにが起きたのかわかっていなさそうなボルドムの顎を思い切り蹴り上げて吹っ飛ばした。
――青年のいるほうに向かって。
青年がひょいとボルドムを避ける。
その隙に、わたしは床に転がっていた少年の頭を、拘束されたままの腕ですくい上げると、後ろに跳び退った。
「動ける?」
青年から目を離さないまま問う。
「一応は」
短いやりとりをするあいだに、少年がわたしの両手を拘束していた布を、拾った短剣で断ってくれた。
「ありがと」
その短剣を自由になった手で受け取り、少年を背に隠すようにして青年と対峙する。
「おや、取り返されてしまった」
青年が、さして残念そうでもなく言う。
「彼を、どうするつもりだったの?」
「そりゃあ、効果的な使い方をしないとね」
効果的――。
この青年は、わたしより少年のことを知っている。
対してわたしはなにも知らない。
けれど。
逃げて、と背後の少年に小さく告げる。
「彼はわたしてもらうわ」
「残念だけど、それは無理だね」
「なにを――っっ‼」
一瞬、青年を見失った。
見失ったままに、気配と感覚、それに反応して体が動いていた。
ギィン、と手に握る短剣に重い衝撃。
「おや。仕留め損ねた」
息が届くほど近くに、青年の顔。
透けるほどに白い肌に、漆黒の髪。鮮血色の瞳。
口元は笑っていても、笑っていない目。
残念だと言いながらも、残念さの滲まない目。
人間を仕留めることを、なんとも思っていない瞳。
この人は、わたしに似ている――。
青年の動きは見えなかった。
わたしのほうが圧倒的に不利。
今の一撃で充分にわかったのに、わたしは思わず頬が緩むのを自覚する。
「面白い」
呟いたのは、青年のほうだった。




