目的
中に踏み込む前に、近くにある窓の傾いた木戸の隙間から室内の様子をうかがう。
椅子に腰を下ろしているのがボルドム。
その向かいに十代後半と思しき青年がひとり。
それ以外に、立っている男が三人。
男の影になっていて見えないけれど、ボルドムの足元になにかがあるみたいだ。
なにか、取引の話をしているようだ。
先客。
それが、あの青年なんだろう。
面倒だな。
皆殺し――という選択がしにくい。
あの青年が、殺してもいい相手なのか、そうじゃないのか、判断する材料が足りないから困る。
ここからでは横顔しか見えないけれど、漆黒の髪のせいか、一瞬ギルに似ている、と思った。
けれど今年21歳になるギルより少し若そうだし、なにより鮮血色の瞳が、そんな印象を吹き飛ばす。
知っている人間じゃないことは間違いない。
こんなところに出入りするような人間だから、まっとうな稼業をしてないだろうことは用意に想像できるけど。
とりあえず、相手の出方次第か。
まずは、立っている男三人を無力化させる。
わたしは申し訳程度にくっついていた木戸を蹴破り、室内へ飛び込んだ。
そのままの勢いで、手前にいた男を蹴り倒し、その後ろにいた男の顎を掌底で打つ。
残りのひとりが驚きに目を見張ったのち、腰に差したこん棒に手を伸ばそうとしているけれど、男より先にそのこん棒を抜き取って、後頭部に打撃を食らわせた。
残るはボルドムと、黒髪の青年。
青年は椅子に座ったまま動いていない。
ボルドムの動きを封じようと短剣を抜きかけたところで、ふたりのあいだ、床の上にあるものが目に入った。
黒い塊からのぞく、琥珀色。
わたしはぎょっとして、動きを止めてしまった。
体は縄で拘束されている。長い髪のせいで、顔は見えない。
けれどこれは、まさにわたしが探していたあの少年で――。
その一瞬の間が、致命的だった。
防御の反応が遅れた。
腹に衝撃をもろに受けて、体が吹っ飛ぶ。
背中を思い切り、壁にぶつける。
ぐっ、と呻き声が思わず漏れる。
「なんだぁ? 今夜は客がいやに多いなぁ」
椅子から腰を上げたボルドムが、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
失敗した。
わたしは体勢を立て直しつつ、室内の様子を再確認する。
青年は相変わらず動ない。
驚きもせず、興味津々といった風にこちらを眺めているのが、気にかかる。
敵か味方かわからない。
そして床に転がっている少年。
ぴくりとも動かない。
彼は生きているのか、それとも――。
わたしの目的は、彼をここで見つけた瞬間に変わった。
彼の情報を聞き出す必要は、もうない。
彼を連れて、どうやってここから脱出するか。
それだけだ。




