表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/27

ふたつの選択肢

 馬鹿でかい笑い声は、近づくにつれて聞き苦しさが増す。

 突き当りの廃墟。

 その離れをゼム爺は寝床に選んでいた。


 今、男たちの声は離れではなく、廃墟の一階から聞こえてくる。

 灯りなどほとんどないこの一帯にあって、その一室からは光が漏れている。

 随分と贅沢な暮らしぶりをしてるみたいだ。――この場所にあっては。 


 一応、入り口には見張りがひとり立っている。

 見覚えのない顔だ。ボルドムがどこかから連れてきた新顔かもしれない。

 わたしが近づくと、男が下卑た笑みを浮かべた。


「ボルドムに用があるんだけど」


 要件を短く告げる。

 

「金は?」


 わたしは、懐から袋を取り出して、男へ向かって軽く投げた。

 じゃらりと、そこそこ重そうな音を立てて、男の手の中に収まる。

 男はその感触を確認してから、その袋を自分の懐へしまった。

 

「急いでるんだけど」

「悪いが先客がいる。そっちが終わるまでのあいだ、俺が相手をしてやるよ」 


 面倒だな、とわたしは小さく嘆息した。

 こんな程度の奴の相手をしたところで、無駄な時間ばかりかかって、ちっとも目的に近づけないのは目に見えている。


「悪いけど、そんな時間はないの」

「そりゃあ残念だ。それじゃあ、とっととここを立ち去れよ」 

「それは困るわ」

「おまえに与えられた選択肢はふたつだ。おれと来るか、今すぐ立ち去るか」


 こいつを黙らせて、ひとりで中に乗り込む。

 中にいる連中をまとめてねじ伏せて、ボルドムの口を割らせる。

 ――そういう選択肢があることに、気づけない程度の頭しかないらしい。


「残念ね」


 あなたの頭が。


「さあ、どっちにする?」

「あなた……」


 男の頬が緩んだのがわかった。

 

「それじゃあ、こっちに来な」

 

 言われるままに、男に近づく。

 うつむき気味で、瞼は伏せ気味に。

 華奢な体がより一層華奢に見えるように。

 

 男の腕が、わたしの腰に回される。

 廃墟の中は盛り上がっているようで、多少の音がたったところで、気づかれはしないだろう。

 

 わたしはその腕をつかんで捻り上げた。男の体は一回転して地面に投げつけられる。

 

「静かにして。あなたに与えられた選択肢はふたつ。今ここで死ぬか、わたしの用が終わるまで静かにしてるか、よ」 

 

 せっかく選択肢を教えてあげたのに。

 逆上した男が、声を上げて反撃しようとしたものだから、わたしはその男の顎を思い切り蹴り上げた。

 

 男が沈黙する。――強制的に、だけれど。


 わたしは男の懐から金の入った袋を取り戻すと、廃墟の一階へと急いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ