そういう体(てい)で
変わらない光景がそこにあった。
道の片隅で襤褸布に身をくるみ丸くなって動かないかたまり。
あれは、生きているのか死んでいるのか――。
あたりに漂うすえた臭い。
どこかから聞こえる咳の音。どこから痛むのか苦しいのか、誰かの低いうめき声。
ヴィドルのあとに続くわたしに向けられる、好奇の視線。
ヴィドルが煩わしそうに「こいつぁシャーレだ」と告げると、その目がたいがい驚きに見開かれるのはどういうわけなのか。
わたしのことを知らない住人も増えただろうが、昔からの住人もまだまだ多いみたいだ。
祭りの陽気さなんて、まるで別世界の話――。
と思ったけれど、奥まった一角――そう、かつてゼス爺が寝床にしていたあたりから、馬鹿笑いをする声がいくつか聞こえてくる。
やはり、ひとりではないらしい。
ヴィドルがちっと舌打ちをする。
「わかったわ。もう、ここまででいい。ありがとう。あとはひとりで行ける」
「馬鹿言うんじゃねえよ。俺はこれでもここの門番、見張り役だ。おれが事情を説明すりゃあ、多少は話が上手く進む可能性だって――」
「馬鹿はあんたよ。わたしはもう金輪際ここに関わらずに生きていくことだってできるけど、あんたは他に行く場所なんてないんでしょ。わざわざ巻き込むつもりはないわ」
「ここまでおまえを連れてきたってだけで、既に充分巻き込まれてるっつーの」
「わたしはあんたのいない別の場所からここに侵入したし、わたしを見つけたあんたはわたしの挙動を見張るためわたしに接近したけれど、わたしに撒かれて姿を見失った――って体でどう?」
「どうって――」
やっぱり、こんな設定じゃ無理があるかな。
でも、そもそもは、相手がゼス爺だと思ったからヴィドルに話をつけようとしただけなのだ。
ゼス爺は用心深いから、不審者が侵入したらすぐに姿をくらましてしまっていた。その行先は、内部の人間――それも一部の者にしかわからない。
ボルドムがゼス爺の寝床をそのまま引き継いだっていうんなら、そう教えてもらえれば、わたし一人でだってたどりつけた。
どうやらボルドムは、ゼス爺ほど侵入者に神経質なわけではなさそうだし。
「ああ、あんた嘘が苦手なんだったっけ。仕方ないから、嘘を真にしとこっか」
わたしがにっこりと笑いかけると、ヴィドルが不審そうな顔でわたしを見返してきた。
「おま……」
ヴィドルがなにか言い終える前に、素早く後ろに回り込み、首を絞めて気絶させる。
どさり、と意識を失ったヴィドルの体が地面に落ちる。
「ヴィドルは任務を遂行しようとしたけれど、侵入者の反撃にあった――ってことで。もし勝手に起き上がらなかったら、起こしてやってね」
わたしは誰にともなく呟いてから、声の聞こえてくる方をみやった。
さて、さっさと用を済ませて帰ろう。
わたしはぽきぽきと指を鳴らしてから、一歩を踏み出した。




