序1
「両手足もぎとられて痛みに呻きながらとか、全身火であぶられながらとか、毒薬で延々苦しみながらとか――そういうの、できれば避けたいじゃない」
長い銀髪を高い位置でひとつに束ねた少女が、自ら口にした状況に置かれる自分を想像したのか、心底嫌だ、という表情を浮かべながら言った。
「両手足もぎとられたりしたら、案外早く死ねそうだけど。ていうかそんな状態であんたが意識保っていられるのかどうか、不明だけど」
少女と対峙している黒ずくめの小柄な少年がぼそりと呟く。深くかぶったフードの下からは、琥珀色の長めの前髪がちらりと見えるだけで、その表情をうかがうことはできない。
「……ともかく、どうせ死ぬなら、できるだけ楽に死にたいなぁ、って、きっと誰しも考えると思うのよ。特にこんな狂いまくった世界じゃあね」
「世界はたいがいこんなもんだろ。人間はどうしたって同じことを繰り返すし、平和が続けばそのあとにやってくるのは、いつもこんな世界だった」
少女は翠緑色の瞳でまっすぐに少年を見据えているけれど、少年は顔を上げようとはしない。
「そうなのかもね。あなたはそんな世界をずっと見てきたから、もはやどうとも思わない」
「思っちゃいるよ。ああ、またか。って」
「疲れてるのよ」
「そうかもな」
少年は手持ち無沙汰に、首から下げた鎖につながっている、銀色の容器をいじっている。
「できることなら、終わりにしたい?」
「なにを?」
「あなたのその命を」
「できるものなら、な」
「それなら、試してみる?」
少女は、傍らに、刃の背を下にして立てていた大鎌の柄を握り、ひょいと持ち上げた。
ちらり、と少年がようやくわずかに視線を上げた。藍色の瞳で、その大鎌を見やる。
「どうぞ。おれは終わりを願ってる」
少年が、被っていたフードをふぁさりと脱ぐと、琥珀色の美しい髪と、まだあどけなさを残す顔、そして細い首が露わになった。
「一瞬よ」
ふふふ、と少女が笑う。
「きちんと、ここを狙えよ」
少年が首をかしげて、その細い首筋を狙えと示す。
「安心して。そんな細い首、間違ったって失敗しない」
少年は小さく肩をすくめた。
頭を元に戻して、少女と正面から見つめあう。
月下の荒野に立つふたりの身長は、ほぼ同じ。
好きよ。
少女は告げるのとほぼ同時に、大鎌を振っていた。
どさり、と重たいものの落ちる音。
荒野に、琥珀色の美しい髪と、藍色の瞳を備えた小さな頭が転がった。