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第55話 物語の主人公は

 サクヤはクレアを倒すため、空間掌握の能力を代償にして、幻想因子を消費せずグランエグゼの全封印機関を解放し、エグゼファンタズムを起動する。

 これにより、サクヤは神意能力に対しての常時絶対防御能力を得るが、この戦いにおいて、攻撃型の神意能力は一度も使われておらず、あまり意味は無い。


 しかし、対幻想絶対防御領域アブソリュートテリトリーの内側は対神意の能力の影響を受けないため、その中であれば障壁の能力を無制限に使用できる。

 今のサクヤは、神意能力に対する絶対防御と、障壁の能力によるそれ以外への防御能力を有している。

 ただ、障壁の能力には防げる限界があるため、無敵とは呼べなかった。


「その姿は懐かしいな。やっと本気になったってところかい?」

「黙れ!」


 サクヤは真の姿となったエグゼファンタズムをクレアに振り下ろす。

 クレアはその一撃を至高の存在(アリーヤ)で易々と受け止めるが、その顔は苦悶の表情に変わる。


「くっ……! これは、僕の幻想因子が吸い取られているのか」

「はははっ! いいね! その表情が見たかったの!」


 エグゼファンタズム状態での幻想因子ファンタズム崩壊機関ディシンテグレイトの効果範囲は、通常時とは違い、その周囲にも及ぶ。

 それにより、徐々にではあるがクレアの幻想因子は削り取られ、サクヤはエグゼファンタズムを維持するのに差し支えない幻想因子を確保していく。


「クレア様!」

「させるか!」


 その様子を見て周囲の兵達が駆け寄ってくる。それを確認したサクヤは、クレアとの鍔迫り合いを放棄し、その兵達の所へ跳んだ。


「なっ!」

「クレ……ア様……!」


 サクヤはクレアを無視し、その周囲を護る兵達を次々と殺していく。そうする事で、サクヤは幻想因子を吸収し、クレアは総合的に幻想因子を失っていく事になる。


「姑息だねぇ」

「兵を使い捨てにしておいてよく言う!」

「この子達は僕の一部だから問題ないのさ」


 クレアの発言は言った人物によっては問題視されるような言葉だが、周囲の兵達は心からうれしそうな表情で笑っていた。自分達がクレアの一部として扱われるのは、彼らにとっては至高の喜びだったからだ。

 狂信的なまでのその思考は、サクヤにとって薄気味悪ささえ感じるものだが、どこかうらやましくもあった。


「くそっ! くそっ! くそっ!」

「何にそんなにイラついているのかな?」

「うるさい! うるさい!」


 サクヤはクレアがうらやましい。サクヤにはクレアが転生者だとは分からないが、自分もこんな風にこの世界で生きたかったと心から思っていた。

 どこでボタンを掛け間違えたのだろうか?

 そもそも自分の何が悪かったのだろう?

 考えるが答えなど出ない。

 しいて言えば、こんなふざけた物語の登場人物に選ばれてしまった事が運の尽きだったのかも知れない。そんな事くらいしか思い浮かばなかった。


「クレア様を守れ!」

「全軍突撃!」


 苦虫を噛み潰した様な表情で戦うサクヤに、次々と新しい兵達が襲い掛かってくる。

 しかし、エグゼファンタズムにとって、神意能力によって生み出されていながら、大した能力を持たないただの兵達は、幻想因子を回復する為の道具にしかならない。

 それなのに、兵達は止まる事無く襲い掛かってきた。


「無駄だと分からないの!」

「無駄になんてしないさ」


 そんな兵達に紛れて、クレアは何度もサクヤに剣を振るう。しかし、その攻撃はサクヤの障壁の能力に阻まれてしまう。

 その事実を目の当たりにしても攻撃をやめないクレアの行動がサクヤには理解できなかった。


「ゲイル!」

「はい!」


 ゲイルと呼ばれた男は、クレアの声に合わせて、自身の剣をサクヤに叩きつける。その一撃は鋭いが特別威力の高いものではない。しかし、ただの攻撃であるはずはなかった。


「アキュムレイト・リリース!」


 その言葉と共に、サクヤの障壁が砕け散る。

 それは男の持つ剣の特殊能力。その効果は範囲内の対象に対して、自分以外のものも含め一定時間に攻撃された回数×受けたダメージの総合計のダメージを与えるというものである。

 基本的に相手を即死させるほどの攻撃力を持った者が多いシルヴァリオン帝国では、あまり役に立った事のない能力だったが、この場においてその効果は甚大だ。

 サクヤの障壁は、全方位から度重なる攻撃を受けていたため、その殆どが今の一撃で砕け散った。


「加速!」


 障壁を再展開するまでの安全を確保するため、サクヤは超高速戦闘機構ブーストアクセラレーションシステムを発動するが、それに合わせ加速の力を持った神剣の所持者が斬りかかって来る。

 自分と同じ速度で動く相手に背中を見せる事はできず、結局サクヤはその場に止まってしまう。


(まずい!)


 超高速戦闘機構ブーストアクセラレーションシステムはあくまでも高速移動。相手より圧倒的優位な速度で動けるといっても、周囲は停止している訳ではない。

 高速で戦う二人の周囲では、魔法使い達が魔法を発動し、それ以外の兵達が跳びかかって来る様子がゆっくりと再生されている。


 攻撃が届く頃には障壁の再展開は完了するだろうが、このままではまたすぐに先ほどの剣の力で砕かれてしまうだろう。

 サクヤはその状態で行える最大の攻撃を考える。

 答えはエグゼファンタズムが教えてくれた。


 サクヤは、自身の体が傷つく事を恐れず、目の前の加速の神剣使いに体当たりを行う。それに対し加速の神剣使いは落ち着いた様子で、展開仕切れていない障壁の間を狙い、サクヤの右腕に剣を突き刺す。

 それにより、サクヤの右腕は使い物にならなくなるが、そんな事はもうどうでもよかった。

 サクヤはエグゼファンタズムを左手に持ち替えつつ、加速の神剣使いともみ合いになりながら、超高速戦闘機構ブーストアクセラレーションシステムを解除し叫ぶ。


「四精霊の能力を代価に強制解放! 人も大地も神々さえも! 全ては等しく無に帰れ!」

「一斉攻撃!」


 サクヤが何をしようとしているのかはクレア達には分からない。だが、何か途轍もない事をしようとしている事は理解できたため、何かをする前に殺す事を選択した。

 サクヤはその一斉攻撃を障壁と神剣使いの体を利用して防ぎつつ、自らの最強の力を解放する。


幻想因子ファンタズム無差別消滅兵装バニッシャー!!!」


 その漆黒の光は正しく、人も大地も神々さえも全てを等しく消滅させ、光が消えた後、周囲には何も残っていなかった。

 そう、そこにはクレアも、兵達も、神剣も残っておらず、大地も消え去り荒野となっていた。


「はは……ははは……」


 そんな荒野でサクヤは笑う。

 ついにやってやったと笑った。

 しかし、何故だろう。サクヤの心は全く晴れない。何か大切な事を忘れ、間違った事をしてしまったかのような後悔の念が生まれる。


「いやぁ、危なかった。あれがエスタシアを吹き飛ばした一撃かい?」

「――っ!」


 サクヤの心臓はドクンッと跳ね上がる。その時、サクヤの中に生まれた感情は、悔しさのようでもあり、歓喜のようでもあった。

 サクヤは少し震えながら、声の方に振り向く。

 そこに立っていたのは、クレアと空間転移の神意能力者テンリだった。


「主要な戦力の移送が終わって急いで戻りましたけど、ベストタイミングだったみたいですね」

「ああテンリ、君がいなかったら僕の人生は終わっていたかも知れないね」

「もったいないお言葉です。クレア様」


 笑い合うクレアとテンリ。その様子を見れば何が起こったのかは分かる。サクヤの幻想因子ファンタズム無差別消滅兵装バニッシャーは、空間転移の能力により回避されてしまったのだ。

 どれだけ強力無比な攻撃を放とうが、当たらなければ意味がない。それを思い知らされた瞬間だった。

 そして、テンリが存在する限り、幻想因子ファンタズム無差別消滅兵装バニッシャーは今後も当たる事はないだろう。


「さて、これからどうするんだい?」


 クレアは笑顔で問いかけてくる。

 サクヤの最強の一撃を持って引き起こされたこの惨状の中でもクレアは楽しそうに笑う。自分を神に選ばれた特別な存在。特別な物語の主人公だと考えているクレアにとってはこの程度、道中で巻き起こるちょっとしたイベントでしかない。

 あとはこのイベントがどれくらい自分を満足させるエンディングを向かえるのか、それが楽しみで仕方がないのだ。


「はぁ……はぁ……」


 それに対し、サクヤはまるで圧倒的な力を持った主人公に挑む敵役になった気分を味わっていた。

 例えどれだけの力を持っていようと、ご都合主義のような力で最後は倒される。そんな都合の良い敵役。それが自分だとしか思えなかった。


「クレア様……」


 そして、そんな主人公と敵役という立場を味わっている二人に対し、テンリは冷静に状況を確認していた。

 現状、クレアは追い詰められている。

 先ほどまでクレアが戦えていたのは、加速能力を持った神剣のおかげであるが、先ほどの一撃により、その神剣は消滅した。

 テンリの空間転移の能力は、発動までタイムラグがあるため、今の接近した状態で加速されれば、転移開始よりもサクヤの剣が届く方が早い可能性が高い。


 しかし、その事にサクヤは気がつかない。あまりにもクレアの態度が余裕を持っていて、自分がもう少しのところまで来ていると気がつけないのだ。

 テンリは内心、クレアを遠くに連れて行きたいと思いつつも、それを顔に出さないよう必死に押さえる。クレアがこのまま戦う事を望むのなら、それを尊重した上で行動するのがシルヴァリオン帝国の人間の務めだからだ。


「ふふっ」

「はぁ……はぁ……」


 にらみ合う二人。ただ流れていく時間。そして――。


「加速!」

「転移!」


 先に動いたのは制限時間が存在するサクヤだった。

 サクヤは超高速戦闘機構ブーストアクセラレーションシステムを使用し、クレアに向かって突撃する。そのあまりにも速い行動に対し、テンリはクレアを庇いつつ、サクヤの真後ろを指定して転移を開始する。

 例え命を引き換えにしても、転移さえ完了すれば、クレアがサクヤを倒してくれる。そんな信頼がテンリにはあった。だから、恐れず身を投げ出す。


「ははっ……!」


 そんなテンリに対し、サクヤはエグゼファンタズムではなく、傷ついた右腕を突き出す。

 もしここでテンリがクレアを庇わなければ、サクヤはまだ何か奥の手があるのだろうと警戒したかもしれない。しかし、空間転移という圧倒的力を持った人間が身を投げ出すような状況まで来ているのなら、勝機があるとサクヤは思った。


「――っ!」


 テンリは目を大きく見開き危機的状況を理解するが、テンリは戦闘要員ではないので身体能力が低く、サクヤの動きに反応できない。

 もし、この一撃が剣によるものであるなら致命傷だけでも避け、痛みを耐える事で何とかなったかもしれないが、直接の接触という事になると状況は大きく変わる。

 空間転移の能力は、二人以上に直接触れられていると発動する事が出来ない。今テンリは、クレアの体に触れているため、サクヤに触れられると能力が使えなくなってしまうのだ。


「し……ん……い……」


 ゆっくりと動く世界で、サクヤはクレアの口がゆっくりと動いているのを確認するが、何を言っているのかまで確認する余裕はなかった。

 テンリは、サクヤに腕を掴まれ、転移の能力の発動がキャンセルされたのを確認すると、せめて少しでも時間を稼ごうと、サクヤに両手を広げて跳びつこうとする。


「か……い……ほ……う……」


 しかし、神意能力が無ければ一般人と大差ないテンリは、エグゼファンタズムの一振りでその体を白い粒子に変えて消滅していってしまう。

 ただ、世界がゆっくりと動いているため、消滅までかかる時間が予想よりも長く、サクヤは邪魔なテンリの体を殴りつけて押しのける。


「じ……ん……ら……い……の……」


 視界が開け、クレアの姿を確認したサクヤだが、クレアはテンリが押しのけられるまでの間に後ろへと飛び退いていたため、距離が離れていた。

 その距離自体は今のサクヤであれば一瞬で詰められるが、クレアはそれだけでなく至高の存在(アリーヤ)を体の中心で縦に構えているため、頭部と心臓が守られている。

 クレアの衣服は軍勢の能力で呼び出された英霊の物とは違い普通の衣服であるため、幻想因子ファンタズム崩壊機関ディシンテグレイトでは切断できない。その為、クレアを一撃で殺すためには、心臓を無理やり突き刺すか、服飾の無い頭部を狙うしかないのだが、その二つが守られてしまっている。


「の……う……りょ……く……」


 本来の思考加速であれば、自分も周囲もゆっくりと動くため、ゆっくりと確実に狙いを定め、その状態でも問題なく攻撃出来たであろう。

 しかし、現在使用している超高速戦闘機構ブーストアクセラレーションシステム最高加速ラストアクセラレートでは、自分の速度は寧ろ上がっているのでどうしても攻撃は大振りになってしまう。

 サクヤは一瞬躊躇しながらも、的の大きい頭部に狙いを定め、エグゼファンタズムを突き出す。


「ラ……イ……ト……ニ……ン……グ……」


 その攻撃に対し、クレアは現在出来る全力で回避をするが、流石のクレアといえど、その状態ではサクヤの動きに反応しきれず、エグゼファンタズムの切っ先はクレアの右目に吸い込まれ、美しい瞳を切り裂き突き進む。

 だが、エグゼファンタズムはクレアの右目を潰す事は出来ても、その切っ先は脳までは届かず、そらされてしまった。


「ア……ク……セ……ラ……」


 サクヤは反らされた剣を無理やり押し込み、頭部を両断しようとするが、クレアは絶妙な力加減でエグゼファンタズムに至高の存在(アリーヤ)を押し当て、剣身を反らしていく。

 二人が鍔迫り合いをしている間もクレアの口は動き続けているが、自分は早く周囲はゆっくりであるため、余裕のないサクヤには何を言っているのか分からない。ただ、何故か懐かしい感覚だけが生まれていた。


「レ……ェー……ショ……ン……」


 長いようで短い鍔迫り合いの中で、サクヤはついにクレアの抵抗を押し切り、エグゼファンタズムはクレアの頭部を両断した。

 その時、サクヤは勝利を確信したが、次の瞬間それは絶望に変わる。頭部を切断されたはずのクレアが、笑顔を浮かべながら、今までとは比べ物にならない速度で襲い掛かってきたからだ。


「がっ……!」


 雷を纏ったその一撃により、サクヤの体は感電し、意識は保てたものの動く事が出来なくなる。そして、その隙を突いて、クレアはサクヤの両足を切り裂き、エグゼファンタズムごと左腕を斬り飛ばした。


「あっ……ぐ……」


 エグゼファンタズムを手ごと手放す事になり、超高速戦闘機構ブーストアクセラレーションシステムが解除されたサクヤは、両足も失いそのまま仰向けで地面に倒れる。

 文字通り手も足も出ない状態になったサクヤは、自分を見つめてくるクレアをうつろな目で見つめる事になる。


「いやぁ、危なかったよ。もし新しく入った子の神意能力が無かったら、今度こそ終わっていたかも知れないね」


 クレアは失った右目を押さえながらも、サクヤに笑顔を向ける。

 本来であれば、クレアの右目はすぐに回復しているはずなのだが、クレアの幻想因子は既に限界まで減少し、もう本来クレアが単独で保有している分以下の幻想因子しか残っていないため、回復速度は一般的な神意能力者と同程度でしかなかった。


「カナ……タ……」


 その神意能力の効果が若干異なるものの、サクヤにはその神意能力者がかつて殺しそこなったカナタである事が何となく分かった。

 もし、あの時、あの場所でカナタを殺していれば、勝っていたのは自分かも知れない。そう思うとサクヤは言いようのない感情に支配された。


「ふふっ……そう、その子だよ。彼女は今、僕の軍勢の一部として頑張ってる。君は僕を十分に楽しませてくれたから、君が僕に忠誠を誓い、僕のために生きることを望むなら、彼女と一緒に僕の軍勢に加えてあげても良いけどどうする?」


 クレアは二人がどの程度の仲なのかを知らないため、これはただの雑談程度の話だが、サクヤがそれを望むなら、自分の軍勢に加えても良い。クレアは本気でそう思っていた。


「くそっ……たれ……」


 それに対するサクヤの返答はノーだ。ならばクレアのやる事は一つ。


「それじゃあ、最後に残す言葉はあるかい?」

「とくに……ない……」


 至高の存在(アリーヤ)を振り上げるクレアに対し、サクヤはそれだけ答えた。

 その時、サクヤの脳裏にはこの世界に来てからの記憶と、元の世界での記憶が走馬灯のように蘇る。楽しかった思い出は、辛い日々の思い出に押しつぶされ、殆ど思い出すことは出来ないが、この地獄のような日々もやっと終わるのかと思うと、サクヤの心はほんの少しだけ軽くなった。

 サクヤはクレアの振り下ろそうとしている剣を救いの手のように感じながら、その瞬間を待つ。


(やっと……終われる……)


 サクヤは地獄から解放される喜びで静かに涙を流した。













御主人様マイマスターの生命の危機と判断。独自の判断にて神意能力の譲渡を開始します』

「…………は?」


 それは、いつの間にかサクヤの体内に戻ったグランエグゼの声だった。サクヤはその声を聞いて、全身から血の気が引いていくのを感じる。それは決して、傷口から血が流れ出したために起こっているものではなかった。


人造神創造機関エグゼシステム起動。勇者の能力を破棄し、転生の能力の譲渡を開始します。また、この神意能力は病死では発動しないため、安全を考慮し、病気完全耐性の特殊能力の付与も並行して行います。これで、永遠に戦えますね、御主人様マイマスター

「あ……ああ……!」


 リンドブルムでアリアを殺した際に手に入れた、転生の能力エンドレス・ライフ。

 その効果は転生。

 能力者が死亡した際に自動的・・・・・・・・・に発動し、能力者をこの異世界のどこかに記憶と能力を引き継いだ状態で転生させる神意能力だ。

 これが普通の人間であれば、記憶を引き継いで転生できる事は利点でしかない。それにもし、転生するのが嫌になれば、自分で自分の命を絶つことで能力を発動させない事も可能なので、持っていて損のない神意能力である。

 しかし、自ら死ぬ事が出来ず、死を追い求めたサクヤにとって、その効果は間違いなく最低最悪の呪いだった。


『譲渡、及び付与完了しました』

「ああああああああああああ――!!!」

「せめて君の来世が幸福である事を願おう」


 サクヤの断末魔が響き渡る中、クレアは祈りの言葉と共に至高の存在(アリーヤ)を真下に目掛けて突き刺した。

 その切っ先は外れる事無くサクヤの心臓を貫き、その命を奪い、まるで墓標のように地面に突き立てられたのだった。





 こうして、シルヴァリオン帝国建国以来、過去最悪と呼ばれた戦いは終焉を迎えた。

 その後もシルヴァリオン帝国は、生き残った魔物の処理に追われることとなるのだが、それは特に語るほどのものではない。



 この戦いでクレアは決して本気ではなかった。

 それは一種の縛りプレイというものだ。

 必殺技禁止、仲間が一人でも死んだらリセット、初期装備で全クリ、宝箱開封禁止、回復禁止、制限時間○○分内にクリア等々。本来そんな事をする必要が無いのに自分で勝手にルールを作り、その状況下で目標を達成する事に快楽を覚える特殊なゲームプレイ方法。クレアのやった事はそんなものだった。

 それにより、自分の命が危険に晒される事になろうと、決して最初に決めたルールは破らず成し遂げる。クレアはそんな考えでサクヤとの戦い勝利したのだ。

 それはふざけた考えだと思われるかもしれないが、クレアにとっては勝負を楽しむためのごく当たり前の行動だ。だってそうまでしなければ、クレアが戦いを楽しめるほどの相手など存在しないのだから。


「ふふふっ、次はいつ、こんな戦いが出来るかな?」


 今回の戦いの余韻の中でそんな事を考えていると、クレアは自然と笑顔になり、それを見たシルヴァリオン帝国の人間を幸せにした。


 クレアは今、とても幸せだった。

 異世界転生者である自分が、前の世界でしてきた数多の苦しみは、きっと今の幸せを手に入れるための対価だったのだと心から思えるくらい、それくらいクレアは幸せだった。


「あぁ……神様……、僕は今、あなたのおかげで幸せです。この幸せを授けてくださったあなたに心からの感謝を捧げます」


 そうしてクレアは、今日も神に感謝し、この幸せに満ちた永劫の刹那を味わい尽くすのだった。



このストーリー展開は転生の能力を吸収した時点で決まっていました。

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