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第50話 魔王と呼ばれた少女

短くてすみません。

 ――オルゴレン王国。


「ふん! 例の魔王とか呼ばれている小娘が我が国に接近しているだと!」

「はい、如何致しますか」


 オルゴレン王国。幻界の中でもそれなりの兵力を持ったこの国には、魔物の大群程度、難なく蹴散らせるだけの力があった。

 そして更に、サクヤに関する情報は既に、魔道具でクーレンタールから伝えられていた為、オルゴレン国王は余裕の表情を浮かべていた。


「その魔王とか呼ばれている小娘は、反撃はしても国に直接攻め込んでは来ないのだろう? ならば無視しろ。そうすればそのうち進路を変えるだろう。兵達にも普段通りの仕事をするように伝えておけ」

「しっ、しかし! もしクーレンタールに攻め込まなかった事に理由があるなら、今回も同じ様になるとは限りません! せめて城壁の外に兵を配置するべきです! 戦いが始まってからでは手遅れになります!」


 オルゴレン国王の命令に側近の男は、慌てた様子で話す。

 オルゴレン王国の神意能力者や魔法使いは、敵軍に攻勢をかける事には優れているが、防衛線には向いていない。その為、打って出るならともかく、接近を許してからでは真価が発揮できない。

 側近の男はせめていつでも戦えるように準備はしておくべきだと訴えかけた。しかし……


「うるさい! 兵を動かすのもただではないのだ! 無駄に騒ぎを大きくするな! いいか、何があっても絶対に攻撃させるな! 攻撃した者は死罪とすると伝えろ!」

「了解……しました……」


 側近の男は、国王の説得を諦め、兵達にこの事を伝えた。

 それにより兵達からは不満の声が上がったが、元々この国の王はこういった性格であるので、諦めたように命令通り、普段の職務を全うする事にした。


 この時の国王の判断は、半分は正解である。

 サクヤにはこの国自体を滅ぼす理由は無く、この国に神意能力者さえいなければ、それで問題は無かった。


   ◇◇◇


人造神創造機関エグゼシステム起動、封印幻想の譲渡を要求。対象は索敵の能力。破棄は強化の能力」

『了解しました。人造神創造機関エグゼシステム起動、マスターへ封印幻想の譲渡を開始。索敵の能力の譲渡を完了。強化の能力は破棄されました』


 オルゴレン王国の見渡せる丘の上で、サクヤは魔物達と共に国を見下ろしていた。


「神意解放、索敵の能力サーチ・アナライズ」


 そして、サクヤは索敵の能力を発動し、オルゴレン王国を探った。


「神意能力者の反応4。全て王城に集まっている。能力名は……、索敵の能力じゃ分からないみたいね」


 索敵の能力により、サクヤの脳内には国の全体図と神意能力者の位置が浮かび上がっている。更に意識を集中すれば、それ以外の人間の位置を把握し、警備の薄い所を探す事も出来るが、そんな事は必要なかった。


「まさか目の前に魔物の大群がいるのにひきこもるなんてねぇ。よっぽど防衛力に自信があるのかしら」


 サクヤには何故国王がその判断をしたのかは分からない。しかし、分かっている事もある。


「こんな事をされたら、私はあの国を滅ぼさなければいけなくなる。うん、そうだ、あの国の国王の所為で私はあの国を滅ぼさなければいけなくなったんだ。悪いのはあの国の国王なんだ」


 サクヤは虚ろな目で自分自身に言い聞かせる。そうしなければギリギリでとどまっている自分の心を保てないからだ。


「あぁ、国を丸ごと滅ぼすとなるともっと戦力が欲しい。魔物もあまり減らしたくない。だからグランエグゼ、お願い」

『了解しました。人造神創造機関エグゼシステム起動、マスターへ封印幻想の譲渡を開始。竜招の能力の譲渡を完了。重力の能力は破棄されました』


 グランエグゼはサクヤの意志を読み取り、更に神意能力を譲渡する。

 これにより、サクヤに譲渡された神意能力は五個となり、その幻想因子保有量は、他の神意能力者を圧倒していた。


「ははは、ひきこもる事は罪だ。その罪の代償はあなた達の命で償え。レッドドラゴンよ来たれ」

「「「グルアアアアアア!!!」」」


 サクヤのこれに呼応して、その場に30匹のレッドドラゴンが現れる。レッドドラゴン達は他の魔物達とは違い、支配される事なく、自らの意思でサクヤに擦り寄る。


「ふふふ、何ならアークドラゴンでなぎ払ってもいいんだけど、それじゃあつまらないでしょ。だから、遊んであげる。さぁ、ゴブリン達集まって」


 サクヤが手を叩いて呼ぶと、ゴブリン達が集まってくる。

 ゴブリンは弱い魔物で、ここに集まっている魔物の中では最弱に近い魔物だ。しかし、その分数だけは多く、かき集めたゴブリンは今や5000を超えていた。


「クキキッ」


 まったく愛らしくない笑顔で微笑むゴブリン達は、サクヤに導かれるまま、レッドドラゴンの背や足に掴まっていく。その所為で、レッドドラゴンは蟻に群がられている食料の様になっているが、特に気にした様子は見せてこない。


「いい? 空から中に進入したら適当に暴れまわりなさい。何をしてもいいからね」

「クキキ、グキッ」


 ゴブリン達はその命令を受けてうれしそうにする。

 本当なら命令は門を開けろとしたいところだが、ゴブリン程度の知能ではそこまで細かい命令はこなせないので、内側から暴れる事だけに集中してもらう事にした。

 レッドドラゴンについては、従魔の能力で操っている魔物よりも融通が利くので、後から命令を追加する事にして送り出す。


「それじゃあ頑張ってね」

「グルアアアア!」


 レッドドラゴンの中の一匹が代表してその言葉に返事をすると、ゴブリンまみれのレッドドラゴン達は、オルゴレン王国に向かって飛翔する。その姿ははっきり言って美しくないが、実用性を重視した結果なので仕方が無い。重要なのはきちんとまっすぐに飛べている事なのだ。


「うん、じゃあ、他のみんなも行きましょうか」

「「「グガアアアアアア!」」」


 残った他の魔物達は、飛び立ったレッドドラゴンの後を追う様にゆっくりと進軍する。

 その先頭に位置する魔物はアーマードオーガと呼ばれる全身鎧の様な皮膚を持った15メートルの巨人であり、その特技は、固い体と脚力を生かした体当たりによる城門の破壊である。


 空のレッドドラゴンに加えて、そんな魔物を先頭に配置させて歩かせているのを見れば、サクヤの目的が門の破壊だと気が付きそうなものなのだが、何故かオルゴレン王国からの攻撃はまったく無い。

 サクヤはその事を不審に思いながらも、そのまま進む。サクヤの今の精神状態ではどうせ、これ以上頭が回らない。考えても無駄だからがむしゃらに進んだ。


 そして、結局レッドドラゴンが空からファイヤブレスの雨を降らせても、ゴブリンを地上に降ろしても、オルゴレン王国からの攻撃は行われなかった。

 この出来事は後に、史上最悪の愚王の愚行として幻界中に知れ渡る事となるのだった。


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