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第48話 反転攻勢 

人造神創造機関エグゼシステムへのアクセスキーを取得。これより人造神剣グランエグゼへの干渉を開始します)



『は……?』



 またこの展開か、まあいい、相手が神意能力者なら、いくらでもやりようがある。そう思っていたグランエグゼの脳裏に、サクヤの声が聞こえた。しかし、彼女にはサクヤが何を言っているのか理解できなかった。


(全システム解析完了。システム管理者をグランエグゼからサクヤへ変更……完了。システム正常稼動、これより人造神剣グランエグゼの精神へ攻撃を開始します)



『何……を……! うっ……がっ! がああああああああああああああ!!!!!!』



 その瞬間、グランエグゼは頭の中を直接かき回される様な痛みを感じる。

 人間としての自分を捨てた日から、グランエグゼはそういったものとは無縁になったはずだった。それなのに、グランエグゼの精神は今、人間だった頃には考えもしなかったほどの痛みに襲われている。



『痛い! 痛い! 痛い! 何これ! 頭を弄らないで! 壊れる! 壊れるよ! 壊れちゃうよ!』



(今も人間の私が耐えられたんだから、あなたにだって耐えられるよ。頑張って)


 グランエグゼが叫ぶ間も、サクヤは気にせずグランエグゼの存在を書き換え、その機能を自分のものにしていく。

 グランエグゼに干渉するのは、思っていたよりも簡単だった。何故ならサクヤは散々グランエグゼから同じ事をされていたのだから。

 そう、これはやられた事をやり返しているだけなのだ。



『何で……! そっちからは干渉できないようにアクセス制限がかかってるって……! あがっ! もしかしてあいつが裏切ったの! 許せない……! 今までこんなに協力してきたのに! 一緒に神を倒そうって約束したのに! 私は……! 私は……! あああああああああああああ!!! 許さない! 殺してやる! ぶっ殺してやる! あいつも! お前も! 神も! みんな殺して! ああ! あああああああああああああ!!!!!!』



 サクヤがグランエグゼに干渉している間も、時間が停止している訳ではない。今も周囲にはシアと従魔の能力者たちと魔物がいて、サクヤが捕縛結界で弱るのを、いやらしい目で見ながら待っている。早くしなければならない。

 サクヤは静かだが激しい戦いを続ける。


(全工程完了。人造神剣グランエグゼ、再起動)


 そして、サクヤの長いようで短い、グランエグゼへの復讐の時間が終わった。



『あ……あ……、お……おはようございます、御主人様マイマスター。これより私、グランエグゼは、全能力を持ってあなた様を誠心誠意サポートさせていただきます』



 その瞬間、グランエグゼは生まれ変わる。

 そして、サクヤはグランエグゼから奪い取った知識を頼りに、グランエグゼの隠された能力の発動を要求する。


人造神創造機関エグゼシステム起動……! 封印幻想の譲渡を要求!」

『警告、神意能力を譲渡する場合、一つ譲渡する毎に目的の神意能力とは別の神意能力を一つ破棄してラインを繋がなくてはならず、破棄した神意能力は神の元へ還ってしまいます。また、マスターが死亡した場合、譲渡された神意能力も神の元へ還ってしまうので、全てが無駄になる危険性があります』

「いいからやれ!」

『了解しました。全ては御主人様マイマスターのご意志のままに』


 静かだと思ったらいきなり騒ぎ出したサクヤに、周囲の人間は怪訝な顔を向けるが、大して気にしていない。何故なら、彼らの使用している捕縛結界には、魔法の発動を阻害する効果と、少しづつ対象を弱体化させる効果があるため、神意能力者でもないと抜け出せないからだ。

 そして、レッドドラゴンとの戦いから、サクヤが神意能力者でない事は予想が付いている。


『マスターのご意志を確認。人造神創造機関エグゼシステム起動、選択された神意能力、爆発の能力と障壁の能力をマスターへ譲渡。それに伴い、幻影の能力と変換の能力を破棄します。これにより外部付属魔道具兵装サクヤ人造人型神器マスター進化アップグレードします』


 破棄を行った二つの神意能力は、ルキアと出会った直後に封印したものだが、大した使い道もないので破棄しても問題ない。それよりも今は手に入れた二つの神意能力を使う必要がある。


「神意解放……、障壁の能力プロテクト・ウォール!」

「おい! もしかしてコイツ神意能力者か!」

「じゃあ何でさっきの戦いで使わなかったんだよ!」

「不味い! 魔物ども食い散らかせ!」


 従魔の能力者が叫ぶと、周囲にいた巨大な狼の魔物や、オークがサクヤに跳びかかる。しかし、魔物達は空中に固定された透明なガラスの様な障壁に阻まれてサクヤの手前で止まる。

 本来使い慣れていない神意能力をこれほど早く発動させる事は不可能だ。しかし、サクヤにはグランエグゼのサポートがあり、詠唱を肩代わりさせる事ができる。その為、詠唱は最低限で十分だった。


「神意解放! 爆発の能力フィールド・エクスプロージョン!」

「嘘だろ!」

「神意能力を一人で二つ! そんなのまるでクレア――」


 その叫びが言い終わるよりも前に、サクヤの爆発の能力が発動する。

 その爆風は魔物も人間も焼き尽くし、周囲と足元の魔道具を吹き飛ばすが、サクヤは多重展開された障壁に守られて傷一つない。


「アッアァァ……」


 爆煙が収まってくると、サクヤの目に周囲の様子が見えてくる。

 そしてサクヤは、全身が焼け焦げたシアの前に立つ。


「た……ぁ……ぅ……」

「ここにあったのは、あなたの地獄だったわね」


 そう言いながら、サクヤは倒れるシアの頭を力いっぱい踏みつける。

 身体能力が三倍になっているサクヤによってそんな事をされれば、焼け焦げたシアの頭はどうなってしまうのか。

 サクヤはその結果をゴミを見るような目で確認すると、興味を失ったように歩き出す。


「おまっ、お前は何者だ!」


 激しい爆発の中、唯一まともに動ける従魔の能力者がサクヤを指差して叫んでくる。この男は自分が生き残るため、全ての魔物に壁の役を押し付けたのだ。

 それによってこの男は助かったかもしれないが、これではこの男を守るものはいなくなってしまう。男はただ僅かに命を永らえたに過ぎなかった。


「くっ来るな! 来るな!」


 恐怖のあまり腰が抜けてしまっている男に、サクヤはグランエグゼを持ってゆっくりと近付く。

 サクヤはグランエグゼの形成を宣言していないが、グランエグゼが支配下にある今ならば、念じるだけで呼び出す事も可能だった。


「誰か! 誰でもいい! 俺を助けろ! 俺を守れ!」


 男は必死に神意能力を発動するが、残念な事に効果範囲内には焼け焦げた魔物しかおらず、男の神意能力は無いも同然だった。

 何故この場所には他に魔物がいないのか。それは、男がこの周辺の魔物をあらかた支配下に置き、アジトに集めてしまっているからだ。


 この男がせめてもう少し、アジトに近い場所で事を起こしていたら。いや、せめてレッドドラゴンをもう一匹連れて来ていれば状況は変わっていたかもしれない。


「助けて……! 何でも用意する! だから――!」

「なら、あなたの命と能力を頂戴」


 サクヤはそう宣言すると、従魔の能力者の心臓にグランエグゼを突き刺す。男はもがき苦しみながら白い粒子となりグランエグゼへと吸い込まれていった。


『神意能力者の殺害を確認。従魔の能力を吸収、封印します』

人造神創造機関エグゼシステム起動、封印幻想の譲渡を要求。対象は従魔の能力、破棄は氷の能力」

『了解しました。人造神創造機関エグゼシステム起動、マスターへ封印幻想の譲渡を開始。従魔の能力の譲渡を完了。氷の能力は破棄されました』


 三個目の神意能力の譲渡を受けて、サクヤは自分の体に起こっている変化を感じ取る。

 神意能力が一つ譲渡される毎に、サクヤの最大幻想因子保有量は、その神意能力者の最大幻想因子保有量分増加しているのだ。


 現在は最大値が上昇しただけであるため中々自覚できないが、サクヤの幻想因子は本来の限界を超えて、今も回復し続けている。しかも、幻想因子は保有量が多いほど回復が早くなり、サクヤは更に幻想因子回復速度三倍の特殊能力を持っているため、その回復速度は今までとは比べ物にならない。


「これだよ……、これこそが私の望んだ異世界転生なんだよ……」


 サクヤはその事を知り、自分の中が何かで満たされていく幸せをかみ締め、恍惚とした表情で呟いた。


「神意解放、従魔の能力モンスター・テイマー」


 サクヤは幻想因子が回復するのを待ってから、従魔の能力を発動する。

 本来の従魔の能力者が発動させた場合、その効果範囲はそれほど広くなかったが、サクヤが発動させると効果範囲は何倍にも広がっていた。これは、サクヤが神意能力者三人分の幻想因子を保有しているからという事と、グランエグゼがサポートしている事の相乗効果だ。

 そして、強化された従魔の能力は、シア達のアジトの魔物達を捕らえた。


「さあ、新しい御主人様に仕えなさい」


 サクヤがそう呟いた瞬間、シア達のアジトの魔物達はサクヤの元へと集まってくる。

 サクヤは本当ならアジトに残っているシア達の仲間も皆殺しにしようと考えていた。しかし、アジトの魔物達は前の従魔の能力者が死んだ瞬間、支配から解放され暴れまわったらしく、残っていた人間は既に皆殺しにされていた。


 その事を魔物達からの情報共有で伝えられたサクヤは、集まった魔物達と合流し、飛行できる魔物に近くの国を探させ、見つかった国家に向かって移動を開始した。


「ははは……、それじゃあ、このくそったれな世界に、復讐やつあたりを始めましょうか……!」


 そうしてサクヤは、この世界の全てに対する恨みを込めて、会った事も無い人々へ復讐を開始した。

 その先に待っているものが、救いでも希望でも無い事くらい、サクヤにも分かっていた。


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