表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/58

第42話 神剣創造

 魔法を覚え終わり、身支度を整えたサクヤが外の景色を確認したのは、ただの偶然だった。そして、何かが光ったと思った瞬間、ルキアを守るために動き出したのは本能だった。


「ご主人様!」


 ルキアはその時何が起こっているのか理解していなかったが、サクヤの声と表情で何者かの攻撃が迫っているのだと感じ取った。その為、ルキアは最も強力な防御魔法を発動させる。


「魔法アルティメット・テリトリー!」


 サクヤに覆いかぶされたルキアは全方位防御魔法を発動する。もしこの魔法で防げない攻撃ならば、ルキアには対抗策が無い。お願いだから耐えてと願うルキアは、サクヤに抱きしめられながら、迫る光を視認した。それは、大気を切り裂いて飛翔し、二人の横を通り過ぎ、後方の壁に突き刺さる。


 ピキッ


 壁に突き刺さったその物体は、そんな音をさせてひび割れ、中から途轍もない力を解放した。

 爆音が響き渡る。建物が崩落する。人が死んでいく。全てが吹き飛んでいく。


「くっ!」


 アルティメット・テリトリーはその爆発を何とか防いでいるのだが、建物が崩落した事により落下した二人は地面に叩きつけられ、内側から防御障壁に衝突する。まさか、この魔法にこんな欠点があるとは思っていなかったルキアだが、サクヤが庇ってくれたお陰で怪我は無かった。


「かはっ! ごほっごほっ!」


 しかし、ルキアを庇ったサクヤの方は、背中を打ち付けてしまい咳き込んでしまう。だが、痛覚緩和の特殊能力のお陰で、すぐに立ち直り、辺りを見回す。


「なっ!」

「嘘……」


 周囲を見回したルキアとサクヤの目に飛び込んできたのは、爆発により倒壊した建物と、もがき苦しむ人々達の姿だった。

 何故、どうしてこんな事が……。そう考える二人の前に一人の少女――ユカリが現れる。


「うんうん、これくらいは耐えてくれないと困るな」


 サクヤはその声の主が敵だと判断し、解除されたアルティメット・テリトリーの中から跳び出し、グランエグゼを形成しつつ斬りかかる。その時、グランエグゼの対神兵装が発動しなかった為、相手は神意能力者ではないと分かる。先程の攻撃が何か分からないとしても、他が並みの人間ならば、今のサクヤなら十分相手になるはずだった。しかし、ユカリは驚いた素振りも見せずサクヤを値踏みしつつエクスマキナを構える。


「まあ、及第点かな」


 その一撃をユカリは左手のエクスマキナで受け止め、流れるような動作でサクヤを蹴り飛ばす。蹴られたサクヤは冗談の様に簡単に吹き飛ばされ、背後の瓦礫に叩きつけられる。


「サクヤ!」


 その時、ルキアはついサクヤの方を見てしまい、ユカリから目を離してしまう。


「うん、あなたの方はヌルゲーに慣れすぎて警戒心が足りてないな。落第点」


 ユカリはそう告げると、ルキアに向かってエクスマキナを構える。しかし、ユカリは自分に向かってシューティング・レイが放たれた事に気が付き、一歩後ろに下がった。その動作により、サクヤの魔法は簡単に避けられてしまうが、ルキアはその時の音で背後のユカリに気が付き、逃げる事ができた。


「カナタ、アークナイト・フェアリーズ! アリア、ホーリーガード・フェアリーズ!」

「魔法アルティメット・ブースト!」


 瓦礫から跳び出したサクヤは、魔道具アリアとカナタを起動。ルキアはサクヤに究極強化魔法を使用し援護しつつ、次の魔法を考える。


「いいね、そうこなくっちゃ! 創造、人造神剣エグゼブースト」


 グランエグゼによる横薙ぎの攻撃を、新たに呼び出した持ち主の身体能力を強化する人造神剣で易々と受け止めるユカリ。しかし、そこに魔道具カナタの追撃が襲い掛かる。


「ははっ、まだまだ!」


 だが、その程度ではユカリの脅威にはならず、一気に後ろに跳ばれ、距離を離されてしまう。本来ならここでサクヤは更に追撃するべきなのだが、何故かその場に立ち止まってしまった。


「人造……神剣……!?」


 サクヤにはその言葉に心当たりがある。それは自分の右手にあるグランエグゼと同じ物だ。つまりアレはグランエグゼと同質の存在だと言える。


「何してるのサクヤ! 攻撃しなさい!」


 この時、ルキアがその指示を出さなければ、サクヤはユカリについてもう少し考える事が出来たかもしれないが、今のサクヤにはその命令に逆らう自由は無く、言われたままに攻撃を再開する。


「かわいそうに、なんて言わないよっと!」


 ユカリは楽しそうに笑いながら、迫り来る二つの小アークナイトを一瞬で破壊、サクヤに斬りかかる。しかし、その攻撃は小ホーリーガードとアリアによって防がれた。


「私が相手じゃなきゃ、中々良い魔道具だね」


 攻撃が防がれたのを確認したサクヤが、左に跳び攻撃を加えようとしたところ、ユカリは剣に更なる力を込め、アリア達を弾き飛ばしてしまう。幸い、アリア本体には損傷は無いようだが、二つの小ホーリーガードは破壊され、アリア自身も瓦礫に挟まって飛べなくなっていた。


「はあああああ!」


 サクヤはアリアの様子を確認しつつも、そのままの勢いで右下から左上へグランエグゼを振るう。しかし、ユカリはその一撃を左手のエクスマキナで防ぎつつ、攻撃してくるカナタを右手の剣で叩き落した。

 叩き落されたカナタは地面に叩きつけられしばらく転がるが、ヨロヨロと浮かび上がりサクヤの傍に戻る。どうやらカナタの方も一撃では壊れない様だが、これが何度耐えられるかは分からない。サクヤはどうせダメージを与えられないならばと思い、カナタを待機モードにした。


「手加減してるとはいえ、今の一撃で壊れないなんて、どんなもんで出来てんの? その魔道具」


 グランエグゼと違い、それなりの切れ味を持つエグゼブーストでも傷が付けられない魔道具カナタの異常な強度に驚きを覚えるユカリだが、それも、雑魚にしてはやるな程度の感想でしかなく、大して気にせず攻撃を再開する。


「えっと……、えっと……」


 サクヤとユカリがそんな戦いをしている中、ルキアは何も出来ずにオロオロとしている。ルキアは普段、相手が発動した魔法に対抗できる魔法を発動させたり、大量の敵をなぎ払う魔法ばかりを使用している。その為、こんな時にどんな魔法を使うべきか思い浮かばないのだ。

 そして、ルキアという人物は、余裕がある時は問題ないのだが、追い詰められると弱い人間であり、一度焦ると自分一人ではどうにも出来なくなってしまう事が多い。現に今も、ルキアはオロオロするばかりで何も打開策が思い浮かばない。


「創造、人造神剣エグゼアクセル。あなたのご主人様無能過ぎない? アレ酷いでしょ? 殺した方が良くない? まあ、殺すけど」

「ご主人様を脅かす者は許さない!」


 サクヤはユカリの言葉で怒り狂い、力任せの攻撃を放つ。しかし、その攻撃は、エグゼアクセルの速度強化の能力により、速さを増した二刀流のユカリに簡単に弾かれ、更にサクヤは右足と左足を斬られて蹴り飛ばされてしまう。サクヤの足の傷は致命傷ではないが、無視できるほど軽くも無く、サクヤは這い蹲ってしまった。


「魔法ホーミング・シューター!」


 ここにきてやっと魔法を発動したルキアは、そのままユカリの斜め後ろに走る。その位置に移動するのはサクヤを攻撃の射線上に入れないためなのだが、それはつまり、ルキアとユカリの間に障害となるものが存在しなくなる事を意味した。


「ばーか、創造、人造神剣エグゼリフレクター」


 ユカリが左の手の甲を下にして創り出した新たな人造神剣は、エクスマキナの青いクリスタルから切先を先頭にして飛び出し、直接地面に突き刺さり、その能力によりルキアの魔法を本人に跳ね返す。しかし、発動した魔法が追尾系だった為、魔法は滅茶苦茶な軌道を描き、障害物にぶつかり消滅した。


「創造、人造神剣エグゼサイレント」

「――――!」


 魔法が弾かれた事は理解できたルキアは、爆発系の魔法で対抗しようと考え、魔法の名前を叫んだ。しかし、先程のエグゼリフレクターと同じ様に地面に突き刺された、エグゼサイレントの周囲から音を消し去る能力により、その喉からは何の音も出ず、魔法も発動しない。

 そう、この世界の魔法は音声認識による発動しか出来ないため、音が出ないようにされると、魔法が封印されるのと同様の結果になってしまうのだ。


「――――!!! ――!」


 自分の喉から声が出ない理由が理解出来ないルキアは、何度も魔法を発動させようとするが、何の声も出ず、何も起こらない。そして、そんなルキアにユカリが近付く。


「――――!!!」


 ユカリの接近に気が付かないルキアに、サクヤは懸命に声をかけようとするが、こちらも同様に声が出せない。そして、サクヤは斬られた足を無理やり動かしユカリの背中を追いかける。


「ほんと、あなたはつまらない人間だったよ。完全魔法カッコワライの使い手さん」


 音の無い世界で、ユカリのその声だけははっきりと聞こえ、ルキアは声のする方を見た。その時、ルキアは自分の右腕に強烈な痛みを覚えた。


「あ、ああ……、あああああああああ!」


 音が戻った世界でルキアは叫び声を上げる。何故ルキアが叫ぶのか、それはルキアの右腕が斬り落とされ、地面に転がっているからである。


「いたっ! 痛い! なにこれ! 痛い! 痛いよ!!!」


 ルキアは今まで完全魔法による圧倒的優位な戦いしかしてこなかったため、まともな攻撃を受けるのはこれが初めてだった。そして、痛覚緩和を持たないルキアは、腕を切り落とされたリアルな痛みに襲われ、涙を流しながら叫ぶ。

 そもそも、ルキアはこの世界がゲームだと信じていたため、傷を受けるとこんなに痛いなんて思ってもいなかった。こんな痛み、ありえない。そう思うが、それで痛みが消えるはずも無い。


「あああああああ!!! うあ……! あああああああああああああああああああ!!!」


 ルキアが使える魔法の中には、痛覚遮断という魔法もある。しかし、痛みに苦しむルキアは、自分がそんな魔法を使えるという事を思い出す事も出来ない。サクヤは痛みに苦しむルキアに駆け寄ろうとするが、またユカリに蹴り飛ばされ地面を転がってしまう。

 そして、ユカリはルキアの前に立ち、新たに創り出した人造神剣を構える。


 その時、ルキアが考えた事はとても馬鹿げた事であった。


(あっ……、セーブ一度もしてないから……、死んだら最初からやり直しだ……)


 そんな事を考えたルキアの心臓目掛けて人造神剣は突き立てられ、完全魔法の使い手ルキアは、あっけなく致命傷を受ける。ルキアはこれだけの痛みに苦しみながらも、最後の瞬間まで、この世界がゲームだと信じ続けていた。


(そうだ……、このゲームが終わったら……、久しぶりにお兄ちゃんに連絡をしよう……。それで、今度はお兄ちゃんと一緒に……)


 滲む視界と薄れる意識の中で、ルキアは最後に兄の笑顔を思い浮かべ、少しだけ笑って、そして、死んだのだった……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ