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第40話 あの日、君と過ごした日々の記憶は

「さあ、食べましょうサクヤ」

「はい、御主人様」


 ダリル魔道具店での買い物が終わったルキアとサクヤは、その後、他の魔道具店も見て回ったのだが、結局他に良いものは見つからず、魔道具の購入は諦め、魔法書店へと向かった。しかし、幻界の魔法書店は防犯の関係上、商品は基本取り寄せ対応となっているらしく、ルキアは可能な限り注文を済ませ、街一番の高級レストランで食事休憩をしていた。


「ふふ」


 サクヤは食事中も魔道具アリアとカナタをテーブルの上に置き、大切そうに撫でている。それは行儀の悪い行動だが、ルキアは特に注意する事無く微笑ましそうに見ていた。


「なんだかあなたを見ていると、お兄ちゃんを思い出すわ」


 魔道具に夢中になっているサクヤに向かって、ルキアは懐かしいものを思い出す様にポツリと呟いた。その時、サクヤは言葉に出来ない感情が芽生えるのを感じる。


「お兄ちゃん、ですか……」

「そう、私のお兄ちゃん」


 そして、ルキアは目をつぶりながら天を仰ぎ、自分の兄を思い出す。


「私のお兄ちゃんは普段は静かなんだけど、好きなものを前にするとテンションが上がっちゃうタイプで、お気に入りのゲームを買った時とか、食事中にもそうやって眺めたり触れたりする人間だったわ。あっ、そうそうお兄ちゃんはゲームで遊ぶ時、男なのに主人公は必ず女を選んで、そのキャラクターにサクヤって名前を付けていたわね。あなたとお揃いだわ」


 その言葉を聞いた途端、サクヤは自分の心臓の鼓動が激しくなるのを感じる。自分は何か大切な事を忘れている気がする。自分は何か思い出そうとしている気がする。自分は何か思い出さなければいけない気がする。そんな想いがサクヤの中に生まれた。


「何でも自分の名前の一部を抜き出して繋げると、サクヤになるって事で付けていたらしいけど、あれって絶対女性化願望があったのよ。きもーい」


ドクン、ドクンと心臓が更に激しく動く。頭が痛い。体が熱い。目眩がする。そして、何か大切な記憶が蘇って来る。


「でも、お兄ちゃんが大学を卒業して東京に行ってしまった時は悲しかったな。そうだ、このゲームをクリアしたら久しぶりに電話しよーと……、あれ? このゲームってどうやったらクリアなんだろう?」


 サクヤはルキアの顔を見つめる。その顔は記憶の奥底にあるものと一致しないが、その喋り方、性格には覚えがあった。そして、サクヤは蘇った虫食いだらけの記憶から一つの言葉を紡ぐ。


「弥生……?」

「えっ?」


 その単語に対してルキアは強く反応してサクヤを見た。しかし、サクヤはルキアと目があった瞬間、何かに無理やり動かされた様に視線を逸らせる。


「サクヤ、今なんか言った?」

「いいえ、何も……」

「そうだよね」


 ルキアは釈然としないと思いながらも、その話題を終わらせた。何故詳しく聞かないのかというと、今までの経験上、サクヤがこうして話す時は、いくら聞きなおしても答えがもらえないからだ。


(今、私のリアルネームを言われた気がしたけど気のせいよね? だって、このゲームの中では一度も名乗ってないもん)


 ルキアはそう自分に言い聞かせたのだった。



『ちっ! 危なかったですね。この女が妙に私の御主人様おにんぎょうと相性が良いとは思っていましたが、そんな理由がありましたか。まったく、あの人の選ぶ人材は、毎回何かしらの問題がありますね。はあ……、これ以上不測の事態が起きると、どんな不具合が発生するかわかりません。少し勿体無いとも思いますが、この女は処分しましょう。しかし、アルスマグナには所持者を処分する機能がありませんし、彼女を頼るしかありませんね……』



 楽しげに会話をするルキアとサクヤ。しかし、そんな二人の会話を聞きながら、グランエグゼは二人の旅の終焉を告げる者に連絡を取ったのだった。


    ◇◇◇


 ――どこか。真っ黒な空間。


「んっ? グランエグゼから通信? あのが私を頼るなんて珍しいな」


 真っ黒な空間で体育座りをしている少女は、その内容を確認して微笑む。


「ふーん、今回の生贄おにんぎょうは使い勝手が良くて手放したくないね。あの娘がここまで固執するなんて本当に珍しいな。ふふふ、それじゃあ、いっちょ協力してあげますか」


 そう話す少女が立ち上がると、真っ黒な空間に光が生まれ、少女の姿を照らし出す。


 そこにいたのは、青いロングヘアの左側の一房だけを結んだワンサイドアップという髪形をした、深紅の瞳の、サクヤよりやや身長の低い少女であった。そして、その少女は青を基調としたミニスカートのファンタジー衣装に軽鎧といった姿で、何も無い空間に手を伸ばす。


「形成、人造神剣エクスマキナ。さあ、一緒にお仕事と行きましょう」

『形成完了。そうね、一緒に頑張りましょう、ユカリ』


 形成、ユカリと呼ばれた少女がそう言い放つと、誰かの声と共に少女の左腕に刃の付いたガントレットの様な物――人造神剣エクスマキナが現れる。そして、ユカリは呼び出したエクスマキナの中央にある青いクリスタルの様な部分を右側に向け、そこに右手をかざし、更に宣言する。


「創造、人造神剣エグゼリープ」


 そう宣言された瞬間、かざされたユカリの右手にはもう一振りの剣の柄が握られている。そして、その剣はエクスマキナの青いクリスタルから創造され、ユカリによって引き抜かれる。

 ユカリは引き抜いた剣――人造神剣エグゼリープを前方に構え、その能力を発動させる。


「目標、幻想世界ファンタズマゴリア第四大陸。座標確定、空間干渉開始、ゲートオープン!」


 ユカリが右手に握った剣を振り下ろすと、空間が裂け、その向こう側に草原が見える。それはまるで、どこにでも行く事が出来るドアの様な仕組みと光景だった。


 人造神剣エクスマキナ。それは、所持者が想像した能力を持った、人造神剣を創造する人造神剣である。その能力は持ち主の想像力に左右されるものの、神に匹敵する力を秘めていると言っても、過言ではなかった。

 そして、この剣を持つユカリは、元々はサクヤ、ルキアと同じく異世界から来た人間であるが、今は最も優れたエクスマキナの所持者として完成された人間である。そして、完成された存在であるユカリは、サクヤと違い、グランエグゼやエクスマキナに向かって、まるで対等な存在の様に接していた。


「そうだ、どうせならあの娘がお気に入りの人間がどの程度のものか試してみますか」


 ニヤニヤしながら、ユカリは自分の思い付きをエクスマキナを通じて、グランエグゼに伝える。それに対して、グランエグゼからの答えは一つ。


『グランエグゼの所持者の人を、殺さない程度に手加減すれば良いって』

「はいはい、わかってるよそれくらい。ふふふ、少し楽しみかも」


 ユカリは獲物を前に舌なめずりする様な表情で、真っ黒な空間から草原へと移動し、目の前にあるミリシオン王国へと向かったのだった。


この世界では、その国で一番偉い人以外は、ファミリーネームがありません。

例えばクレア・R・シルヴァリオンだと、シルヴァリオン帝国の皇帝クレアという意味になり、R・シルヴァリオンの部分は親から貰ったものではなく、皇帝になった時に手に入れたものになります。

なので、他の人物はサクヤ、ルキア、ユカリ等でフルネームになります。

という説明をどこかでしているはずだと思っていたのですが、読み返して見たら、どこにもそんなものはありませんでした。

やだ、怖い。

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