第39話 ダリル魔道具店
「どうぞ、お入りくださいお嬢さん達」
「ふむ、なかなか良いお店ね」
ダリル魔道具店、そこは薄暗いが整理されていて見やすい店であった。そして、魔道具鑑定の能力を持ったルキアには店内の魔道具がどんな機能を持っているのか分かっている。
そこに並べられた魔道具たちは、全て高度な魔法を覚えなければ作れないもので、ダリルが言っていた事が嘘ではない事を証明していた。そして、それは同時に、それらを作ったダリルが優秀な魔法使いである事も証明していた。
「分かってくれるかい、愛らしいお嬢さん。いやぁ、世の中には見た目なんて気にしないという人間が多いが、僕は内装にもこだわりが――」
ルキアは魔道具の内容に関して良いと言ったのだが、ダリルは店構えを褒めてもらえたのだと勘違いしていた。まあ、ダリルが勘違いしたのも仕方が無い。魔道具というのは本来、見ただけではその機能は分からず、必ず店の人間の説明を聞く必要があるのだ。だから、ルキアがまさか、店の魔道具の内容を把握しているとは思いもしていなかった。
因みに、国に認可されていない魔道具店で買い物をすると、魔道具と偽った偽者を売りつけられる可能性もある為、試しに使用できないタイプの魔道具を買うのは危険な場合もあった。その点、ルキアは絶対に騙される心配が無いので安心である。
「まあ、その話はそれくらいにして、肝心の魔道具の説明をお願いできるかしら?」
「ああ、すまない僕とした事が。それじゃあ、まずはそこの凛々しいお嬢さんの希望を確認しようか?」
ルキアの言葉で店主としての仕事を思い出したダリルはサクヤに尋ねた。ダリルはサクヤの事をルキアの護衛だと思っているので、魔道具を使うのはサクヤの方だと判断していた。まあ、実際その通りである。
「そうですね。接近戦の補助をしてくれる魔道具を希望致します。可能であれば私の動きを阻害しないものが好ましいです」
サクヤはルキアにこういった場合、素直に欲しいものを言うように指示されていたので、ルキアに確認する事無く、必要だと思うものを伝える。そして、それを聞いたダリルは、営業スマイルを作りつつ、二個の魔道具を持ってくる。
「それだとこれがお勧めかな?」
「ぶっ!」
ダリルが持ってきた装飾された細長いひし形の魔道具を見てルキアは驚く。ルキアにはその魔道具がアークナイト・フェアリーズとホーリーガード・フェアリーズの機能を持った魔道具だと分かったからだ。
「んっ? 説明がまだなのに分かるのかい?」
「いえ、何でもないわ」
ダリルは怪訝な顔をするが、ルキアは言い訳するのも面倒で、スルーして会話を続ける。
「それで、これはどういった魔道具なのかしら?」
ルキアが手に取ったのはアークナイト・フェアリーズの魔道具だ。ルキアは内容が分かっているのだが、ダリルの説明を待つ。
「それは、アークナイト・フェアリーズという魔法を元にした魔道具さ。機能は自律支援で、起動すると持ち主と敵対している相手を自動的に攻撃してくれるんだ。凄いだろ!」
確かに凄い。ルキアは完全魔法のお陰で何の苦労も無くこの魔法が使えているが、本来アークナイト・フェアリーズは高度で一流の魔法使いでも使える者は殆どいないのだ。それを魔道具として販売している店など、この幻界でもここぐらいであろう。
「因みに、こっちはホーリーガード・フェアリーズの魔道具だ。こちらもアークナイト・フェアリーズと同じく自律支援型の機能を持っている。ただし、こちらは攻撃ではなく自動防御になる」
「凄いわね……」
ルキアはあまり突っ込むとまた墓穴を掘りそうなのでそれだけ呟いた。そして、ダリルはそれを凄すぎて言葉が出ないのだと解釈した。
「そうだろう、そうだろう。あっ、よかったら試しに起動してみなよ」
そう言ってダリルはホーリーガード・フェアリーズの方をサクヤに差し出す。
「良いの? 戦闘関係の魔道具は基本試用出来ないって聞いたけど」
戦闘関係の魔道具が試用出来ない理由は、その魔道具を使って店主を殺し、逃走するという事件が昔に頻発したからである。しかし、ダリルは笑顔で大丈夫と言った。
「まあ、その魔道具は防御用だし、敵がいなければただ浮いているだけだからね。それに、僕はこれでも強いからね。仮にアークナイト・フェアリーズを使われても対処できるよ」
ダリルの言っている事も最もだ。ルキアに比べれば劣るだろうが、この魔法を使える人間が弱い訳が無い。これ以上確認する必要も無いのでルキアはサクヤにホーリーガード・フェアリーズを受け取るように指示する。
「起動するにはホーリーガード・フェアリーズ起動でいいよ」
「分かりました。ホーリーガード・フェアリーズ起動」
サクヤがそう宣言すると、手に持ったホーリーガード・フェアリーズの魔道具が浮かび上がり、グランエグゼと同じ様な仕組みで装甲が開く。そして、開いた部分から二つの光の玉が現れ、本体と一緒にサクヤの周囲を飛び回る。
「これで起動状態になったよ。その二つの玉は壊れても、本体に触れてもう一度起動を宣言すれば再生成可能だ。ただし、本体に比べて防御能力が低くなっているの壊れやすくもある」
そう言いながら、ダリルが手元にあったペンを投げると、光の玉が自動的に防御する。本体が壊れると消滅する関係上、光の玉が優先的に守るようになっているようだ。
「元になった魔法は一回の発動で同時に10個の光の玉を呼び出せるんだけど、それだと魔力の消費が激しすぎて使い難い。だからこの魔道具は、数を少なくして扱いやすくしているんだ。ただ、それでも結構幻想因子を使うから注意してね」
ダリルにそう説明されたが、サクヤは自分がどれくらい幻想因子を使っているのか判断できないため、消費量がどれくらいか判断できない。まあ、幻想因子が枯渇寸前の倦怠感は無いので、そこまでではないと判断する。
「サクヤは大丈夫そうね。それで、もう一つの方も同じ様な使い方になるのかしら?」
サクヤの様子を見て大丈夫だと判断したルキアは、アークナイト・フェアリーズの魔道具の方を手に取りサクヤに渡す。ダリルはこの時、攻撃型の物は試用させられないと言ってもよかったのだが、この二人ならば大丈夫だろうと思い黙っていた。
「えっと、それでは、アークナイト・フェアリーズ起動」
サクヤが起動を宣言すると、アークナイト・フェアリーズの魔道具はホーリーガード・フェアリーズの魔道具と同じ様に装甲を開きながら浮かび上がり、羽の生えた光の玉を二つ生み出す。そして、二つの魔道具と四つの光の玉はサクヤに甘える小動物の様に周囲を飛び回る。
「ふむふむ、二つ同時に起動してもお互いを邪魔しない様に行動するのね。便利だわ」
ルキアは魔法として使った時は問題無くても、魔道具として使うと誤作動するのではないかと心配だったが、杞憂だったようだ。そして、ダリルはそんなルキアの様子を見て、満足してもらえたのだと判断した。
「アークナイト・フェアリーズの方は、本体の安全を考慮して、光の玉の方しか積極的に攻撃しないようになっているよ。まあ、頑丈に作ってあるから、本体も強力な魔法や神意能力の直撃を受けない限りは大丈夫のはずだけどね」
この男はなかなか分かっているなと思いながら、ルキアはサクヤを見つめる。普段サクヤは感情を表に出さないのだが、今のサクヤはうれしそうで、この魔道具を気に入っていると分かった。そして、ルキアはこの魔道具の購入を決める。
「うん、良いんじゃないかしら」
「それではご満足いただけたようで、早速お値段をお伝えしようか」
ダリルは両手を広げながらにこやかに告げる。これだけ高性能な魔道具だ、値段もそれなりのものになるだろう事は予想できた。そして、ダリルはニヤニヤしながら口を開く。
「ズバリ白金貨500枚だ!」
白金貨500枚、それは約50億円に匹敵する金額である。幻界というこの場所で、それだけの大金があれば一年間小さい国を運営できるレベルである。そんな大金を道端で声をかけた相手に要求するとは、ハッキリ言って頭がおかしいとしか思えない。
「まあ、冗談は――」
「はい、白金貨500枚」
冗談はそれくらいにしてと言おうとしたダリルの前にジャラジャラと音を立てながら白金貨500枚が置かれた。そんな量の金をどこに持っていたのかとも思うかもしれないが、ルキアはサクヤの鞄の元になった魔法やその強化版の魔法も使えるので、大量の荷物ごと金を全て異空間にしまい込んでいるのだ。
「へ……」
この状況に一番驚いているのはダリルである。ダリルはあくまでも冗談のつもりでその金額を告げたのであって、本当にその金額を請求するつもりは無かった。しかし、実際に払われてしまうと今更それを伝えるのも気が引けた。その為――。
「まっ、まいどありー」
ダリルはそのまま大金を受け取る事にしたのだった。
「ありがとうございます。ご主人様」
「大切にしなさいね。サクヤ」
そんなダリルの葛藤など知る由もなく、ルキアとサクヤはちょっとしたお買い物感覚で話をしている。それを見たダリルは、目の前の少女達が想像以上に大物であると理解できた。
「そっ、そうだ。魔道具の発動宣言についてだけど、魔道具は同名の魔法と競合しないように、発動に必要な言葉を増やす事が出来るんだ。その二つだと最後の起動の部分がそれにあたるんだけど、よかったら好きな言葉に変えてあげるよ」
それは、魔道具の製作者のみが可能な調整だが、普通はこんなサービスは行われていない。しかし、ダリルはお金を貰い過ぎてしまった分、何かサービスをしてあげないと気がすまなかった。
「へぇ、そんな事出来るんだ。サクヤ何か希望はある」
「そうですね……」
急に聞かれても思い浮かばないといった顔で悩むサクヤ。ダリルはそんなサクヤに助言を与える。
「例えばダリル、アークナイト・フェアリーズって設定すれば、ペットに名前を付けてあげたみたいになって、その魔道具に愛着が持てる様になるからお勧めだよ」
ダリルはそう言うが、戦闘用魔道具は消耗品である為、過度な愛着を持つのは危険であった。しかし、言われたサクヤは何か思いついたようで、はっとした顔でダリルに視線を合わせる。
「それでは、アークナイト・フェアリーズにカナタ、ホーリーガード・フェアリーズにアリアという名前を付けてあげてください」
そう言い放ったサクヤの表情は、目にこそ光は無いが、とてもうれしそうで可愛らしく、ダリルも思わずドキリとしてしまった。
「カナタとアリアね、分かった。それじゃあ、設定してくるから、アークナイト待機モードとホーリーガード待機モードって言ってくれないか?」
サクヤが言われたとおりにすると、二つの魔道具は光の玉を収容し、最初の状態に戻りサクヤの手の中にゆっくりと乗った。そして、サクヤは名残惜しそうにその二つをダリルに手渡す。
「うん、ありがとう。ちょっと時間がかかるから待っててね」
ダリルはそのまま店の奥に入り、作業を開始する。ルキアはそんなダリルの行動を無用心だなと思いながら、サクヤに話しかける。
「ねえ、サクヤ。カナタとアリアって何か特別な意味があるの? 知り合いの名前とか?」
ルキアが疑問に思ったのは、その二つの名前があまりにもスラスラと出てきたからだ。ルキアはゲームでこういった単語が出た場合、何か特別な意味があるのではないかと調べてしまうタイプなのでどうしても気になったのだ。
「いえ、何となく思いついた名前です」
「そう? その割にはうれしそうだったけど……」
ルキアは色々と聞きたいとも思ったが、サクヤの考える自由を奪っているのは自分自身だし、ゲームの世界ならただのランダム設定かもと思い、それ以上は問い質さない事にした。
そして、ダリルの作業が終わるのを待っている間、ルキアは店内の魔道具を眺め、その中から気になるものを発見する。
「これもあなたに良さそうね」
そう言ってルキアが手に取ったのは、クイック・ブーストという魔法が込められた魔道具である。この魔法は、前方向短距離加速魔法なのだが、強制的に前方向に移動するため、壁か攻撃に突っ込む危険のある魔法である。しかし、サクヤが覚えたゼロ・インパクトとの相性は悪くないとルキアは思ったのだ。
「いえ、その魔道具はその……、付けられません」
しかし、サクヤはその魔道具を付ける事を拒んだ。それは、この魔道具が靴の形をしているからだ。
魔道具を発動させるには素肌で触れなければならない。その為、靴型魔道具を使用する場合は素足で靴を履く必要がある。しかし、サクヤはエスタシアで貰った衣装のままのため、下は黒タイツを履いているのだ。これでは魔道具が使用できない。
この問題を解決するには、タイツを破けばいいのだが、このタイツには修復の機能が備わっているので、他を直した際に一緒に塞がってしまうという新たな問題が発生してしまう。
まあ、そもそもタイツを脱げば問題の無い事なのだが、サクヤはこの衣装に愛着があるようで、ルキアが新しい服を買ってきても着替えようとしない。結果、この魔道具を使いこなすのはサクヤには無理だった。
「そう……、まあ、確かにそうかもね」
ルキアはサクヤの考えを理解して勧めるのをやめたが、それを考慮するとサクヤは上も長袖で、両手はグランエグゼとペネトレイターで埋まっているため、魔道具が装備できる場所が少なすぎる。ルキアはサクヤに無理やり着替えるように命令してもいいのだが、あまりにも無理な命令をすると動作が鈍くなるので、そこまで強要できなかった。
(まあ、現状もそれなりの仕事はしてるし、あの魔道具を買ったら十分戦力になるからいいか)
ルキアは最初に良いものを手に入れてしまったので、他の魔道具を探す気にもなれず、サクヤにこれ以上魔道具を装備させるのは諦めて、これからは適当に魔法を覚えさせて強化させる事に決めた。そして、ルキアがそんな事を考えているとダリルが作業を終えて帰ってくる。
「お待たせ、設定が終わったよ」
ダリルは薄っすらと汗をかきながら、やりきった顔で魔道具を差し出してくる。本人は特に説明してこないが、どうやらこの作業は簡単なものではなかったらしい。
サクヤはそんなダリルから二つの魔道具を受け取り、目から涙を滲ませなが我が子を抱きしめる母親の様に二つの魔道具を優しく抱きしめた。
「これからは、ずっと一緒に頑張ろうね。カナタ、アリア……」
その言葉を聞いてルキアは、やっぱりなんか秘密があるんじゃないかと思ったが、この世界がゲームなら、そのうち関係するイベントがアンロックされるかもしれないと考え、楽しみにしておく事にした。
そんな二人を眺めるダリルの手には、何やらベルトの様なものが握られている。
「これはもう一つのおまけさ。このベルトのフックは特殊なものになっていて、二つの魔道具を引っ掛けられて、その上魔道具が発動すると自動でフックが外れるようになっている。これなら持ち運びし易いだろ」
ダリルはベルトの説明をしながら、それをサクヤの腰に巻きつける。そして、ベルトに付けるチェーンの金具の様なもので、二つの魔道具をサクヤの腰の左右に付けた。その見た目はなんと言うか、拳銃のホルスターを思い出させる感じだった。
「魔道具を発動させないで外す時はこうやって外すんだ。これ以外の方法だと外れないようになっているから激しく動いても大丈夫だよ」
それを聞いたサクヤは取りあえずその場でジャンプして付け心地を確認している。その時、ルキアはジャンプしてもフックで引っ掛けられただけのはずの魔道具が揺れていない事に気が付く。そして、ルキアがベルトをよく確認してみると、それは物体の位置を固定する類の魔道具である事が分かった。
「なるほど、よく考えてあるわね」
「そっ、そうだろ」
ダリルはルキアに適当な返事をしつつも、その視線はサクヤの揺れる胸に釘付けにされていた。サクヤ程の巨乳がその場ジャンプをすればそうなるのは当然で、ダリルは役得だなと考えながら、その光景を脳裏に焼き付けていた。
「……ごくり」
「ちょっと、それくらいでやめなさい」
ルキアにそう忠告され、すでにジャンプをやめたサクヤの胸を凝視していた事に気が付いたダリルは、笑って誤魔化しながら、魔道具の説明を再開する。
「あはは、そっそのベルトは魔道具になっているんだけど、10日に一回程度触らないと効果が切れてしまうから気をつけてね。まあ、その位置なら毎日触るだろうから大丈夫だろうけど」
このベルトの様に、常時起動型の魔道具は基本的に起動用の言葉を教えてもらえない。何故ならこのタイプは常時起動の能力を持っている代償に、効果が切れると壊れてしまうからである。
実際、サクヤの異空間鞄は、四日間の拘束によりタイムリミット内に触る事が出来ず、中の荷物を辺りにぶちまけて壊れてしまっていた。それにより、その鞄が魔道具だったと気が付いたならず者のリーダーはとても悔しがったのだが、それはもうどうでもいい話である。
因みに、その時ぶちまけられた荷物の一部は、ルキアがサクヤに会う前にドロップアイテムとして回収し、自分の物にしていた。
「それで、お嬢さん達。他に何か欲しい物はあるかな?」
ダリルは魔道具の受け渡しが終わったので他の魔道具を勧めてきた。しかし、他の魔道具はサクヤの好みに合わず、結局二人はそれだけを買って帰る事にした。
「ありがとう、良い買い物をしたわ」
「ありがとうございます」
美少女二人にお礼を言われて、ダリルは頬を赤くしながら頭をかいた。
「いや、こちらこそ良い商売が出来たよ。ありがとう」
ダリルはそう言って手を振りながら二人を見送り、ルキアとサクヤはそのまま見えない所まで行ってしまった。
「はぁーーーーーー緊張した。なんで僕がこんな事をしないといけないんだ」
二人がいなくなった途端、ダリルは大きなため息をつく。そして、そこにいるダリルは先程までの営業スマイルが嘘の様に、不機嫌そうな顔をしていた。
「そう言いながらも役得とか思って胸を見てたんでしょ。いやらしい」
そんな豹変したダリルの横にいつの間にか一人の女が立っていた。その女はクレアとの戦いの際に現れた消滅の能力者エリスだった。
「ダリルって胸の大きい女が好みだったのね、クレア様に言ってやろ」
「ままっ、待ってください! 違います! 男って生き物はなんと言うか好みに関係なく、揺れているものがあるとつい見てしまうんです!」
エリスの発言にダリルは焦って言い訳をする。何故なら、クレアは見た目こそ愛らしいが、胸の方は絶壁だからである。もし、ダリルが巨乳好きの情報がクレアに知られたら、ダリルはクレアに嫌われてしまうかもしれない。それは、クレア親衛隊にとって耐え難い苦痛であった。
「ふーん、まあいいわ。許してあげる」
エリスはニヤニヤしながらそう言った。その顔を見たダリルは、きっと今後事ある毎にこの話題でからかわれるのだろうなと思い、更に深いため息をついた。
「その話はもういいとして、何故クレア様はあの少女にあんな最上級の魔道具を渡すように指示したのでしょうか? 正直あの少女にクレア様が気に入るような力があるとは思えませんが……」
サクヤが手に入れた二つの魔道具、それはクレアの指示によって作られたこの世に一つしか存在しない魔道具である。そして、この魔道具はその本体の材料として、大陸を分断するマギカ・ラインの材料にもなっている幻想鉱石を使用している。
幻想鉱石、それは特殊な方法で幻想因子を流し込むと、その量によってあらゆる攻撃に対して強度が増す特殊鉱石である。そして、そんな鉱石を使って作られた二つの魔道具には、クレア自らの手によって大量の幻想因子が注ぎ込まれ、尋常ではない強度に強化されていた。
これほど手の込んだ魔道具など、シルヴァリオン帝国の精鋭部隊でさえ与えられていない。そんなものをクレアからの贈り物だと気が付かれない様に、サクヤに渡せと命じられたダリルは、当然の様にその疑問を口にした。
「さあ、クレア様のお考えは私には分かりませんから」
エリスはそうやってとぼけるが、実際にはサクヤとの戦いに参加したシルヴァリオン帝国軍の人間には、その理由が分かっていた。しかし、この事は他の人間には秘密にするようとクレアから命令されているエリス達は、他の人間にその事を教える訳にはいかないのだった。
「それは置いておいて、ダリル、あなたそのお金どうするつもり?」
「うぐっ、それは……」
ダリルはそうつっこまれて言葉を濁す。当初の予定では、あの魔道具はとんでもない安値で売り渡す手筈になっていたのに、ダリルが余計なアドリブをした所為で、大量の金が手元に残ってしまったのだ。
「これって、不味いですかね……?」
「うーん、クレア様は売ったお金は報酬としてダリルに渡すって言ってたから大丈夫だと思うわよ。問題があれば私が回収するからしばらくは使わずにとっておきなさい」
「わかりました……」
ダリルは使う事ができない大金を重いと思いながらもしっかりと回収した。そして、エリスとダリルは持ってきたその他の魔道具も全て回収すると、店の奥で拘束されていた本来の店の主を解放し、シルヴァリオン帝国へと帰還する。
「それにしてもあの娘ってあんな感じだったかしら? ちょっと雰囲気が変わっていたような?」
エリスはそんな事を考えていたが、基本エリスはクレア以外に興味がないため、それ以上追求する事はなかった。
こうして、サクヤは二つの魔道具がクレアからの贈り物だと気が付かずに、大切にするのだった。
製作中の独り言
あれ、異空間鞄を時間経過で壊れた事にしたけど、そもそもクレアに対魔の能力使われた時点で壊れてないとおかしいんじゃない?
やばい、やばい、やばい、やってしまった。でも、なるべく内容の変更はしたくないしどうしよう……。
よし、そっとしておこう。
という葛藤があったりしました。




