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第36話 ある日、ゲームの世界に入ってしまった私は、チート能力を駆使していろんな意味で好き勝手に生きる事を決めたのだった。

 ――ゼノヴィア王国、ルキアとサクヤが泊まっている宿屋。


 異世界転生者ルキアは、サクヤが自分と同じ異世界転生者である事に一切気が付かず、今日もサクヤをゲームの登場人物だと信じて、従わせていた。


「そう言えば、サクヤ。その籠手型魔道具の調子はどう?」


 そう言いながら、ルキアは自分が改良を施した、サクヤの左腕の魔道具に触れる。


「良好でございます。この魔道具は私の剣との相性もよく、今までで最高の魔道具だと判断しております」

「うんうん、それは良かったわ。他にも改良したい魔道具があれば自分から言いなさい」

「畏まりました」


 籠手型魔道具ペネトレイター、この魔道具は本来、1メートル程の杭の様なパーツを至近距離から相手に打ち込む為の魔道具である。しかし、ルキアによって改良されたこの魔道具は、杭の部分にグランエグゼを填められる様に調節され、本来杭が飛び出さない様にするストッパーが外され、グランエグゼを撃ち出せる射撃武器に変化していた。


 手持ちの武器を飛ばしてしまう。これを普通の武器で行った場合、武器を使い捨てにしてしまう愚かな行為となってしまったであろうが、再形成を可能とするグランエグゼならば、その欠点は無いも同然だった。そして、この魔道具を使用する事により、サクヤは遠距離からグランエグゼで神意能力者を攻撃する事が可能となり、戦闘が飛躍的に楽になったのだった。


「それじゃあ、魔道具の話は置いておいて、魔法書を使って魔法を覚えさせてあげるから準備しなさい」

「はい、ありがとうございます」


 サクヤはルキアに促されるまま椅子に座り、目の前に並べられた五冊の魔法書を眺める。


「サクヤは正直言って魔法の適正が高くない。だから今回の魔法は消費が少なくて扱いやすい魔法にしておいたから、うまく使いこなしなさい」

「お心遣い痛み入ります」


 サクヤはルキアに感謝の言葉を述べつつ、魔法を習得していく。今回サクヤが覚えた魔法は以下の通り。


魔法ダブル・ジャンプ:空中で足場を作り二段ジャンプ出来る。一回一回発動を宣言しないといけないので、連続使用は難しい。


魔法シューティング・レイ:長距離砲撃魔法。派手さは無いが威力、射程、消費のバランスが良い。


魔法シールド:大した防御力は無いが、文字数の関係もあって発動が早く使い易い前方小範囲防御魔法。


魔法ゼロ・インパクト:掌で触れた部分に衝撃波を発生させる。威力は高く魔力消費は少ないが使い辛い。


魔法スペル・ブレード:何も持っていない手に光の剣を召喚する。魔力消費は少ないが切れ味、強度は一般的な普通の剣並。


 ――以上。


 ルキアの使える魔法の中で、これらの魔法はかなり弱い魔法である。正直言って、自由に魔法が記憶できる白紙の魔法書を使ってこれらを覚えさせるのは、かなり勿体無い。しかし、ルキアは金を余るほど持っており、強力な魔法は自分で使えば良いと思っているし、サクヤには敵のかく乱と神意能力者の相手だけしてもらえれば良いと考えているのでこれが妥当だと感じていた。


「この力、必ずご主人様のお役に立てて見せます」


 魔法を覚え終わったサクヤはそう決心し、心から敬愛する主であるルキアに微笑みかけた。


「ふふ、がんばりなさい」


 それに対してルキアは、このゲームのキャラクターはまるで生きている人間みたいに行動して凄いなぁ、と感心しているのだった。


    ◇◇◇


 ゼノヴィア王国。この国は今、勝利者とは思えないほど悲しい空気に包まれていた。

 先の戦い、ゼノヴィア軍はルキアの助けもあって、勝利する事は出来た。しかし、それまでの間に受けた被害の数は決して軽いものではなく、七万人もの戦死者を出したクルツは、帰還した次の日には処刑台に吊るされる事になった。


 当初、国民の中にはこれだけの被害が出た原因は、ルキアがすぐに助けに来なかったからだと言い出す者もいたが、国王がルキアの参戦を拒んだのは処刑されたクルツであり、彼女を責める者は同じ処刑台に上がってもらう事になると宣言した為、その訴えは恐怖によって沈静化された。

 それからというもの、ゼノヴィア国民はルキアに対して王族相手にも等しい態度で接し、結果ルキアは上機嫌でゼノヴィアに滞在していた。


「あっ、ルキア様おはようございます。今日もお美しいですね」

「ルキア様、ごっ、ご機嫌麗しく……」

「ルキア様ー、お父さんの仇をとってくれてありがとうー!」

「やっ、やめなさいこの子は!」


 しかし、国民はルキアに対して内心、早くこの国から出て行ってくれないかと考えていた。


「ふふふ、この国の人達は私の魅力が良く分かっているらしいわね」

「当然でございます」


 そんな国民の心の声など知る由も無いルキアの態度は、国民を更に怯えさせているのだが、国民の恐怖の対象はルキアだけではない。サクヤもである。


「ねぇ、あの人怖いよ」

「駄目よ見ては……!」

「何なんだあれは……」


 サクヤは基本的に、ずっとルキアの後ろを歩いているだけなのだが、その瞳は虚空を見つめており、生命を感じさせず、まるで死体が歩いている様に見えた。

 しかも、国民達は生き残りの兵士から、サクヤが神意能力者を赤子の手をひねる様に殺していった事を聞かされていたので、見た目も相まってサクヤがルキア以上に化け物に見えていた。


「あらあらみんな、あなたにも夢中みたいよ」

「そんな事はありません。物珍しくて警戒しているだけです」


 そのセリフだけ聞くと、ただ謙遜しているだけに聞こえるが、実際その通りであった。


「あった、ここよ」

「ここですか?」


 人々の視線に晒されながら、ルキアとサクヤは一軒の店に辿り着いた。そこは、ルキアがこの国の味方をする切っ掛けになった場所で、薄暗く怪しい雰囲気が漂う何の店か分からない店であった。


「さぁ、入るわよ」

「はい」


 サクヤはルキアに誘われるがまま、その店に入った。そこはサクヤにとって、何やら見た事がある様な、だが、実際に手にした事は無い様な物が大量に置いてある店だった。


「おやおや、こんな愛らしい少女が二人でうちに来るとは珍しいな」


 そして、そんな店の奥から、怪しさを全身から放っている脂ぎった小太りの初老男性が現れる。


「おっちゃん、私達が誰か分からないの?」

「すまんな、うちの店はこんな物を扱ってるから客と世間話もせんし、ワシ自身もあまり世間の事に詳しく無くてな。お嬢ちゃん達は有名人か?」


 そう言いながら店主はボリボリと腹を掻く。その態度は接客業をしている人間としては致命的だが、幸いルキアは気にした素振りも無い。


「ううん、大した事無いし、知らなくても問題ないわ。それよりおっちゃん、この子に丁度いい道具ってあるかしら?」


 ルキアはサクヤを指差しながら店主に尋ねる。そして、その問いかけに対して店主はニヤニヤと笑いながら商品を手に取る。


「なるほどなるほど、お嬢ちゃん達はそういう関係かい。ならおじさんがお勧めのブツを紹介してあげよう」


 そう言って店主が持ってきたのは、様々な太さの棒状の物体だった。その物体は基本的に先端部分が太く反り返っており、その形はサクヤに何かを思い出させた。そして、店主はそのうちの一個を手に取る。


「そっちの凛々しいお嬢ちゃんがどれくらい使い込まれてるのかは知らないが、最初はこれぐらいの太さがお勧めだな。んで、慣れてきたらこっちなんかも良いぞ」


 店主が次に手に取ったのは、先程の物と同じ形だが表面がデコボコしている物体だった。それを見てルキアは楽しそうに笑う。


「うわぁ、凄い。私、元の世界でもこんなの使った事無いわ!」

「元の世界?」

「――あっと! 何でもないのよ。おほほ」


 ルキアは口を滑らせながらも、愛想笑いをして誤魔化す。そして、店主もこんな店で働いていると挙動不審な人間を良く見るので、無視を決め込んでいた。


「ところでお嬢ちゃん達、金はちゃんと持ってるのか。うちの商品はこれでも高級品で、子供のお小遣いじゃ買えないぞ」

「大丈夫大丈夫、金ならあるわ」


 ルキアは店主を安心させる為に、懐から金貨十枚を取り出す。


「コイツはすげぇ……。お嬢ちゃん達はどこぞのご令嬢か?」

「詳しくは言えないけどそんなところよ。んで、この子が何かは言わなくても分かるでしょ」

「そうか、そうか、それは良いご趣味をお持ちで」


 金持ちの中には歪んだ趣味を持っている人間も少なくない。そして、そんな金持ちから生まれた子供は幼い時から親の趣味を受け継ぎ、金に物を言わせてサクヤのように逆らえない人間にその欲望をぶつける事が多い。事実この店にもそういった客もよくやって来ていて、店主にとってそういった客は良いお得意様だった。


「そんだけ金に余裕があるなら、こんなのもどうだい? ちぃと値段は張るが最新式の魔道具だぜ。稼動開始」

「これはすごいわ! ぐりんぐりん動いてる!」


 店主の魔道具起動の宣言と共に、店主の手に握られた棒状のものが、生きている様に動き出す。そして、それを見たルキアはこのゲームの世界――だと思っている世界――がこっち方面で発展している事に感動を覚えていた。


「ねぇねぇサクヤ、こんなのに暴れられたら、あなたどうなっちゃうのかしら?」

「……? よく分かりませんが、その程度なら押さえつけて無力化出来ます」

「ふふふ、本当かなぁ。帰ったら早速試してみましょうか」


 ルキアはその時の事を思い浮かべながら、次の商品を手に取る。


「ねぇ、これってどう使うの?」

「おやおや、お嬢ちゃんはそっちは使った事無いのか。それはな、お嬢ちゃんにこうやって付けて、あのお嬢ちゃんに使うんだよ」


 店長はそう言いながら、慣れた手付きでルキアのスカートをたくし上げ、足の付け根辺りにベルトの付いた棒状の物を固定する。


「うっわ凄い、まるで生えちゃったみたい!」

「はっはっはっ、良いだろう。それを使えばお嬢ちゃんもいつもとは違う楽しみ方が出来るぞ」

「良いわ良いわ、これも買っちゃおう!」


 ルキアは楽しそうに買い物を続けるのだが、実際にそれを使われるはずのサクヤは無表情でその様子を見守っている。店主の男はそろそろその様子が気になり始めていたが、この店は客の事情は追求しないのがモットーなので、必死に見なかった事にしていた。


「――んっ?おっちゃん、これはなぁに?」


 他にも良い物は無いかと探していたルキアは、残りの商品の中に一つのビンを見つける。それは、栄養ドリンクを思わせるサイズで、中には桜色の液体が入っていた。


「ああ、それはな、どれだけその気の無い相手でも、一瞬でその気にさせてしまう魔法のお薬さ。お嬢ちゃんなら分かるんじゃないか?」

「ほほぉう、それはすてきなお薬ねぇ」


 ルキアはその薬をうっとりとした表情で見つめ、そのまま購入を決意する。そして、ルキアは最終的に、今までお勧めされた物全てと、球体を串刺しにした様な形の棒や、最初の棒状の物体を二本繋げて双頭にし柔軟性を持たせた様な物を購入。お釣りを貰うのが面倒だと言って、本来の価格の倍以上の金額である金貨十枚をそのまま支払って店を出た。


「これからもご贔屓にしてくれよお嬢ちゃん」

「ふふ、使い心地を試したら、考えとくわ」


 そう言いながらもルキアの表情は喜びに満ち溢れており、またすぐにこの店を利用するであろう事は分かりきっていた。


「それじゃあ、帰って早速使い心地を試しましょうかサクヤ」

「はい、ご主人様」


 まるで欲しかった玩具を買って貰った子供の様にはしゃいで歩くルキアと、その後ろを無表情で歩く、死人の様なサクヤ。その様子はたまたま二人とすれ違った子供にトラウマを与えるのに十分な光景だった。




 ――そして、その夜。



 ルキアとサクヤがどの様に買った物の使い心地を試したかは、二人だけの秘密である。


今回の話の後半の内容が理解できなかった君は、そのままの君でいてくれた方がいいと思いますよ。


今回、覚えた魔法のリストを出しましたが、今後は魔法を覚えた時に、一覧にしたり、詳しい説明を書いたりしないようにしたいと思います。これ以上辞書や設定資料集みたいになってしまうと困るので。

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