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第35話 勝利の余韻 ルキアの正体

「あっはっはっ! やってやったわあの馬鹿共が! 見てたサクヤ、私の魔法があいつらを薙ぎ払う所!」

「はい、拝見させていただきました。ご主人様」


 ヘキサリス平原での戦いの後、ゼノヴィア国王からたんまりと報酬を頂いたルキアとサクヤは、高級レストランを貸しきって食事を楽しんでいた。


「ふふふ、最初はヘリオンに味方しようかと思ってたけど、買い物したいお店があるって理由で、ゼノヴィアの味方をしてよかったわ。あの国王様とっても気前が良いんだから」

「これもご主人様のご威光があればこそです」

「ははは、照れるわね」


 二人は楽しそうに会話をしているのだが、ルキアを褒め称えるサクヤの瞳には生気が無く、まるで死人の様に虚ろだった。しかし、ルキアはそんなサクヤの様子を気にした素振りも無く騒いでいる。


「取りあえず、報酬で貰った物の中に白紙の魔法書が五冊あったから、サクヤにはご褒美としてこれで魔法を覚えさせてあげる」

「良いのですか?」

「良いの良いの、私は完全魔法パーフェクトマジックのお陰でこの世界の全ての魔法が使えるから、こんなもの必要ないし、味方NPCを鍛えておけば冒険も楽になるしね」

「……? 畏まりました」


 ルキアの言った、NPCという言葉に何か引っかかりを覚えながらも、サクヤはただ主の気遣いに感謝していた。そして、ルキアは上等なぶどう酒の材料にもなるぶどうで作られたジュースを飲み干して上機嫌に話す。


「いやぁ、ゲームで遊ぼうと思ったらいきなりゲームの中に入っちゃうなんて驚いたけど、このチート能力、完全魔法パーフェクトマジックと、偶然仲間に出来た超有能味方NPCのサクヤがいればこんなゲーム楽勝だわ!」


 それは、この世界の人間には意味不明な言葉であった。


    ◇◇◇


 結論から伝える。銀髪の魔女ルキア、彼女はサクヤと同じく『ニューライフ・ニューワールド』を起動してこの世界に来た人間である。

 しかし、彼女にはサクヤと違う点が三つある、一つは、彼女は初期設定の九個の選択肢を選ぶ際、対神戦闘にチェックを入れず、完全魔法の選択肢を選んでキャラクターを選択していたのだ。


 ■武器使用  ■魔法使用  ■特殊能力使用

 ■対人戦闘  ■対魔物戦闘 □対神戦闘

 ■完全魔法  □神剣創造  □絶対支配


 この配置は途轍もなく不親切で分かり辛いかもしれないが、対神戦闘、完全魔法、神剣創造、絶対支配、この四つの選択肢はどれか一つしか選択できない様に設定されており、上から順番に選択していくと、下の三つは選べなくなってしまうのだ。

 しかし、この罠に対してルキアは、「私は魔法大好きだから、折角だしこの完全魔法を選ぶぜ」と訳の分からない事を言いながら、最初に完全魔法を選択するという事で回避に成功していた。


 そして、この選択肢に更に魔法特化の特性を重ねる事により得た、ルキアの初期特典がこれである。


【初期装備:人造神器じんぞうじんきアルス・マグナ】

・神器一体化:この神器は常時所持者と一体化し、所持者に恩恵を与え続ける。

・魔力強制変換:周囲に存在する魔力を強制的に幻想因子に変換し、所持者の幻想因子を常時高速回復する。

・魔法感知:魔法を発動しようとした人間がいた場合、何の魔法を使おうとしているのか、どうすれば防げるのかを所持者に伝える。


【初期魔法】

・この世界に存在する全ての魔法


【特殊能力】

完全魔法パーフェクトマジック:ありとあらゆる魔法が使用可能になり、更に魔力変換効率がSSSSSSランクとなる。そして、本来発動の難しい高度な魔法も、簡単に使えるようになる。

魅了チャームの魔眼:限定一人を洗脳し従順な奴隷に変える。ただし、使用できる相手は理性を保ちつつも極限まで精神的に弱っている人間のみ。対象が死亡した場合は別の対象に使用可能になる。死亡以外では解除不可能。

・魔道具改良:既存の魔道具を改良する事が出来る。ただし、一から製造する事は出来ない。

・魔道具鑑定:対象を見ただけで魔道具かどうか判別でき、機能や発動の言葉を知る事が出来る。


 ――以上。


 このチート級主人公の様な能力の内容を、もしサクヤが見る事があれば、その理不尽さに怒りを覚えたであろう。それくらい、サクヤとルキアの初期特典には差があった。

 しかし、二人の違いはこれだけではない。二つ目の違い、それは、ルキアの初期装備のアルスマグナはグランエグゼの様に意思を持っておらず、所持者の精神に干渉したり、記憶を操作したりといった能力が一切無いという事だ。その為、ルキアはこの異世界に来てから今まで、自分が思うまま好き勝手に生きてきていた。

 これがどれだけ幸せな事かルキアは理解していないが、もしルキアがサクヤの異世界生活を体験する機会があれば、自分の幸せさに涙を流して感謝していた事であろう。


 そして、サクヤとルキアが違う点の三つ目は、サクヤはこの世界が異世界であると認識し、この世界の人間を――殺しはするが――生物として扱っているのに対して、ルキアは、ここはゲームの中の世界で、この世界の人間は自分以外全てゲームの中のNPCだと認識しているという事である。

 これにより、ルキアはいくらこの世界の人間を殺しても罪悪感を覚えず、サクヤの様な人間を奴隷にして死ぬまで使い潰しても、ゲームで味方NPCを扱き使う程度にしか感じないのだった。


 こうして、ゲーム世界を体験しているつもりになっているルキアは、サクヤより少し前にこの世界にやって来てから大した目的がある訳でもないのに、それこそゲーム感覚で戦闘に介入し続け、各国から金品や魔道具、貴重な品物を報酬として奪い続けていた。

 そして、そんな日々を過ごしていたルキアはあの日サクヤと出会った。


 その時、ルキアは前に使っていた奴隷を使い捨てた直後で、新しい奴隷を探していた。ルキアの魅了チャームの魔眼は、使用する対象が精神崩壊ギリギリまで弱っている必要があるのだが、ルキアは自分でその状態に追い込むのが面倒だと感じていた為、ならず者に捕まっている人間を適当に利用するという事を繰り返していたのだ。そして、ルキアはあるならず者集団を皆殺しにして、捕らえられていたサクヤを発見する。


 初めてサクヤを発見したルキアは最初、良い具合に弱っているNPCを見つけられたという程度にしか感じていなかった。しかし、実際にサクヤを戦わせたルキアはサクヤの想像以上の性能に驚いてしまった。

 まず、サクヤは見た目以上に身体能力が高く、今まで使ってきた一般人の奴隷よりも遥かに高い戦闘能力を持っていた。そして、その身体能力をルキアの魔法によって更に強化されたサクヤは、敵をかく乱する囮としてとても有能だった。


 そして、それだけではなく、サクヤはルキアの目の前で偶然戦闘になった神意能力者を、最初から持っていた謎の武器で簡単に殺して見せた。これを見たルキアは、サクヤが対神意能力者戦に特化したNPCだと確信し、レア能力持ちのキャラクターゲットに大いに喜んだ。

 

 そして、その日からルキアはサクヤを有効活用する為、色々な装備を与えてみたり、魔法を覚えさせて強化する事を決め、使い捨てにせず、じっくりと育てる事にしたのだった。

 それは、ルキアにとって、味方NPCを鍛えて強くするという育成ゲームをしている程度の感覚であったが、この事はグランエグゼにとって最高に都合の良い状況だった。


 しかし、グランエグゼにとって最高のこの状況も、サクヤにとっては自分を支配する相手が変わっただけでしかなかった。だが、ルキアに洗脳されているサクヤは、少なくともあの日の悪夢に苦しむ事無く、ルキアに尽くす事で幸福を得られている。その為、もしかするとこの状況は、サクヤにとってこの世界では一番の幸福な時間なのかもしれない……。

主人公変更のお知らせ。

次回からしばらく、ルキアが中心となったストーリー展開となります。

その関係上、グランエグゼの声が聞こえなくなります。

グランエグゼが大好きという皆様には、大変申し訳ございません。


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