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第16話 大した価値も無い国 リンドブルム

 エスタシアの南東に位置する国、リンドブルム。この国はかつては魔道具の生産国として有名だったが、エスタシアが魔道具大国と呼ばれる様になってから、リンドブルムの魔道具は粗悪品扱いされるようになり、国民にも見放され、人口が激減した。


 それでも、何とか国を維持しようとした国王は、法律を改悪し、ならず者が住みやすい環境を作り、強引に人口を増加させた。その結果リンドブルムは犯罪大国と呼ばれるほど治安が悪化したが、税金さえ払えばどんなならず者でも受け入れるという事で、行き場を失った人間の受け入れ先として重宝された。

 それはまるで、厄介者の集積場だった。


    ◇◇◇


「クソッ! あの役立たずが! あれだけ金を要求しておいて、女一人殺せんとは! 何が神意能力者だ、笑わせるな!」


 豪華だがどこか薄汚れた部屋で一人の男が怒鳴り散らしていた。この男の名はアリオス・エル・リンドブルム。紛れも無くリンドブルムの国王であった。


「あの小娘め! 両親を殺されてもまだ従わないばかりか、シルヴァリオン帝国との繋がりを強くしおって! 馬鹿にするのも大概にしろ!」


 アリオスはエスタシアに対して何度も同盟を求める手紙を送っていたが、それは尽く無視されていた。まぁ、無視されるのも仕方が無い。その手紙の内容はリンドブルムにとって得な事は書かれていても、エスタシアの利益になる事は何も書かれていなかったからだ。

 しかし、この男はそれでもエスタシアはこの条件で同盟を結ぶべきだと訴え続け、マナステアを自国に呼び寄せた。


「我の要求を受け入れない者など死んで当然なのだ! 何故あの小娘は生きている!」


 だが、リンドブルムにやって来たマナステアは、貴国と同盟を組む事は絶対に有り得ないと告げ、すぐにエスタシアへ帰っていた。そして、その事に腹を立てたアリオスは国家予算を使って雇ったゼノンを使い、あの日、マナステアを殺す計画を実行した。

 マナステアを殺害したとしても、エスタシアがリンドブルムと同盟を結ぶ事など有り得ないのだが、この男はそれさえもわからないほど愚かだった。


「クソッ! だからあの両親と同じ様に事故に見せかけて殺せと言ったんだ。何が同じ殺し方だとつまらないだ! 無能のクズが!」


 アリオスが暴れまわる所為で、部屋の中は無茶苦茶になる。本来ならすぐにメイドがやって来て片付けるべきなのだが、今この部屋に入れば腹いせに殺されかねない為、誰も近寄れなかった。


「やはり、あの剣を使うべきか……、ふふふ……もうどうなっても知らん……地獄に落としてやるぞ、小娘……!」


 その後、狂ったように笑いながらリンドブルム城を徘徊したアリオスは、祭壇に飾られていた剣を持ってメイド達を探し、弄んだ後に殺すという事を繰り返した。その行動は理解不能で恐ろしいものであったが、リンドブルムには彼を止められる者など存在しなかった。


   ◇◇◇


「ここがリンドブルム……。思ってたより更に酷そうな国ね」


 国の入り口で嫌そうな顔をしながらそう呟いたのは、凛々しい顔立ちをした少女、サクヤだった。サクヤが言う様にリンドブルムは入り口からして酷い有様だった。この国の酷さを簡単に表すならば、国全体がスラムという表現がしっくり来る。


「ここって本当に国として機能してるのかしら?」


 まず、エスタシアと違い街を囲う壁が存在せず、家が無防備に建っており、その殆どが窓ガラスが砕け廃墟の様になっている。正直ポツリポツリと人が歩いていなければ、ここが人の住む街だとは思えなかったであろう。


「リーネ村の村長さんはここまで酷いとは言っていなかったし、ここ数年でこうなったのかな。まぁ、通信装置でもないと、自分の村以外の最新の情報なんて分からないだろうし、仕方ないか」


 何とか物事を前向きに考えたいのだが、この街を見ると、まともな宿を取れるのか、そもそも食料が補充できるのか等の不安が思い浮かんでしまう。そんな事を考えながら歩いているサクヤに、四人の男が近付いてくる。


「お嬢さーん、何してるんだーい?」

「おっ、可愛いねぇ。俺達と一緒に遊ばねぇ?」

「こんな所に一人でいるって事は、襲われたいって事だろ」

「じゃあご期待に答えてあげねぇとな。俺達って優しいからさ」


 そんなテンプレートの様な台詞を話しながら近付いてくる男達に、サクヤは思わず「うわぁ……」と口に出してしまう。


「ああ! 馬鹿にしてんのかこの小娘!」

「優しくしてりゃあつけ上がりやがって、こりゃあ、一人一発じゃ足りねぇな」

「死ぬまで可愛がってやるから感謝しな!」

「へへへ、俺は死んだ後もたっぷり可愛がってやるぜ」


 気持ちの悪い台詞と唾を撒き散らしながら近付いてくる男達に、サクヤは眉をひそめながら言い放つ。


「そういえば人間を直接殺すのは初めてだっけ? まぁ、腕試しと行きましょうか。形成!」


 サクヤの言葉に腹を立てた男達だが、その手に突然グランエグゼが現れたのを見て、明らかに動揺し、動きが止まる。


「あらあら、ゴブリンだってそんなに隙だらけじゃなかったわよ?」


 動きを止めた男達の中で、一番サクヤの近くにいた男の喉元にグランエグゼが突き入れられ、男は喉に開いた穴からひゅうひゅうと空気を漏らしながら倒れる。


「おっおい! 大丈夫か!」

「テメェ!」


 動揺する男達はサクヤに向かって、腰にあった短剣を向ける。だが、サクヤはすぐさま男の一人の左側に回りこみ、その男の目に向かってグランエグゼを振るう。


「うぐっぁああ!」


 それにより男の一人は片目を潰され、痛みで短剣を落としてしまう。


「落し物だよ?」


 優しそうな表情で片目を潰された男に話しかけたサクヤは、男が落とした短剣を拾い、そのまま男の腹に突き刺し、手首を捻る。


「――――!!!」


 声にならない悲鳴を上げて倒れた男から短剣を引き抜いたサクヤは、もう一人の男に満面の笑みで近付いていく。


「ばっ、化け物!」

「こんなに可愛い女の子にそんな事言うなんて酷いなぁ」


 近付かれた男は、恐怖のあまり腰を抜かしその場に座り込む。そんな男に世間話でもする様に近付いたサクヤは、男の頭部をグランエグゼで殴り付け、仰向けに倒れた所にグランエグゼを突き立て、全体重をかけて突き刺す。

 もがき苦しむ男を微笑みながら見つめるサクヤは、人間として大切なものを失ってしまっている様に見えた。


「うわあああああ!」

「いや、そこは無言で近付きましょうよ」


 叫び声を上げながら短剣を振り回し襲い掛かる最後の男に、引き抜いたグランエグゼで応戦するサクヤ。男の動きはカナタに比べれば遅過ぎて、サクヤは余裕を持って短剣を弾き、数回の打ち合いの後、男の股間に蹴りを叩き込み、男を這い蹲らせる。


「あがっがぁ……」

「男ってそういう所が不便だよね。――って、あれ、私なんでそんな事知ってるんだっけ?」


 考え事をしながらサクヤは男の頭にグランエグゼを叩きつける。殺すだけならば突き刺した方が早いのだが、殴った場合はどれぐらいで殺せるのか確認する為に敢えて突きは封印して殴り続ける。


「倒れてる相手の頭を殴るのって、意外と難しいのね」


 サクヤは散々殴られて息絶えた男を眺めながらそう呟き、ゴソゴソと男達の持ち物の物色を始める。


「お金は銅貨が十三枚だけ、持ち物で使えそうなのは短剣四本くらいか……、まぁ我慢しましょう」


 とてつもなく理不尽な感想を述べながら金と短剣を鞄に入れ、サクヤは周囲を見回す。

 実はサクヤと男達が争っている間も、周囲に人影があり、今も遠巻きに何人かがこちらを見ているのだが、叫び声が聞こえたり衛兵が飛んで来たりする様な事態になっていない。

 この国の治安は本当に底辺なのだという感想を持ったサクヤは、この国で知り得る情報を迅速に集め、すぐに次の国へ出発しようと決めたのだった。



『人格の改変は問題ないみたいですね。ふふふ、あなたは素晴らしい御主人様さつじんにんぎょうになりましたね』



 サクヤは自分が何故、人を殺める事に抵抗が無いのか考え様ともしていなかった。

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