表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/58

第9話 女王との謁見

 マナステアの挨拶から始まり、サクヤは軽い雑談を交わした。


「っという訳で、俺はこの世界の事をよく知らないんだ」

「そうなのですか(嘘でしょうね)」

「それは大変だったな(嘘だろうな)」


 サクヤはマナステアとヘンリーにもカナタにしたのと同じ言い訳をする。もちろん二人とも信じていないが、カナタと同じように信じたフリをしていた。

 マナステアとヘンリーは共通意見として、身の潔白を証明できる無能よりも、多少怪しさの残る有能の方が役に立つと認識していたので、その辺りには目をつぶる事にしていた。


 この危機管理能力の無さは王族としては致命的だが、大陸一治安の良いエスタシア王国ではこの考え方が主流だった。


「それで、サクヤ殿は我が国で一般常識を学びたいと言う事だが、その後の予定は決まっているのか?」

「その辺りはある程度常識を学んでから考えようと思ってる」

「そうですね。旅を続けるにしても大体の国の位置がわからないと迷子になってしまいますからね」


 因みに、サクヤは本当は敬語で喋りたいと思っているのだが、師匠と二人暮らしで世間知らずという設定にしてしまったので、敬語で喋ってしまったら設定に矛盾が生じると思って敬語が使えないでいた。

 他の三人は、その事を察して、失礼な物言いに対しては触れない事にしている。


「それならば、ちょうどイスラ殿が暇を持て余している様だから話し相手になってくれないか。彼女ならサクヤ殿の質問にも喜んで答えてくれるだろうし、魔道具にも詳しいので今後の役に立つ話も教えてくれるだろう」

「イスラか……」


 ヘンリーが紹介したイスラはエスタシアの魔道具開発部門担当の研究員だ。

 彼女は29歳の若さで大陸一の魔道具専門家とされており、同時に魔法や神意能力、地理や雑学にも詳しく、彼女に憧れる人々からは賢人とも呼ばれている。


「イスラ様であればサクヤ様のご質問にも快くお答えして頂けると思いますので、そちらで問題ないと思います」


 マナステアもヘンリー同様、サクヤにイスラに会う事を勧めてくる。

 サクヤは二人が進めてくれるならばと、イスラと会う事を決めたが、その斜め後ろではカナタが若干渋い顔をしていた。


「それでは、このあとはイスラ様の所へご案内するとして、その前にご用意したお礼の品をお渡ししたいと思います」

「お礼? いや、しばらく泊めてもらうのと一般常識を教えてくれるのだけで十分だぞ」

「いえいえ、女王の命を救ってくれたのですから、相応のお礼はしなければ」


 サクヤは遠慮しようと思ったのだが、あまり断るのも失礼だし、過酷な異世界で生きていくのだから貰えるものは貰っておくべきだと考え直して、受け取る事にした。


 この時サクヤは、こんなにも過酷な世界で生きる事に前向きな自分に対して、若干の違和感を覚えたが、すぐに忘れてしまった。



『所持者の精神状態安定。適応能力増幅装置安定稼動中』



「それでは、こちらをどうぞ」

「これは?」


 差し出されたのは、ベルトがあり腰に付けられるウエストポーチだった。大きさはBOXティッシュより少し小さいくらいで、サイドポケットなどは付いていないシンプルな作りの物だ。


「こちらは、我が国で生産されてる魔道具の一つでな、見た目は普通のポーチだが中を見てみろ」

「こ、これは!」


 サクヤは鞄の中を見て驚いた。外見はただのウエストポーチなのに、中に広がっているスペースが大き目の冷蔵庫くらいあったからだ。


「はっはっは、すごいだろう。これは異空間鞄と言って鞄の中に小さい異空間を作り出し、そこに荷物を収納できるというものだ。ふたを閉じると中の状態が固定化されるので、激しく動かしても中身に影響が無いのも利点だな」


 まるでゲームに出てくるアイテムボックスだなと思いながらサクヤは鞄を手に持って眺める。


「ああそうだ、異空間鞄は欠点として、入れた物の重さ分鞄自体が重くなるというのと、三日に一回は鞄に素肌で触れて魔力を注がないといけないというのがあるから注意してくれ」

「なるほど、わかった」


 サクヤはこの鞄にも所持品軽量化の効果が乗るなら、重量については問題ないと思いながら、鞄を腰につけて少し動いてみる。

 腰につけているので咄嗟に道具を取り出すのには不向きだが、行動を阻害しないので突然の戦闘の邪魔にならず、冒険者の装備としては優秀だと思った。


「付けた感じは違和感が無くていいな。カナタ似合ってるか?」

「ええ……、とっても似合っていますよ」


 サクヤはカナタにお尻を突き出して鞄が似合っているのか聞いたのだが、カナタは鞄より若干下を見ながら答えていた。

 それについてマナステアとヘンリーは一切触れずに話を進める。


「あともう一点、こちらもどうぞ」

「はい」


 サクヤはソファーに座り直し、もう一つの物を受け取った。

 それは、ごく普通のポンチョに見える衣服だった。


「これは?」

「そちらは見た目こそ一般的なポンチョですが、特殊な機能が備わっておりますので、まずは着てみてください」


 サクヤはそう言われると、ポンチョを羽織ってマナステアの前に立った。


「それでは失礼して」


 マナステアはそう言いながら、サクヤのポンチョに紅茶を垂らした。当然その部分には染みが出来てしまう。

 元々貰ったものとはいえ、いきなり汚されると嫌な気分になるなとサクヤは感じていた。


「それではポンチョを掴んで、衣服浄化と唱えてください」

「わかった、衣服浄化」


 サクヤが唱えた途端、ポンチョについていた染みが綺麗に消えていた。


「これは便利だな」

「そうですね。旅人の方はお洋服のお洗濯もあまり出来ないと聞きますが、これならばお洗濯する事無く、いつでも清潔な衣服を着ていられます」


 一番の利点は代えの服が要らないので、荷物が少なくて済む事だが、自分で荷物を持った事の無いマナステアにはピンとこない話だった。


「次は、カナタ、お願い致します」

「畏まりました」


 マナステアに声をかけられたカナタが刀を抜き、サクヤに斬りかかった。

 突然の出来事にサクヤは動く事が出来ずに、その光景を見つめているだけだった。


「これでよろしいですか」

「はい、大丈夫です」


 サクヤは死んだかもしれないと思ったが、カナタが斬りたかったのはポンチョの一部だったらしく、命にに別状は無かった。しかし、服を破きたいのなら一言断って欲しいと思うサクヤであった。


「それではサクヤ様、お洋服をを摘んで衣服修復と唱えてください」

「ええと、衣服修復」


 サクヤが衣服修復と唱えると、ポンチョの破れた部分が元に戻っていく。


「これは……」

「凄いでしょう。この修復機能は衣服の四割が無事なら発動しますので、浄化と組み合わせれば、この服一着で一生過ごすことも可能です」


 サクヤは、ゲームの中で毎日同じ服を着ている主人公達も、こんな感じだったのかなと思いながらポンチョを撫でていた。


 因みに、便利そうな浄化と修復の機能だが、この機能を合わせ持った衣服は普通の衣服の1000倍ほどの価格になっているので、普通の人間には手が出せない代物であった。


「本当はカナタの服に付いている強度強化の機能も付けたかったのですが、一つの魔道具に三つの機能を持たせるのは不可能に近いので、この二つを選ばせていただきました。よろしかったですか?」

「ああ、この機能は凄く便利だし、着ている服とかもこれにしたいくらいだよ」


 マナステアが強度強化を選択しなかったのには、理由がある。

 それは、昨日のレッドドラゴンとの戦いで死んでいった兵達も、強度強化の服型魔道具を着ていたのに、無残に殺されたからだ。


 結局強度が上がっても、服としての柔軟性は残したままでは、服が耐えられても中の人間は耐えられない事がわかったのだった。

 この出来事を踏まえ、エスタシアでは新しい防御用の魔道具の研究が進められる事となるのだが、それはサクヤには関係の無い話である。


「それではこれらに加え、サクヤ様が最初に着ていた衣服もこちらの機能付けて仕立て直しましょうか? 三日ほどしましたら完成すると思いますので、その時改めてお渡ししますよ」

「本当か? あの服は気に入ってたから、そうしてもらえると凄く嬉しいよ」


 サクヤはどんなに弱い装備でも初期装備は記念品として取って置きたいタイプの人間だったので、その申し出は本当にうれしかった。

 実際には半日も着ていない服だったが、その喜び様を見てマナステア達は、特別な思い出のある服だったのだろうと勘違いしていた。


「ではその様にお話を進めるとして、最後にこちらもお渡ししますね」


 サクヤの前にゲームなどでよく見る布の巾着袋が置かれる。中を確認する様に言われ、開いてみると、これまたゲームでよく見る感じの硬貨が出てきた。


「サクヤ殿はお金を見たことはあるか?」

「お金か、聞いた事はあるような……」


 もちろん嘘である。山奥で暮らしていたのならお金を使う機会などなかったはずなのでそう答えた。

 まあ、この世界のお金については知らないので完全な嘘ではない。


 因みに、この世界の貨幣は、銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、白金貨の五種類となっており、銅貨が十枚で大銅貨一枚、大銅貨が十枚で銀貨一枚、銀貨が十枚で金貨一枚、金貨が百枚で白金貨一枚の価値となる。


 最低金額である銅貨一枚の価値が元の世界での百円相当のため、それより安い商品は存在せず、安すぎるものを買う際にはまとめ買いか物々交換をする必要があった。


 あと、一般人はほぼ銅貨と大銅貨のみで生活しているので、小さい商店などで銀貨以上の硬貨を出すと、売買を拒否される事もある。


「この様にお金があれば様々なものと交換できるので、時間があるときにカナタ殿と一緒に出かけて、買い物をしてみるといい」

「二人でお買い物……、ふふふ、楽しみですねサクヤ様」

「ああ、そうだな……、その時はお願いするよ」


 サクヤはカナタに話しかけながら、硬貨の入った巾着袋を異空間鞄に入れた。

 異世界であろうと基本的な売買方法は変わらないだろうとは思ったが、どんな落とし穴があるか分からないので同伴者がいてくれるのは有難かった。


「それでは、お渡しする物も無くなりましたので、そろそろイスラ様の所へご案内致しましょう。カナタ、お願いいたします」

「畏まりました。サクヤ様、どうぞこちらへ」

「ありがとう」


 サクヤはお礼を伝え、カナタと一緒に退出する。

 その後、マナステアとヘンリーはサクヤについて話し合い、謎な部分も多いが自分達の軍の無能な兵士よりは信頼できるという結論に至った。自国の人手不足にため息しか出ない二人であった。

沢山の方々に読んで頂けて、その上ブックマークして頂けて、更には評価までして頂けて、とても嬉しいです。

皆様ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ