8回目の世界
「加藤さん、加藤さん」
「何だい、高島君?」
「今日はどこに向かってるんでしたっけ?」
「あれ?俺言ってなかったっけ?」
「すいません、聞いた記憶はあるんですけど出掛けにバタバタしてたんで正直右から左でした」
「ま、確かに突発だったからね~。俺もあわてて出てきたから忘れ物してないかどうか心配だよ。」
「一応僕のほうでもチェックはしたんで大丈夫だとは思いますが・・・」
「さすが高島君。気が利くね。」
「褒めても何も出ませんよ?」
「チッ・・・あわよくば仕事後にビールでもせびろうと思ったのに・・・」
「チッて言わないでください!」
「聞こえた?」
「聞こえました!」
「ごめんごめん、根が正直だからついつい本音が漏れちゃったよ。」
「はぁ~、まあ加藤さんがそういう人だってのはわかってますからいいんですけど・・・」
「褒められちゃった。」
「褒めてません!」
「やっぱり?」
「当たり前です!今の会話の中で何がどうなったらそんな風にきこえるんですか!まったくどんな耳してるんですって感じですよ。」
「こんな耳」
「ああぁっ~!ここでまさかのパ○リロ!分かっちゃいるけど振ってしまった自分が悔しい!」
「こ・ん・な・み・み!」
「分かりましたからよってこないで下さい!ああもうっ!ドヤ顔の加藤さんがうざい!」
「ふっふっふっ・・・今のはネタを振ってしまった高島君の負けだね。」
「うう・・・って最初の話はどこへ行ってしまったんですか!まったく話が進まないじゃないですか!」
「何の話だったっけ?」
「今日の目的地の話です!」
「高島君、もしやキミは行き先も分からず運転してるのかい?」
「加藤さんが設定してくれたナビどおりに運転してるだけです!ってかいい加減どこに向かってるか教えてくださいよ!」
「そうだったね~。高島君のおかげで大分話がそれてしまったよ」
「何で僕のせい何ですか!」
「世界の亀山モデル、知ってる?」
「また唐突ですねぇ、昔よくCMでやってましたから知ってますよ。最近聞かないですけど」
「まあ色々あったからねぇ・・・」
「色々あったんですか・・・」
「色々あったんだよ・・・」
「僕はよく知らないんですけどその亀山って人はそんなに有名なデザイナーさんか何かなんですか?」
「ほわっつ?」
「だって世界の亀山っていうくらいですから有名なんですよね、その方。」
「まぢで言ってる?」
「何がです?分からないんで博識な加藤さんなら知ってるかと思って・・・」
「あのね高島君。ボケにマジレスするのは野暮なんだけれどもさ、亀山モデルってのは三重県亀山市で作られていたから亀山モデルなの。亀山さんがデザインしたから亀山モデルじゃないの!」
「えっ!そうだったんですか?僕はてっきり・・・」
「・・・本気で聞いてたんだね・・・」
「本気、でした・・・」
「さ・・・さすが高島君・・・御前崎”おまえざき”をごぜんさきと呼んだ男・・・新たな伝説の誕生だ・・・早速FBで皆に報告しなければ・・・」
「自分が無知だってのは分かってますけど伝説を勝手に作らないで下さい!ただでさえ常識がない男とよばれてるんですから!」
「一応は自覚してるんだ・・・」
「憐れんだような顔で見るのやめてください・・・」
「もうすぐで亀山に到着だよ~。今回はそこに行くわけじゃないけど、この上り坂超えて下りに入ると工場が見えてくるよ。」
「大きい工場なんですか?」
「大きいよ~、それに色々交通の便も良いからね~」
「良いんですか?」
「I.Cから近いしね~、東名阪、新名神、伊勢道、国一、色々通っているからね~」
「何故語尾伸ばし?」
「何となく・・・まあ兎も角あんまり詳しくは説明できないけど中核的な工場だったから色々と地元も期待してね、自治体の補助とかさ、税金とかさ、商店とかさ・・・」
「色々ヤバげな情報ですね・・・」
「あんまり詳しく説明しちゃうと・・・ゲフげフゲフ・・・お察し下さい。」
「確かにこれ以上は・・・」
「集客ってわけじゃないんだけどさ、需要見込んでI.C降りたところに立派なビジネスホテルも出来たんだけど、それも同じ系列のホテルが二つも・・・」
「当てが外れたと・・・」
「全くって訳じゃないけどね・・・」
「そろそろやめませんか?この話題。」
「そうだね、これ以上はちょっと拙いね・・・」
「これ以上話題にすると加藤さんの身辺が危なそうです。」
「悪いね、気ぃ使ってもらって・・・」
「そろそろ見えてきますかね?」
「もうすぐだよ。ほら見えた・・・って・・・高島君・・・まただよ・・・」
「また・・・ですね・・・しっかし毎度の事とは言え、唐突すぎると思いませんか加藤さん?しかも何ですか!ここは!うちの”漢ナビ”君は確かに亀山市にいる事になってますけど今までのパターンからしたら飛んでしまった先はそこの土地の特産とか特徴とかそんな感じでビミョ~に関連があるっぽい感じだったのに今回に関しては何ですか!全く関係ないじゃないですか?」
「ああっ~今回はそっちのネタで来たか~・・・ちょいと予想外だったな~・・・」
「何か加藤さん一人で納得してるみたいですけど・・・この周り一帯火を噴いてる山々のド真ん中に飛ばされた状況を説明してもらえませんか?って山頂から溶岩あふれ出てるし・・・」
「高島君は蝋燭好きでしょ?使うでしょ?」
「好きでもないし使いもしません‼」
「どんな蝋燭使う?」
「だから使わないって言ってるじゃないですか!どんな蝋燭って言ったって蝋燭は蝋燭じゃないですか!」
「蝋燭は蝋燭って?」
「だから!普通の蝋燭ですよね!?」
「駄目だよ高島君、ちゃんと低温蝋燭にしないと火傷しちゃうよ?」
「いったい何の話をしてるんですか!」
「蝋燭の話だけど?」
「だ~か~ら!この状況と蝋燭の話の繋がりが何の事かって聞いてるんです。加藤さんの与太話に付き合ってる暇なんてこの状況じゃ無いでしょ!早く逃げる算段しないと!」
「ところで高島君。君に問おう。」
「・・・何ですか?・・・」
「君はこの状況でまだ逃げれると思っているのかい?周りからじりじりと押し寄せる溶岩から。」
「・・・客観的に言って無理でしょうね・・・」
「結末が決まっているんだったらそれまでの間、俺の薀蓄に耳を傾けるのも風流とは思わないかい?」
「加藤さんの薀蓄を聞くのは吝かではないんですがねぇ~・・・この状況でなければですが・・・」
「まあまあ高島君。もうここまで来たら毎度の事なんだから腹括ろうよ!」
「括るしか無いですよね~」
「まあ話し戻すとして高島君が大好きな蝋燭なんだけれど・・・」
「だから好きでもなんでもありません!」
「実は亀山って蝋燭の産地なんだよね~」
「えっ?そうなんですか?」
「なんとここで生産される蝋燭は国内シェア5割にも及ぶんだよ。」
「成程、さっきからの加藤さんの意味不明の発言の数々はここに至るための壮大な前振りだったわけですね?しかし・・・恐るべし亀山ですね。」
「そうだろ?だからこのじりじりとにじり寄ってくる溶岩達が高島君の大好きな融けた蝋のように迫って来て高島君を喜ばせるわけだ。」
「喜びません!ってか明らかに蝋じゃ無いですから、溶岩ですから、火傷じゃすみませんから!」
「そっか~高島君なら喜ぶと思ったんだけどな~」
「どんな変態ですか!」
「そろそろ迫ってきたね~」
「何でそんなに呑気なんですか!?」
「だってもう逃げようないじゃん?」
「せめて逃げる努力しましょうよ?」
「無駄な努力はしない主義でね。」
「・・・確かにそうですね・・・って呑み込まれてきましたね・・・」
「何かあれだね、T2のT-800の最後みたいだね。」
「彼は自ら沈んでいきましたけどね・・・」
「あれ何だったけ・・・サムズアップしてカッコイイセリフ残して消えていったね。」
「あのシーンはぐっときましたね・・・」
「じゃ、俺たちも最後位カッコよく締めようか?」
「締めますか?」
「じゃ・・・サムズアップして・・・」
「加藤さん、じゃお願いします」
「ソロモンよ!私は帰ってきた!」
「違います!」
「違った?」
「違います。ってもう足元まで迫ってますよ!早く締めてください!もしかして忘れちゃったんですか?」
「あっ、そうだそうだ!思い出した!」
「思い出しましたか!じゃ、頼みました!」
「OK」
「お願いします。もう足元融けてきてます!」
「シェーン、カムバーック!」
「だから違うっつってんだろ!」
「高島君・・・怖い・・・」
今回の死亡事由
融けました・・・