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解除者のお仕事  作者: たろ
解除者のお仕事
42/78

5-19


「トーマさん…!」


喉を押さえひたすら声を出そうとしているトーマの元へアメリアが駆け寄ろうとしたが、動く前に彼女の腕はレオルドによって掴まれた。驚いてレオルドへ振り返ったアメリアは非難しようと見上げたが、彼はキツく睨み付けるように前方へ視線を向けていた。それを追うように神父の方へと向ければ、入口にはいつの間にか十数人の武装した男達が立っている。息を飲む彼女を守るように、レオルドは自分の後ろへと下がせた。


「交渉決裂ですな。奴等を捕えろ」


合図と共に、男たちは剣を抜いてこちらへと雪崩れこんで来る。応戦するよう3人は剣を抜いた。入り口に近いところに居たレオルドへ斬りかかってくる男を迎え撃とうとした所で、二人の間へもう一つ影が入り込んだと思えば、高い金属音が響く。アメリアが認識できた時には、ライアスが男を押し返していた。すぐに二人が争っている間を抜けてきた男が振るった剣を、レオルドが受け止める。思わず出てしまいそうになった悲鳴を噛み殺すとアメリアに、レオルドは振り返ること無く離れるなと告げれば、彼女ははいと返事を返す。無理矢理に出した声は、思いの外しっかりとしていた。

対するトーマ達の方へも、同じように武装した男が迫っていた。声の出ない口をぱくぱくとさせるトーマの前へ立つと、剣を引き抜いてニヤニヤと笑いを浮かべる。圧倒的に有利とでも思っている相手を睨み付けるトーマだが、男の表情は崩れることはない。


「悪いな、兄ちゃん。大人しくしといてくれよ」


スラリと剣を抜いた男は、一瞬動きを止めると声を出して笑った。


「おい、なんのつもりだロッテ」

「やめてください…!剣を、収めてください…!」


トーマを庇うように、両手を広げロッテが立ちはだかったのだ。怖いのだろう、ガクガクと膝が笑っている状態だが、目だけはしっかりと相手を捉えている。そんなやり取りの間に男側の頭数は増え、彼らは声をかけてきた男の後ろで笑いながら眺めていた。やっちまえよと言う野次を飛ばしてくる外野に、男は楽しそうに笑って返すと勢い良く剣を振り上げる。


「邪魔なんだよ!」


言葉と共に振り下ろされた剣にロッテは思わず目を瞑ると、強い力で後ろから腕を引かれた。バランスを崩し倒れこみそうになった所を、ぎゅっと抱きしめられるのと同じタイミングで、金属音が耳を突いた。慌てて目を開けば、トーマに守られるように抱きしめられており、その後ろには男の剣を受け止めているウィルの姿があった。


「女性相手に、それはいかがなものでしょう?」


いつも通りの優雅なウィルの発言に、相手は苛立ち舌打ちをすると一旦距離を取る。再びウィルへ向かって斬りこみにくれば、ウィルは1対多数での戦いが始まった。だが、トーマもウィルには構っていられなかった。後ろに控えていた男たちが、ウィルには劣るが数人こちらへ突っ込んできたのだ。先陣を切った相手には近くにあった台車を蹴り飛ばし阻止できたが、それで止められたのは1人のみだ。トーマとロッテ相手ならば負けることは無いと思っているのか、相手は遊ぶように剣で突いてくる。寸での所で避けられてはいるが、じりじりと後退していく状況にトーマは強く歯を噛みしめた。


(やるしかない…!)


片手を相手へ向け意識を集中させると、いつもの倍以上の風がトーマの周りを包み込む。大きく翻るマントに、胸に抱かれたロッテは信じられないと言った表情でトーマを見上げた。元より無詠唱で魔法を発動させることが可能なため、喉を潰されたとしても魔法が使用できない訳ではない。だが、呪文を唱えると言う行為は、トーマの魔法を安定させてくれた。魔法をイメージしやくす、扱いやすい理由から呪文を用いて教わってきたのだ。


「お、おい、やばくないか…」

「何ビビってんだ、喉潰されてんのに魔法なんか使えるわけない。張ったりだろ」


突然様子が変わったトーマに若干及び腰になる男たちだが、誰かが張ったりだと指摘をすればすぐに勢いを取り戻す。そろそろ片を付けるかと本格的に剣を構え始める男たちを前にして、トーマが考えているのはどう切り抜けるかではなく、どう魔法を制御するかだった。


(範囲はここから数メートル先、弱めに、致命傷にならない程度の威力で…)


目の前では剣を持つ男が迫っているのに、ぱくぱくと口を動かすトーマの姿は傍から見れば滑稽だろう。しかし、トーマは至って真剣だった。彼が意識を集中させればさせる程風は重くなり、触れるとぞわりと鳥肌が立つ。言い知れぬプレッシャーに、男たちは無意識の内に後ろへ下がっていく。


(駄目だ、もっと弱く…!このまま撃てば、全員死ぬ…!)


形振り等構っていられなかった。ぎゅっと目を瞑りさらに意識を集中させれば、彼の纏う空気は更に重くなる。


「なんだ、こいつ…化け物か…?!」

「ろせ…早く殺せ…!!」

「っ、トーマ様…!」


強く床を蹴り、トーマ目掛けて剣を振り上げる男を目の前に、耐え切れなくなったロッテが悲鳴を上げた。その声に目を開き現状を確認したトーマは、斬られると確信した。今、このまま魔法を発動させれば、この部屋全員を巻き添えにすることになる。発動後、すぐに防御壁を展開すれば自分は助かるが、一人で助かっても意味がない。


「ちくしょう」


声が出ないトーマの口がそう動いた。


次の瞬間は、何が起こったのか分からなかった。

今まで自分の胸の中に居た少女が、なぜか自分を突き飛ばしこちらに体を向け両手を広げ立っている。そして、彼女は後ろから斬りかかってきた男に、背中から大きく斬りつけられていた。力なくこちらへ向かい倒れ込んでくるのを受け止めれば、背中には酷い傷と血が溢れてくる。画面を通してでは何度も見たことのあった傷だが、こうして目の当たりにするのは始めだった。震える腕でロッテを支えてやると、微かにだがまだ息はあるが、今のが致命傷なのは確実だろう。逸早くアメリアに治して貰う必要がある。


「邪魔だっつっただろ」


斬りつけた男が血を払うように剣を振るのを見て、生まれたのは初めての殺意だった。


(許さない…)


音に出ずとも口を動かし呟いたトーマは、そっと床にロッテを横にしてやる。ぐったりとした彼女は、ひどく軽い体をしていた。優しく彼女の頬を撫でてから立ち上がり、再び腕を前へと出せば先ほどあんなにも難しかったコントロールが簡単に行えた。急速に集まる魔力は、一般人には見えないが、魔風と言う魔力を扱うときに起きる風が尋常じゃ無い程マントを翻してるので何かが起ころうとしているのは分かる。その魔風の異常さは、同じ部屋で戦っていた仲間へと伝わっていた。何事かと振り返ったアメリアが小さく悲鳴を上げロッテの名を呼べば、敵を捌きながらこちらへ向けた護衛達の目が伏せられたり、見開かれたり、細められたりされる。その中でもトーマの近くで戦っていたウィルは、敵を強引に捻じ伏せるとトーマの元へと駆け寄った。トーマたちを囲う近くの男を切り倒し相手が動揺をした所で、ウィルはその間を一気に駆け抜ければ、魔法発動直前のトーマの元へはすぐだった。


「トーマ、止めなさい」


トーマを庇うように立つと再び剣を構える。わざと発動した時に当たる位置へと陣取る彼に、出ない声で非難をするが、彼は魔力が手中している腕をつかむとそのまま引き寄せた。先ほどまで同じことをロッテにしていたのに、今度はウィルに自分がされるとは。逞しい胸に抱かれたトーマは驚いてウィルを見上げると額にキスを落とされ、集中させていた魔力が弾け飛ぶ。


「貴方の魔法はそんな事の為に使ってはいけない」


いつものように優しく微笑まれ、すぐにウィルの腕から開放されると、彼女をと指示される。慌てて頷きロッテの元へ駆け寄るトーマを見届けてから、ウィルは冷たい目をして綺麗に笑った。


「トーマへ手を出した罪は、重い」



(貴方は手を汚す必要は無い。汚れ仕事は、私が、引き受けましょう)



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