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解除者のお仕事  作者: たろ
解除者のお仕事
39/78

5-16


 亭主に言われた通り、一本奥の通りへ向かえばおいしそうな匂いが漂ってきていた。場所を聞かずとも、匂いを辿ればすぐに目的の店へと辿りつける。夜遅くから開いている店なのかそろそろ店じまいな雰囲気もしていたが、扉を開ければ恰幅の良い女性が元く気に迎えてくれた。カフェというよりは、居酒屋と定食屋を兼ねたような店だ。メニューをみれば重いものばかりで、トーマは顔をひきつらせた。この年齢で朝から昼間に食べるような食事はなかなか喉を通らないのは分かっている。無理して食べることもできるが、絶対に胃もたれをして後悔するのは目に見えていた。他のメンバーがさらりと決めてしまい、焦ってメニューへ目を落としたトーマだったが、ライアスがさりげなくトーマはこれで良いか?と一番量の少ない軽食メニューを指差してきたので、驚きつつも頷いた。メニューを厨房へ伝えに言った女性を見送ってからなぜわかったのかと聞けば、さも当然と言った顔で


「トーマは夜が遅いといつも朝はコーヒーとサンドウィッチを頼んでいただろう。昨夜も遅かったから多くは食べれないと思ったんだ…食べたかったか?」


 と言ってみせたので、有り難いやら恥ずかしいやらで思わず赤面してしまった。そんな二人のやり取りを見ていつも通りくすくすと笑っているアメリアに、レオルドが我慢しきれず声をかけたのは出された料理が半分程減ってきた頃だった。朝からパスタを頬張る彼女の横顔をじっと見つめていた彼は、珍しく真剣な表情でアメリアの名を呼んだ。食べることに集中していたアメリアがワンテンポ遅れて顔を向けレオルドの表情を見て、察したのかカタリとフォークを置いた。


「本当に、行くのか?」


 その問いかけに、他愛無い会話をしていたトーマ達もぴたりと口を噤むと二人へと視線を向ける。アメリアは、レオルドの硬い声に臆することなく、しっかりと見つめ返すと頷いて見せた。その表情は、死地へ向かうとは全く思っておらず、瞳には強い意志が籠っている。無理をしているようには到底見えない様子だった。


「大丈夫ですよ、レオルドさん。本当に、平気なんです。確かに怖くないと言えば嘘になりますが…私には、皆さんがいらっしゃって、事前に対策を練っていただいて…それなのに、私が怯えていてはいけませんよね」


 そう言って笑う彼女は、当たり前なのだと本気で思っているようで、誰もそれ以上は何も言えなかった。自分だったら怖くて逃げだしたいと言っているような状況なのに、10歳も年下の彼女は笑って大丈夫ですと答える。なるべく暴力沙汰になるのは避けようとは考えていたが、これは、腹を括らなければならない。こんなことはしたくはないが、命を重さを比べれば、神父や偽聖女とは比べ物にならないほど、アメリアの命は重いのだから。そう思ったのは他のメンバーも一緒だったようで、穏やかに微笑むアメリアとは対照的に表情は硬かった。

 その後、昨晩調合したトーマ特製麻痺解除薬を飲む事になり、経験のあるレオルドがこの世にこれ以上苦いものがないと宣言した。実際に言った通りの激苦の口当たりに、それまでシリアスだった雰囲気は一気にぶち壊しになったりした。


 食事を終え通りへ出れば、店が開き賑わいだした頃だった。歩き出せばすぐに聖女様だと辺りがざわめきはじめ、最早見世物状態で道を進む。時折治癒をして欲しいと駆け寄ってくる者へは、ライアスとウィルが当たり障りなくこれから神父の元へ行くが午後からは昨日と同じ所で治癒活動をするのでと説明すれば、全員が素直に従った。神父の名前を出せば、皆が顔色を変えるので相当の権力者なのだろう。教会が近くなるにつれて緊張していく中、とうとう見慣れた建物の前へと辿りつけば、やはり昨日同様に多くの治癒を求める人間が集まっている。どうやって入口へ近寄るか悩む中、周囲の人間がアメリアの姿に気づけば、取り囲まれるのは時間がかからなかった。治癒して欲しいと人々は静止の声も聞かずに押しかけてくるため、トーマは防除壁を張ろうと前へ出た所で、急に人々の動きが止まった。突然一か所人垣が割れたかと思うと、そこには気味の悪い笑顔を浮かべている神父の姿があった。


「おはようございます、聖女殿。お待ちしておりました」

「おはようございます、神父様。遅くなってしまって申し訳ありません」


 恭しく頭を下げる神父に、アメリアはいつものように聖女の笑みを浮かべると、申し訳なさげに頭を下げる。その態度に、神父はニヤニヤと笑いながら首を振った。


「いえいえ、明確な時間の約束はしておりませんので、問題ありませんよ。さあ、どうぞこちらへ」


 こちらの返事など聞かずに歩き出す神父に、アメリアはライアスへ視線を送る。彼は小さく頷くと神父の後を追うよう歩き始め、ウィル、アメリアと続いていく。動かないレオルドへトーマが視線を向ければ、レオルドは顎で先に行けと指示してきた。正直後ろから物理攻撃をされても防ぎきれる自信がなかったトーマは、ありがとと小さく礼を言うと少し離れてしまったアメリアを追うように駈け出した。その背中をレオルドが追った。神父が通った後の面白いほど人が引いて出来た道を通れば、すんなりと教会の中へと入ることができる。

 バタンと重い音をたてて扉がしまれば、急に静かになった。失礼にならない程度で回りを見渡すと、礼拝堂内は他の教会と何なら変わりがないのだが、どこか空気が重いような気がする。考えすぎか、と心の中で苦笑をして神父へと視線を戻すと奥の扉が開き見たことのある少女が姿を表した。掃除をしていたのか、バケツを両手で抱えている。


「ああ、ロッテ、丁度良い。こちらへ」


 笑顔を崩すことなく少女へ声をかけると、彼女はビクンと肩を揺らしながらこちらへと顔を向けた。ロッテと呼ばれた少女の顔がしっかりと見えると、無意識の内にトーマは唇を噛み締めた。予想はしていたが、矢張彼女は昨日絡まれている所を助けたロッテ本人だったのだ。相手もアメリア、ライアスと視線を向けてトーマが立っているのに気付くと、驚いて口を押さえていた。ロッテの反応などどうでも良いように神父が急かすと、彼女ははっと我に返り俯き加減にこちらへと近寄る。近くまでやってくると、神父はロッテの腕を掴み力任せに引っ張りアメリア達の前へと出させる。そんな乱暴な扱いに、アメリアが眉を顰めたが、神父は変わらず笑顔を浮かべたままだった。


「ご紹介しましょう、聖女殿。こちらが我が教会に表れた聖女、ロッテです」


 ロッテは、強張っていた顔に無理矢理笑顔を浮かべさせ頭を下げる。それを見て、不安そうに見つめていたアメリアもにこりと笑顔を浮かべると一歩歩み寄った。


「貴女が聖女さんですね。初めまして、私はアメリアと申します」


 握手をしようと手を伸ばそうとしたアメリアを、ライアスがさりげなく遮り後ろへ下がらせる。その対応に神父はこれはこれはと笑った。

 

「護衛殿、ロッテは何も致しませんよ」

「聖女なんだろ、治癒する所見せてみろよ」

「疑っておられるのですか?」

「疑うだろ、普通」


 不機嫌そうにレオルドが睨み付けれるも、神父は全く動じることなくニヤニヤと笑うと成る程と頷き、ロッテの腕を掴む。力任せに掴まれ、思わず痛みにロッテが顔を歪めるが、気にすることなく神父は笑顔を浮かべている。


「仰る通り、実際に目にしないと信じられませんな」


 神父が勢い良くロッテが羽織っていたマントを引っ張れば、首でとめていたボタンを弾け飛ばせながらマントは床へと落ちた。あまりの出来事に驚くトーマ達の前で、ロッテの白い腕を前へ出させると、神父は胸元から小型のナイフを取り出した。


「何を…!」

「聖女の力をお見せしましょう」


 思わず静止の声をかけようとしたライアスだったが、それよりも早く神父は口元だけを引き上げたような笑いを浮かべると、そのままロッテの腕を切り付けた。


「痛…っ」

「テメェ、」

「ロッテ、やりなさい」

「っ、はい…」


 レオルドの声を遮るように神父が命ずれば、ロッテは血が滲んでいる腕へと片手を宛て目を閉じる。ふわりと彼女の白いワンピースが揺れて辺りが光に包まれたと思えば、血が滲んでいたはずの腕は白く綺麗なものになっていた。


「傷が…」


 思わずもれたアメリアの呟きに、神父は満足そうに頷くと笑った。


「これが聖女の治癒の力です」


 信じられないと驚くアメリア達に、神父は楽しそうな笑顔を浮かべしきりに頷いている。だが、トーマはロッテの傷口よりも彼女の表情から目が離せなかった。その視線に気づいた彼女は、俯き気味だった顔を上げトーマの方へと目を向ける。一瞬縋るような表情を浮かべるも、それはすぐに微笑みで消えてしまう。笑っているはずの彼女は、とても悲しげだった。

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