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解除者のお仕事  作者: たろ
解除者のお仕事
21/78

4-6

 目指していた洞窟へは二日程で辿り着いた。

 何度か魔物とも遭遇したが、シアンを助けたときに出てきた大型魔物はおらず、ほぼ小物。最初は小物魔物にも怯えていたシアンだったが、すぐにライアスが片付けてしまうので、片手で数えられなくなってきた頃の遭遇ではトーマの服の裾を握りしめる程度まで落ち着いていた。それでも数日間この森の中を一人で過ごしてきたのだと思うと、どうも甘くなるトーマをさり気無くアメリアが嗜めていた。そんな珍しい二人のやり取りを見てウィルがまるで父親と母親ですねと笑うと、レオルドが拗ねたような顔しながらウィルへと食って掛かっていたが、トーマに当たることは止めたようだった。


 湿った洞窟内は、外よりは暖かかった。水音が響く中進む一向に、時折シアンがそこは危ないと声をかけてくる。指摘された通り、足場が崩れていたり、一見ただの水溜まりのように見えるが底無しだったりと、洞窟から村までの道のりは分かっていると言っていただけはありこの中で一番洞窟の地理には明るい。彼女の注意を受けつつ進んだ先で、分かれ道の前まできた時にトーマと手を繋いでいたシアンが急に手を離すと先頭へと駆け出てきた。


「こっち、近道!」


 道幅が狭くなってきている方を指差すと、今まで先頭を歩いていたライアスの顔を見上げる。正規ルートは反対の道なのだが…今までの彼女の的確な注意から考えるに、近道なのは間違いないのだろう。視線だけで他のメンバーへ問いかけると、満場一致でシアンが言う近道へ行く事が決まった。


「案内頼めるか?」


 視線の高さを合わせるようにしゃがんで話すライアスに、シアンは嬉しそうに頷くとこっち!と駆け出そうとしたので、トーマは慌てて呼び止める。


「シアン!」


 トーマの声に振り返るシアンの他に、何事かとライアスもトーマの方へと顔を向けた。


「危ないから、ライと手を繋いで」

「シアン平気だよ、トーマ!」

「お願いだから」

「…わかった」


 頬を膨らませながらも承諾したシアンは、再びライアスの前へと戻ってくると手を差し出す。不満げな彼女の様子に小さく苦笑を浮かべながらも、ライアスは彼女の小さい手を握ると立ち上がる。すると、その手を引くようにしてシアンは歩き出した。


「こっち!」

「ごめんな、トーマじゃなくて」


 シアンにだけ聞こえるような小声で言ったライアスに、頬を赤く染めるとぷいっと顔を反らす。


「ライは強いから、特別に繋いであげるの」

「有り難う」


 ライアスは小さい手を握る力を少し強める。トーマには及ばないが、少しは心を許してきてくれている少女に小さく笑った。


 案内された近道は、正規ルートよりも上を歩いているようだった。確かに、少し狭いが全く魔物とも遭遇せず歩き進められており、それだけでも短縮ができる。早めに洞窟を抜けられそうだと思っていた頃、突然後ろで大きな音がした。驚いて振り返ると、今自分達が歩いてきていた道の地面が崩れぽっかりと穴が開いていたのだ。最後尾を歩いていたトーマが落ちそうになった所を、珍しくレオルドが腕を掴んで引き上げていた。


「トーマ!」


 慌てて駆け寄ろうとしたシアンの手を、ライアスは強く握ると引き留める。何をするのかと怒ったような顔を向けてきたシアンに、後方のトーマが声をかけた。


「大丈夫、危ないからライから離れな―――」


 聞き取れたのは、そこまでだった。トーマとレオルドの居た場所から再び地面が崩れ落ちて、二人が巻き込まれていくのが見える。近くに居たアメリアをレオルドが突飛ばし、彼女は崩落ギリギリなところで倒れ込み難を逃れた。


「トーマぁ!!」


 シアンが叫ぶよりも早く、ライアスが駆け寄る。その後を追って崩落した穴へと駆け付けようとしたシアンを、途中に居たウィルが抱き止めた。


「危ないですから!」

「やだぁ、トーマぁ!」


 悲鳴を背後に聞きながら、慎重にライアスが穴を覗き混むと、レオルドがトーマを抱き込むようにして瓦礫の上へと倒れている姿を確認できる。幸いにも二人の上へは小さい瓦礫のみが降り注いでおり、挟まれるといった事態は免れたようだ。


「大丈夫か?!」

「ったく、んだよ!」


 不機嫌そうなレオルドの返事が問題無い証拠だろう。トーマも上体を起こすといつものように笑って見せた。


「大丈夫!シアンにも伝えてあげてー!」


 自分が落ちたと言うのにシアンの心配をするトーマも問題無いだろう。心の中で苦笑をしながら、ライアスは崩落した周りを見渡す。落ちた高さはそれほどではないので頑張れば這い上がれるだろうが、地盤が緩く二次被害が生まれかねない。助けたいのは山々だが、ここは別行動をとるのが正解だろう。恐らく二人が落ちたのが正規ルートだと踏み、既に立ち上がっていた二人へ指示を出した。


「無理に上がればまた崩れる可能性がある、二人はそこから出口を目指してくれ」

「はぁ?!道わかんねーぞ!」

「そこは、さっきの分岐点で通らなかった方の道だ。道なりに真っ直ぐ進めば出口だよ」

「分かった!」


 素直に頷くトーマを見て、レオルドも不満そうだが了承をする。とりあえず、その場に留まるのは危険だと判断し、二人はさっさと歩き出していった。そこまで見届けると、ライアスもすぐにその場を離れる。少し後ろの所で心配そうにこちらを見ていたアメリアと、シアンを押さえ込んでいるウィル姿の元へ合流すると簡単に状況を説明した。それでも愚図るシアンに、ライアスはしっかりと肩を掴むと目を合わせた。


「落ちたトーマがシアンの心配をしてたんだ。お前が泣いてたら、トーマが悲しむだろ?」


 トーマのために、と諭してやれば彼女はすぐに泣き止んで見せる。小さいながらも恋する少女に、その場に居たメンバーは状況も忘れ笑うのだった。



 トーマとレオルドは、ライアスからは見えない位置まで歩くと体の状態を確認した。落下したときにレオルドに庇われていたので、大きな怪我も無く体は通常に動いてくれた。ほっとしてから砂まみれの服を叩きながらレオルドの方へと視線を向けると、彼も服の砂を叩いてはいるが、どうも様子がおかしい。


「レオルド」


 声をかけるとなんでもないような顔を向けてくるが、額に汗が浮かんでいるのが分かる。トーマを庇ったときに怪我をしたのはすぐに想像が付いた。


「どこが痛いの?!」

「い、痛くねーし!」


 トーマが触ろうとした手を動揺しながら避けるレオルドだったが、左腕を動かしてすぐに顔をしかめる。それを見逃さなかったトーマは、慌ててレオルドのマントを捲り上げると、左腕部分が破れ出血しているのが見つけた。一瞬息をのんだトーマだったが、すぐに傷口へ向けて掌を翳す。


「お、おい?」


 何を始めるのか戸惑うレオルドに構うことなく、お馴染みの魔法で水を出し傷口を洗い流す。


「っ!!」


 思わず上がりそうになった悲鳴を噛み殺す。そんなレオルドに構うことなく、トーマは自分の鞄を漁ると薬草と包帯を取り出し、傷口付近の水気を少し飛ばせてから手際よく処置を始めていった。呆然と眺めていたレオルドへ、きゅっと包帯を結んだトーマが顔をあげると終わったことを告げる。


「すげぇ…お前、薬の調合もできたのか?」

「齧った程度だよ…師匠なら明日には治せるぐらいの作れるんだろうけど、俺が出来るのは応急処置だけ…アメリアと合流するまでは、これで凌いでもらうしかないかも…」

「いや、十分すげぇよ…!」

「ありがと。それよりも、他は?大丈夫?」


 じっと見上げてくるトーマに、レオルドは慌てて体を確認し始める。体の左全体が痛むが、腕のような動かせない程の痛みではないので、言う必要も無いだろうと思い頷いてみせた。だが、納得行かないと言った表情を浮かべ無言で見上げてくるトーマに、ぐっと声を漏らすと観念する。


「…左側がいてぇ…けど!そんだけだ!動かせないわけじゃねぇよ!」


 そこまで言ってやれば、やっと納得をしたのかトーマが表情を緩めてくれた。


「良かった…何かあればすぐに言って。戦闘になっても、なるべく俺が戦うから」

「はぁ?!お前を前衛なんかに出せるかよ?!」

「元はといえば、俺の不注意なんだ!…本当…ごめん…」


 今度は泣きそうになりながら頭を下げてくる姿に、やっと彼が必死になっている事へ合点がいったレオルドは、馬鹿じゃねぇのと小さく呟く。その声に肩を揺らしながら顔を上げたトーマの額へ、思い切りデコピンを食らわせてやった。


「~っ!」

「落ちたのはトーマの責任じゃねぇだろ。ばーか」


 驚くトーマにニヤっと笑えば、泣き笑いを浮かべながらありがとと律儀に返される返事に悪い気はしなかった。


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