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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第一章 鉄パイプの魔法使い
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第二の街シュビエ

 イザが次に目覚めたのは昼過ぎだった。べとつく肌に髪の毛や草、土、血の塊などがこびりつき、服はボロボロ、傍目にはゴブリンと変わらない程の酷い有様になっている。


 ノタリ と上半身を起こし、しばらくうなだれた後、周囲を見回した 。

 スイがしてくれた事は思いっきりどつかれた辺りからハッキリ覚えているーースイの焦り、回復水の心地良さ、鉄パイプから伝わる水精の感覚、スイの怒気ーー


 肩を見ると、完全に元通りだった。ありがたい、心の底から安堵する。スイに向かって『ありがとう』と思念をむけるが返事はない。どうやら疲れて寝ている様だ。


 身体が動くのを確かめると起き上がり、ゴキリ と首を回す。左肩も回すと何の支障もない、嬉しくなりその場でピョンピョンと飛んでみる、と、妙に体が軽い。足元の鉄パイプを握ると以前より軽く感じた。


 超回復という現象がある。イザの身体は過度な酷使と、その後の急激な回復によって全体的に強靭になっていた。また、栄養失調から骨もスカスカだったが、肉水の栄養と回復水による再構築で見違えるほど健康な骨に生まれ変わっていた。


 気絶してから大分時間が経っているようだが、追っ手のゴブリンはあの5体だけだったようだ。周囲は凄惨を極めた状態のままだが、それ以外の異変は見当たらない。

 だが、いつ他のゴブリンや血の臭いに誘われたモンスターが来るか分からない、ここは相当油断のならない場所のようだし急いで離れた方が良いと思ったイザは、周囲に散らばった荷物を集め出した。幸い手近な所にイノシシの毛皮や牙が見つかった、これはゴブリンが拾って来てくれた様なものだ。それと、魔法使いのゴブリンが持っていた立派な杖も持って行く事にする。


 悲しい事に兄から貰った蒼曜石のナイフは、死体に食い込みすぎて取れそうにない。引き抜くのを諦めると、兄に感謝して手を合わせた。


 今の持ち物は、イノシシの毛皮、牙一本、干し肉少し、赤石の杖、鉄パイプ、麻袋のバッグ、フロシキ草の葉二枚。

 牙、肉、葉っぱをバッグに入れて肩にかけ、イノシシの毛皮を赤石の杖に巻き付けてそこら辺の蔦で括って背負うと、鉄パイプを担いで出発した。


 途中で黒狼や、つがいのトロールなどと遭遇したが、ドライアドの加護の影響か、難なく回避して街道を進むと平原地帯にさしかかる。

 なおも進むと、小高い丘の上に周囲を高い壁に覆われたバイユ第二の街シュビエが見えてきた。


 辺境の小国バイユのさらに第二の街シュビエは、他国の街と比べればさして立派とも言えないが、魔石の加工で知られており、交易の街としてもそこそこの賑わいを見せている。今では黒神の呪いが続き国力の落ちた王都よりも混雑しているかもしれない。

 ましてや生まれた村以外を知らないイザにとってはとてつもなく巨大な都市に見えた。


 街に近づく前に、放水して体と衣服を洗ったものの、髪はギトギトのまま、服は余計にボロくなってしまい、もはや服と言うのもはばかられるものだった。


 それでも行かなければならない。意を決したイザは小さな期待と大きな不安を胸に街門へと向かった。


 門の前には街に入ろうとする列が出来ていた。

 その列に加わるものの、周囲とは明らかに浮いている。恥ずかしさのあまり、小さくなって我慢する事しばし、イザは門番に呼ばれて門内の検閲場に入る。


 門番は2人づつ2組みで検閲を行っていた。慣れた者は顔パスで通っていくようだ、が、当然イザは門番に呼ばれて隅で取り調べを受けた。

 持ち物を全て検査されて、ボディーチェックを受けた後、イザの目線が胸にも届かない大柄の男に尋問された。


 半裸の小汚い少年は浮浪者として、街の治安を悪化させる可能性が高く、長期間滞在させるわけにはいかない。

 しかし、規制を強くしすぎても、交易都市としての発展が阻害されてしまう。


 こういった場合、尋問をして交易目的である事を確認後、短期滞在の証である木札をもたせる事になっていた。


 イザが必死に毛皮を売りに来たことを話すと、その後は一通りのお決まりの尋問が済んだ後、呆気ない位簡単に門を通された。


 イザには分からなかったが、尋問の際、魔石を組み込んだ鑑定魔具による判定も行われていた。更に門番も洞察力に特化した訓練を受けた兵士が担当するなど、本人が思うほど簡単な物ではなかったが、イザの知る由もない。

 街について色々と聞きたかったが、取りつく島もない門番に口下手なイザは何も言えずに街に入っていく。


 一歩踏み入れると沢山の人波に圧倒され、見たこともない服装や、立派な建物の連なる目抜き通り、騎獣の引く車など、とにかくカルチャーショックの連続だった。


 すれ違う人々はイザの事など気にしないか、憐れみや嫌悪の視線を送るのみで、毛皮を売る場所を聞きたくても避けられるばかりだった。


 困り果てて、とりあえずそれらしい店に入る事にした。軒を連ねる様々な店の中でも、そこそこ繁盛している店に目を付ける。


 店の中にはカウンターが有り、愛想の良さげな男がいた。入って来たイザを見ると、途端に眉間にシワを寄せて睨みつけると警備の男に合図をした。

 たまたま入ったこの店は、老舗の魔具屋であり、高額な商品を扱うため、当然の様に客も選んだ。


 イザは摘み出されそうになりながらも、必死にカウンターの男に毛皮や牙、杖を売りに来た事を告げる。


 カウンターに食らいつきそれらを拡げ、罠猟で仕留めた事、これまでの旅の事などをひたすら話した。

 警備に掴まれて表に連れていかれる寸前、カウンターの男がそれを止める。男は杖をジッと見ていた。


 突然、イザに向かって杖を手に入れた経緯を聞いて来る。イザは素直に魔法を使うゴブリンから手にいれた事を話した。


 カウンターの男はしばらく考え込むと、全てひっくるめて買取しよう、といってきた。

 イザは嬉しさを隠しもせず喜ぶ。


「全部で10銀だな、黒イノシシの毛皮と牙で6銀、杖で4銀だ。」


 言われたイザは残念ながら貨幣価値が分からない。が、父親がイノシシを手に入れた際、これだけの大物なら10銀は下るまいと言っていた事があったので、悪くない金額じゃないか? と思った。


 それでいい、と言おうとした時、店の奥から、


「そいつはどうにも頂けんな、他人の商売にケチをつける様で悪いが、その取引は無いな」


 よく響く男の声がしたかと思うと、店の奥から恰幅のいい壮年の男が出てきた。


 深い皺の刻まれた顔にギラリと強い眼光、一目見たら忘れられないインパクトのある容貌だ。


「他所の人は黙っといてくれ」


 カウンターの男は声を荒げる。


 と、奥からこの店の店主が現れて


「ばかっ!ダグラスの旦那にそんな口聞くやつがあるかっ!」


 とカウンターの男を叱りつけた。


「すいません旦那、こいつは何にもわかってない馬鹿野郎でして」


 店主はダグラスにこびを売る。カウンターの男は隅においやられた。


「すまんな、人の商売に口はさんだこっちが悪かったが、どうにも黙ってられなくてな。」


 ダグラスは店主の低姿勢にもあまり威丈高にならず、フォローを入れる。


「店の男はわからなかったかもしれんが、その杖は相当価値のある代物と見た。すまんがこの取引はワシに譲ってくれんか?」


 あまりフォローにもなっていない。言葉じりは優しいが、有無を言わせない強引さがあった。


 他人の商売にケチをつける事は商売人最大のタブーである。それをやすやすと提案するこの男と店主の力関係は推して知るべしだった。


「ええ、ええ、もちろん構いませんとも。では奥の部屋をお使いくださいませ」


 店主はとにかくダグラスに媚びいる。


 ダグラスとイザは奥の間を借りると、もう一度杖や毛皮、牙を手に入れた経緯を話した。


 時に驚き、感心しながら聞くダグラスに気持ちよくなって、つい、水魔法の力や鉄パイプの事も上手く話に引き出されてしゃべってしまう。

 特に肉水の力の件と、山道の崖崩れに出来た洞窟の件、そこで手に入れた鉄パイプの件は根掘り葉堀り聞かれた。その中でも何と無く、スイの事だけはしゃべってはならない気がして黙っておいた。


 全て語り終えた後、ダグラスは満足気に感謝すると、商談に移るといい、毛皮と牙で10銀、杖を5金で買いたいがどうか? とたずねてくる。


 金などという単位を聞いた事がなかったイザはキョトンとして、素直にどの位の価値があるのか尋ねる。

 ダグラスが言うに、100銅が1銀となり、100銀が1金となる。

 だいたい街中での外食が一食50銅〜1銀となるとの事。つまり、贅沢にたべても510食たべる事ができる。

 10以上=沢山! のイザは思わぬ収入に喜んだ。

 10以上数が分からないイザを見て、ダグラスはしばし黙考した後、フーッと息を吐いてから、


「よしっ!ついて来い!」


 言うが早いか、イザの手を取り店を出た。

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