全力の種
スイは焦っていた。母体である守りの木の元をを発ってから、順調に寄生主の少年を導いて来たはずが、彼は突然にして生命の危機におちいっている。
生まれたてのスイは少年と一心同体であり、この体で成長しなければ種としての命もなかった。
焦る少年に干渉して、持てる力を絞りださせ、なんとかゴブリンとの戦闘を凌いでいったが、最後の魔法使いは想定外だった。
『やばいやばいやばい!』
焦るスイはまだ生まれたての赤ん坊と一緒で、母の知識や力を受け継いでいるとはいえ、経験が足りなさすぎる。
兎に角少年を死なせないために動かなければならない。スイは周囲の森に干渉して、少年を包む草のドームを作った。
少年の左肩はえぐれて吹き飛び、左太腿にも刺し傷を負っている。特に肩の火傷はひどく、回復する術もないほどの致命傷で、苦しげに漏れる息も力弱くなって来ていた。
スイは母から継承された知識を総動員して少年を助ける方法を模索する。自分の使える力の中にも回復魔法はあるが、幼体である今はせいぜい小さな怪我を治す程度の事しか出来なかった。
少年の使っていた水魔法の系統には回復魔法もあったはずだ。だが、少年にはそのような高等魔法の素養がない事も理解していた。肉水はたまたま生み出す事ができた少年固有の魔法だと思われるが、それ以外は唯の水しかつくれない様である。
だとすると、助かる可能性としてはスイの導きの元、少年の力とスイの力を合わせて、回復魔法を成功させるしか無い。
迷っている時間はなかった。スイはドームの草を操作して、鉄パイプを少年の手に固定すると、その先端を火傷を負った肩に向け、全力で少年に干渉する。
『きいて、わたしの力を感じたら、同じ感覚を持った水をつくって!』
強烈な念話を送り込む。気絶した少年からの同意を受けられないまま、焦ったスイは思い切って回復魔法を発動した。
〝ホワッ〟
ミドリの光がイザの腹の内から放たれると周囲の草に広がっていく。
が、イザは少しうめくだけで水魔法を発動する気配がない。
しばらくすると光は止み、少し肩の焦げが小さくなったイザがいるのみ。
『ゴラッッ!』
スイはブチ切れると草で少年を殴りつけてしまった。
「アガッ!」
痛みに思わず仰け反るイザ。
『力を感じたら、同じように力を出さんかいっ!』
スイはぶち切れたまま、ありったけの魔力を振り絞り、回復魔法をかけた。
〝ホワッ〟
またもミドリの光が腹を中心に広がる。訳の分からないイザも分からないなりにありったけの魔力を使い、その魔力と自分の魔力を同調させた。
途端に広がる光の洪水、緑の光がやがて青と交わり完全に同調すると、鉄パイプから溢れ出す水でドームが満たされた。
それらが全て少年の傷という傷に吸い込まれると光は止む。
『やった』
と思ったのも束の間、スイは意識を失う。赤ん坊の癖に力を使いすぎて、母から貰った魔力を使い切ってしまったスイは、この後しばらく休眠状態を余儀なくされてしまうのだった。