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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第三章 サバニ漁師と裸海女
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生体内運命

 〝ヨクゾキターー我ハコノ島ノ核ーーコレヨリ休止スル故ーーマモリーーヲターーノーームーー〟


 浮島の核が鎮座する部屋に一行が入った途端に強烈な思念波が放射された。余りの魔力量に、慣れないワンジルは酔って嘔吐しそうになるが、護衛戦士のど根性で逆流物を飲み込む。

 同時に腹の底が温かくなる、それは核の放った思念波に隠された精神魔法がジンワリと浸透した証だった。


 皆の中にあった〝なんで私が核を守らなくてはならないんだ〟という腑に落ちない感情が消え〝核を守らなくては!〟にすり替わっていく。


 巫女のミストと護剣士ファング、それとドライアドのスイは精神魔法への耐性が高く、周囲の状況を醒めた目で見守っていた。


 地面に垂れ下がっていた多肉硬葉が隙間なく核を覆うと、床下に空いた穴に潜り込む。それを追う様に地上の花弁が降りてきて穴に被さると真っ赤な蓋となった。


 休止状態に入った核を見守った後、スイの指示をイザが皆に伝える。外に通じるのは三箇所、皆が通ってきた通路と、核部屋に繋がる花弁の道、それに海底から繋がる核の食道。

 それ以外の場所は硬い殻に覆われており、そこからの侵入は不可能との事。

 上下道は核しか操る事ができず、硬く締められた穴は浮島にも操る事が出来ないらしい。


 念のため、荷物を降ろしたガーゴイルが上方下方に一体づつ、狭い穴にむりやり潜り込んだ。いざという時は括り付けられたドゥー特製の呪香袋を破り、自身が障害物となってモンスターの侵入を防ぐ算段になっている。


 後は核部屋の前にある広場を守り切るのみ、時間にして一刻の間突破されずに守り切ればイザたちの勝利となるという。


 核部屋との通路が閉じると同時に周囲の光が消えた。真っ暗な部屋の中で、夜目の効くセレミーとラヴィがカンテラを取り出し火を付けるとボンヤリとした明かりで部屋が照らされる。


 部屋はそこまで広くはない。細長い作りの空間は浮島の根塊で覆われており、柔らかい地面がブヨブヨと落ち着かなかった。


 核の部屋との境目に鉄木のシェルターを作り出し拠点とすると、通路ギリギリにも前線を敷いた。一行は物資を配置したり、ドゥーの呪術トラップを部屋前の通路に仕込む手伝いをしたりと忙しく動いた。


 そんな中でミストは跪きながら祈りを捧げ、ファングはその周囲に小さな壺を正六角形に配置していく。

 興味をもったイザが近づくと、


「さわるな! 儀式の道具は配置も重要です、死にたく無かったら手を触れずにそのままにして下さい」


 ファングに一喝されてシュンとなる。


『余計な事してる暇は無いよ、もう直ぐモンスター共がやってくる筈だからしっかり感知魔法を展開して』


 スイの指摘に改めて水分感知を働かせると、通路の先から猛スピードで迫ってくる者達が引っ掛かるーー次の瞬間ーー


 ボフッ! とセレミーの仕掛けたトラップが発動し、目の前の通路に火の手が上がった。

 暫くすると、モウモウと呪香の煙が通路に充満する。

 部屋には煙を突っ切って走り寄る水狼が四体、足をもつれさせて転がり込んだ。


 呪香を吸って痙攣する水狼達がのたうちまわる。すかさず駆け寄ったラヴィとワンジルによって首が跳ねられ、急所を貫かれていった。


 この時点で前衛がラヴィとワンジル、そしてガーゴイルが二体、その後ろにイザとセレミーがドゥーを守る陣形で部屋の前方に詰めていた。


 祈りを捧げるミストは部屋の中央部に鎮座し微動だにせず、それを守るファングはピッタリと張り付いて今の所戦力外となっている。


 最初の水狼達を退けると、直ぐに後続が迫って来た。

 その気配を感じ取ったドゥーは蛇牙の呪物を咥えると、通路に向かって息をフーッと吹き掛ける。

 それに合わせて通路の呪煙が渦を巻くと、勢いを増した煙に巻かれたモンスター達が苦しみのたうち出した。


 呪いの煙が後方まで蹂躙し、粗方通路のモンスター達を汚染した所で、更に後方から新手が迫る。


 次の呪術の準備に取り掛かかったドゥーが引っ込むと、庇う様にワンジルがズイッと前に出た。

 横に並び立つラヴィは巨大なクロスボウを構えると躊躇なく矢を放つ。


 ホーン船長自慢の破魔矢が次々とモンスターを貫通していく。その行方を確認する事無く、次の矢を放つ為に弓を引く。


 本来機械式の装置を使って引く剛弓を造作もなく素手でセットすると、間を置かずに発射する。その度に列をなすモンスター達が串刺しとなって倒され、矢が壁に突き立つ鈍い音が響いた。


 破魔矢を1ダースほど撃ち込んだ時、通路の奥の方からガサガサと耳障りな音が響いて来る。と同時に射出した破魔矢が弾かれる様になった。


 手応えで一早く違和感を察知したラヴィはワンジルとアイコンタクトをとって、魔導弩を後方に放ると、背負った大剣べフィーモスを一息に抜き放つ。


 その気配を察知したドゥーがワンジルに呪魂を授けた。束の間の超力を得たワンジルはドゥーのサポートを得て呪言の模様に赤く発光する短槍と長盾を構えると前に一歩前進する。


 目の前の通路は今やギチギチと物凄い騒音で満たされていた。暗い通路にテラテラと鈍く反射する濡れた甲羅。

 人喰い蟹の一種、大岩蟹でビッシリと埋め尽くされて床や壁自体が迫って来る様な錯覚に陥る。


「グルルルル」


 目を血走らせたラヴィが喉を鳴らして牙を剥く、突出したい気持ちを抑えて律儀に部屋から出ていないが、人間大の獲物の群れを前に待ち切れずに涎が滴った。


 部屋に辿り着いた一匹に踊りかかる様に斬撃を喰らわすと、そこからは怒涛の乱戦に陥った。


 弾け飛ぶ蟹の残骸、それに構わず後から後から湧き出す大岩蟹。

 ワンジルも長盾で押し返しながら甲羅の継ぎ目に槍を突き込んでいく。


 イザはスイに『僕たちもそろそろいくよ』と念話を送ると、鉄パイプを握り直して先端に精霊ナイフを生み出し短槍とした。


 スイが草盾の服を操作してイザの全身に鉄木や粘蔓による筋力補助を施して行く。単に筋力のみならず防御の面でも大幅に増強され、頭には簡易的なヘルメットまで施された。


 久振りの接近戦に身震いするが、精神魔法の効果のせいか不思議とアグレッシブな感覚になる。


 大岩蟹達はやられながらもグイグイと部屋に押し込んで来る、その背中をトトトンッ!と走り抜けた水狼達が飛び込んで来た。


 既に巨大化したラヴィが大剣と素手で切り払い握り潰すが、一匹が素早く潜り抜けるとイザの目の前に踊り出た。

 前方のラヴィは更なる大岩蟹の群れが迫ってきて、そちらの対応に向かわざるを得ない。


 覚悟を決めたイザは体ごと鉄パイプを突き出しながら前に出た。


 水狼は勢いそのままにイザの喉笛を噛み切ろうと飛び上がるが、イザが鉄パイプを向けると器用に身を捩って避けた。


『気を付けて! こいつ普通の水狼と違う』


 スイの指摘に注意して相手を見ると、普通の水狼よりも少し大きく動きも早い。


『上位種か?』


 牽制の刃水を発射するが、表面を覆う水に当たると力をいなされてダメージを与える事が出来なかった。


 水魔法使いの天敵である水のモンスター。予想していたとはいえ、軽くショックを受けるイザに、


『くるよ!』


 とスイが警告を発する。


 水狼の体表を覆う水膜に波紋が広がると、中心点から水弾が飛来した。


 左手に生み出した鉄木の盾で受けると鈍い衝撃に体がぶれ、塞がれた視界を計ったかのように回り込んだ水狼が飛びかかって来る。


 全てを魔知覚で捉えていたイザは咄嗟に鉄パイプを突き込んだ。

 草盾の服のサポートもあって重い突きが水狼の胸元を貫く。

 貫かれながらも水狼は牙を剥いて手首を噛み切ろうと狂った様に噛み付いて来た。


 右手で鉄パイプを持ったまま、左手に槍葦を生み出すと喉に突き入れて地面に押し付ける。

 そして鉄パイプを引き抜くと水狼の頭部を砕けるまで殴った。


 精霊ナイフの刃が通じる事に安堵しながらも一匹目からの苦戦に息が上がって苦しくなった。


『大丈夫、息を整えながら魔知覚を保って』


 スイのサポートは相変わらず的確で頼もしい。左手の槍葦を収納すると、鉄木の盾を前に構えて次なる獲物に向かう。


 ガーゴイルの内の一体が飛び回りながら、部屋の中に侵入して回り込もうとする大岩蟹を足で捕まえて空中に釣り上げた。だが、暴れる大岩蟹はハサミでガーゴイルの足を砕くとそのまま落下する。


 ちょうど見えた大岩蟹の足の付け根に強威力の刃水を放つと、貫通して着地と同時に内臓をブチまけた。

 試しに甲羅の表側に刃水を発射すると、表面を傷付ける程度のダメージしか通らない。この戦いでは近接戦闘以外は感知担当の回復要員だな、と一人納得した。


 まだまだ戦いは始まったばかり、通路の奥からはひっきりなしにモンスターが湧き出てくる。


「ふーっ」


 と一息付くと手薄な所に走りだすイザに、


『頑張れ! 死なない程度に』


 微妙なスイの掛け声が届いた。


生体内運命→薬物が服用された時の体内での作用の事。急造パーティーという薬の投与にどの様な副作用が現れるか、作者が楽しんでます(^◇^;)


久し振りの主人公戦闘参加、相性の悪い敵に苦戦を強いられております。次回はまだ見ぬファング参戦とセレミーの実力発揮!ーーなるか?

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