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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第一章 鉄パイプの魔法使い
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密林の死闘①

各話の長さがバラバラっす。

 大収穫に気を良くしたイザだが、2m超えのイノシシはビクとも動かなかった。そこで仕方なくそのまま解体することにする。


 腹から一気にお腹の皮一枚を割いて内臓を掻き出し、血抜きをした後、後ろ足からナイフを入れて皮をはいでいく。幸い水は出せるため、ナイフに脂がつきすぎないように洗い流しながら行う事ができた。

 大きな獲物に苦労しながら骨外しを終えて、大きな肉塊を取り分けた頃、そろそろ太陽も中天に差し掛かる。


 血の匂いにケモノやモンスターが寄ってくる可能性があるため、毛皮に苦労して折り取った牙2本と肉を載せて包むと半分ズリながら移動した。

 肉は多すぎて全部持っていけない為、美味しい脂の沢山のった部分を選んで、約半分の赤身や筋の多い部分は泣く泣く置いて行く。


 小さな小川を見つけて火を起こす。焚火の上に生木を組んで台を作ると、肉塊を切り分けて並べて燻し、大量の燻製肉をつくった。

 臭いが辺りに立ち込めてケモノ等を引き寄せる可能性があったが、これから先の旅を思うと保存出来る肉は魅力的である。

 下の火で串刺し肉を焼きながら、イノシシの毛皮をなめす為に脂でギトつく皮裏をクチャクチャとかみ続ける。

 専用の薬液がない今、簡易とはいえなめしておかないと、無価値の毛皮になってしまう。黒イノシシの毛皮は他に比べて価値が高い。ぶっとい牙も中身が詰まっており、いい値段で売れそうだ、と、イザはほくそ笑む。顎が疲れる位、なんてことはなかった。


 泣く程美味い焼き肉は噛むと甘い脂が溢れ出す。久しぶりの肉に感動し、満腹になるまで食べ、しばし休憩する。

 出来上がった燻製肉を回収するとそこら辺に自生するお化け笹の葉にくるみ、牙と一緒に毛皮に巻き込んで蔦で縛り付け肩に担ぐ。それから川下に移動した。


 久しぶりの大荷物に苦労しながらも進み続け、辺りが暗くなり始めた頃、程なく進んだ平地で野営する事にした。

 フロシキ草の寝床に横たわりながら、さらに皮を舐めし続ける。顎が限界に達した頃、身体も限界に達していた。


 全てが順調に行っている、イザは満ち足りた寝顔で惰眠を貪る。




 ーー好事魔多しーー




 その翌日、イザは泣きそうになりながら森の中を全力疾走するはめになっていた。


「ハァハァ ゼヒュー ハァハァ」


 息をきらせて駆けながら、何故こうなったか考える。


 イノシシの森から山道に戻り、歩き出してからしばらくすると、途端にモンスターの気配の濃い地帯に差し掛かった。しかし、そこを抜けないと王都には辿り着けそうも無い。


 イザは知らなかったが、今いるのはここ数年のモンスター活発化によって、王都の人間から〝死の森〟と呼ばれる様になった森の側で、第二の街シュビエからそれ程遠くない場所にもかかわらず、今では殆ど近づく者がいない地域だった。


 死の森は山裾に広大に広がり、街道も比較的ひらけた所に通っているが、一部森の中を突っ切って続いていく。

 そこをイザが通りかかった時、辺りにモンスターの気配を感じたので、いつもの様に隠密行動で回避しようと森に分け入った。


 隠れて観察すると、ゴブリンの群れが集団で移動している最中らしくこちらに向かってくる。


 目視できる程接近すると、その手には各々棍棒や何かの角、錆び付いた剣や斧、槍を持ち、数はすくないが弓やスリングを持つものもいた。

 野獣に比べて明らかに知能の高いモンスターは集団になるとやっかいだ。特にリーダーを持ったゴブリンは、統率の取れた軍隊の様に個を捨てて戦う場合もある。


 戦いの素人であるイザですら知っている知識を思い浮かべ、全力で逃げるべきだった、と後悔した。たが時すでに遅く、10以上の数を知らないイザは、とにかくいっぱいのゴブリンにすくみ上がり、息を殺してジッとやり過ごすしかできなかった。


 よく見ると先頭には一回り大きな身体の、胴鎧を着込んで手には朱槍を持ったリーダーらしき者がおり、大きな黒狼を連れている。狩の最中なのだろうか? 興奮した様子で狼の首輪をはずすと何かに向けてけしかけた。そして自身も慌ててその後を追い掛ける。


 なんとかやり過ごそうと縮こまるイザの周りにもゴブリン達は殺到する。慎重に距離を取ろうと静かに移動したその先にも小集団がいた。空いたスペースもなく、ここを突っ切るしかない!

 決断したイザは小集団の脇をすり抜けた。




 ゴブリンシャーマンのグズリはふてくされていた。群れの王は最近灰色熊猟にハマリきっている。だけなら良いが、群全体を狩に巻き込む為、今回も熊目撃情報の元、狩が行われて群れの中で高位に当たる自分も参加せざるを得なかった。


 全然乗り気でない彼は、自分の取り巻きゴブリン4匹と共に、群れの最右翼、一番後ろから形だけでも付いていく。


 運動が嫌いな彼も、狩は嫌いでは無かった。特に得意とする火魔法で獲物を仕留めた際の焦げた臭いは大好きだった。だが、ゴブリンの王は魔法で獲物を横取りされると、狂ったように怒りちらした。王は皆が狙う競争のなかで自分が先んじて仕留めるのを良しとしており、それを魔法なんぞで邪魔する事は許されざる行為だった。


 グズリがふてくされて最後尾なのも当たり前で、つまらない時間を潰すため、そろそろコッソリ一服しようとした時だった。


 ザザッ!


 グズリ達の横を何かが通り抜けた。


「グガッ」


 グズリは取り巻き達に注意を呼び起こす。


「ガガッ」


 それに合わせて取り巻き達も各々得物を構える。


 グズリは歓喜した。ハッキリとは見えなかったが、あれは人間の子供の様だ! 彼は人間の子供が一番好きだった、いろんな意味で。


 魔法の触媒である杖を構え直し、鼻のきく手斧使いを先頭に、槍使い2匹、錆び剣使い、グズリの順ではりきって追跡を始める。



 イザは泣きそうになりながら、なるべく撹乱する様に薮などを通って全力疾走する。途中、イノシシの肉や毛皮を纏めたものも、横に放り投げた。少しでもそっちに気を取られてくれたら生存率もあがるかもしれないという切なる希望を込めて。


 しかし、鉄パイプを抱えながらの逃走は思った以上に速度が上がらず、無情にも先頭のゴブリンの頭がチラチラと見える様になっていた。

 舌をだらしなく垂れ出して一心不乱に追いかけてくる緑の小鬼は、少年と身長こそ変わらないものの、その身体付きは明らかに優れており、手斧を持つ手には血管がビッシリ浮き出している。


 もはやこれまでか、と、覚悟を決めたイザは走るのをやめて藪に飛び込むと、身を低くして鉄パイプに小川で拾った小石を数個詰め込んだ。

 心臓が破裂しそうに脈打ち、息が切れてめまいがするなか、震える手で鉄パイプを構える。

 手斧ゴブリンは少年を舐めきっているのか、そのまま突っ込んできた。


 ズドンッ!


 と発射された石と水は散弾となって近距離のゴブリンを吹き飛ばす。胸に大穴を空けたゴブリンはドサッと倒れこむ。


 すぐ後方の槍使いは藪にすがたを隠され訳のわからないまま追いかけていたが、謎の轟音に思わず身体が固まってしまった。

 その隙に横に回り込んだイザはゴブリンの側頭部めがけて最高出力の噴射をぶちかます。


 ドシュッ! ゴキンッ!


 ゴブリンは首の骨を折られながらも、とっさに槍を繰り出す。その最後の足掻きの槍がイザの左太ももを貫いた。


「あがっ!」


 汚れた槍頭が半ばまで刺さっているのを確認して槍を掴む。だが恐怖から力がはいらなかった。

 追っ手の存在に気が焦るなか、イザは泣きながら槍を抜いた。見ると傷自体は小さいものの、ドクリと濃厚な血があふれだす。止血の為に腰紐を解いて服を破り、傷の上から固く縛り上げた。


 力を失い地面にへたり込むと〝ドクン〟と下腹が熱くなり不思議なことが起きた。


『大丈夫』


 いつかの夢の少女の声が頭に響く。


 その声を聞いたとたんに、パニックを起こしかけた頭が醒めて、冷静さを取り戻しだした。


 『大丈夫、傷は負ったものの、二匹も瞬く間に倒せた。この戦法は通用する、そうなれば何時もの罠猟と同じ事』


 頭が整理され、作戦が組み上がっていく。新手がくるはずだから、すぐに準備をしよう。イザは立ち上がると空いた手に手斧をつかみ、地面に転がる自分の血に濡れた槍の元に向かった。

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