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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第一章 鉄パイプの魔法使い
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能力と加護と寄生

鉄パイプはまだ出ないっす。

 初めて水を出した日から7日が経ったが、イザはまだ木の上にいた。


 不思議な事に肉水を飲むとお腹が膨れ食糧の心配も今のところない。体力も回復してきて、出発前より健康体になっているくらいだ。


 そして何より怖い思いをした森の中で、唯一安全な守りの木の上から離れ難くなっていた。


 その間に、突然に出現した能力を色々試した。

 普通の水は最初に比べて格段に出しやすくなり、手のひらに収まるくらいなら10を数えるほどで溜まるし、かなりの長時間出し続けられる。


 対して肉水は手のひら大を出すのにかなりの時間がかかり、その間、他に気が行かない位の集中力を要する。そして何より、連続して3つ作ると気絶してしまうのだ。


 イザも詳しくは分からないが、自分の能力は魔法ではないか、と推測していた。

 村に唯一いる薬師のババは魔力を使って様々な魔法の薬を作ってみせた。その時ババはかなりの疲労感を訴え、魔力が衰えたため回復薬なら日に一瓶しか作れないと言っていた。


 しかし、その薬効はすばらしく、イザが仕留め損ねた大イノシシに突かれて大怪我をした時には、一口飲むだけで傷口が塞がり、一瓶飲むと傷跡すらなかった。


 魔力に関する知識もその程度しかないためこれ以上考えてもしょうがない、堂々巡りにはまっている時だった。


 ガサッ! という音が近くの藪から聞こえた。


 ちょうど肉水を作っていたイザはそちらに気を取られると、手のひら大の肉水を落としてしまう。


 あっ! という間に3頭の野犬が肉水の落ちた所に殺到し、争う様に舐めながら、邪魔な相手と傷付け合い、狂った様に噛み付き奪いあった。


 奇声を上げ、致命傷をおいながらも肉水のしみこんだ地面に這いずり、更に傷付け奪いあった3頭は程なく絶命した。


 ゾッとしない光景に改めて恐ろしくなり木にしがみ付いて震えるイザ。もう自分はここから離れられないと半ば本気で思っていると、頭にコツンと何かが落ちてきた。


 枝葉に引っかかったそれに手を伸ばすと、それは美味しそうに熟れた真っ赤な果実だった。ここしばらくまずい肉水しか口にしていなかったせいか、魅入られた様に噛り付くイザ。


 それは今まで食べた事のない甘味を伴う果肉で、思わず泣きながら一息に食べ尽くし、何故か種まで丸呑みにしてしばしの放心状態。


 するとなぜかムクムクとここから離れなければいけない気がしてきた。全身に力も湧いてきて、お尻がむず痒くなってくる。


 イザはそそくさと少ない荷物をまとめ、一刻も置かずに7日も居座り続けた守りの木からズリながら降り、何かの確信を持つ様に歩きだした。






 イザが離れてしばし、守りの木の編み込まれた枝葉は自らハラリとほどける。


 木の根元には緑の子供が輪郭を虚ろに立っていた。野犬の死骸に手をかざすと急激に風化しボロリと崩れ落ちる。


 それは守りの木に宿るドライアドであった。


 イザに魔力が宿ったのもその存在に触発されてのものかはわからないが、与えた果実はドライアドの分身体であり、果肉を食すことで、ドライアドの加護をその身に宿していた。


 それと同時に種は宿主に寄生し、解らない位に少しづつ魔力を溜め込み、宿主の死と共に芽吹く。


『悪くない仕事だった』


 そう呟いた緑の子供は木に吸い込まれて消えた。

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