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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第二章 タガル大陸へ
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G狩①

追記


〝注意勧告〟


この後三話はゴキブリの話となりますので苦手な方はご注意下さい。

 祠からロウに乗って更に一昼夜走り続けて、辿り着いた黒子峡谷は、その名の通り、大地に刻まれた巨大な亀裂にある、真っ暗な谷だった。


 二人はロウから降りて後ろに従えると、岩陰に隠れて少し離れた位置から谷を伺う。


「判るか?」


 昼間だと言うのに日向から伺う谷は真っ暗で目視はできない。

 魔力を使った索敵に切り替えると巨大な何者かが多数蠢く様子が感知された。


「ここに居るのは皆同じ種類の魔獣だ、感知能力に優れ、斬撃にも打撃にも強く、毒や魔法も効きにくい。素早く動き短距離なら飛行も可能で、何より数が多い」


 ソウジャにしては珍しく饒舌だ。


 いきなり最悪な獲物の説明に気が重くなる中、遠くから魔獣がギギギッと鳴いた。


 詳しく調べようと探っていると、一匹の魔獣が日向に飛び出してきて、その姿にギョッとする。

 せわしなく羽ばたく黒光りする魔獣は、見まごう事無くゴキブリだった。

 イザの村でも手のヒラ位のが繁殖して貴重な食料や毛皮を食べ漁る事があったが、谷のGは体長がイザと同じ位ある。


「アサルト・ローチと言う」


 大きな個体は体長2mを超えるらしい。茶色と黄色のマダラ模様で、額には真っ白な六角形の斑点。

 ソウジャが言うにはそこに魔石が有り、入手するなら首を刈って取り出さねばならないらしい。


 元々は大型の地龍の住処だった黒子峡谷に、ローチ達が住み着いたのは約2年前。草原の民から地龍退治の依頼を受けた魔導師が放ったローチは、瞬く間に土地の在来種を駆逐していった。

 と同時に高い魔力を含む肉を食べたローチ達は爆発的に数を増やす。


 頃合を見てローチを間引くつもりだった魔導師は、予想外に増殖し、進化したローチの反撃にあって食べられてしまった。


「ただ、奴らはここの何かに縛られていて、遠くには行く事ができない」


 普段は峡谷の暗がりに居て、夜になると一斉に獲物を狩りに出掛けるが、また朝になると谷に戻ると言う。

 襲われた者は人だろうと獣だろうと毛の一本も残さず地上から消滅する。


「ソウジャさんはどうやって狩ってるんですか?」と問うイザに、


「俺は狩らない」


 単純な返答を返された。


『ですよね〜』


 と思いながら途方に暮れるイザに


「一匹がやられた時の鳴き声で、百匹は集まってくる」


 と、更に追い打ちを掛けられた。狩ってから安全に帰るまでが狩猟ならば、ローチは難度の高い獲物の一つと言えるだろう。


「今回は特別に一匹仕留めるからやり方を見ておけ」


 と言ったソウジャは、ロウを引き連れて谷の端まで行き、二手に別れた。


 ローチが昼間に単独で飛ぶのは、偵察行動だと言われている。

 その偵察要員は鳴き声で仲間に信号を送ると、暫く自由に行動してから谷に帰る。

 ソウジャは信号音を出し終わった後の空白時間を狙って襲うつもりの様だ。

 だが、谷側のローチも触覚をフル稼働して異常がないか見張っているため、突出した行動は命取りとなる。


 ソウジャは余り上手くないローチの飛行中を狙って、羽根の周りの風を操り誘導する。

 フラフラフラ〜ッと思ってもいない方向に導かれ谷から離れて行く偵察ローチ。


 と、突風が彼を襲った。ソウジャの風魔法、その名も〝突風〟である。


 ブワッ!とめくれ返る羽根で制御不能のローチが頭を下にした瞬間


 〝ガブッ!〟


 ジャンプ一番ロウが噛み付く。地上6mに届こうかという大ジャンプだった。


 風の力を全身に纏い飛び跳ねたロウは、再度風を纏うとフワリと着地する。

 噛まれたローチは一撃で絶命すると、首からもげて体だけバサリと落ちた。


 手足をヒクつかせる胴体を置いて、頭部を咥えたまま、一旦草原まで引くロウに後からソウジャが追いつくと、ローチの頭を差し出してくる。

 ロウにとって余り美味しくない獲物なのだろう、口直しにソウジャから貰った動物の骨をバリバリと嬉しそうに噛み砕いた。


 ソウジャは後から追いついてきたイザに、


「即死させたら信号音を出させずにすむ、素早く離脱しないと、仲間のローチに襲われるから注意しろ」


 と忠告した。また、一度襲われたローチの集落は、暫く臨戦体制が解けずに谷の周りを飛び回り、目に付く者を見境無く襲うとの事。


 ソウジャがローチの首をナイフで掻き出すと、親指の先位の石が出てきた。粘液を洗い流すと茶色の透明な魔石が鈍い光を放つ。


「ローチの魔石は大して高くは売れない」


 ローチの魔石は大きい物でも10銀に満たないと言う。黒猪の収入以下、魔石の中でも最低ランクの値段だった。

 ローチの嬉しくない情報がまた増えた。厄介な魔獣なのに見返りが少ない。それもローチが駆逐されない理由の一つだろう。


 やる気がどんどん細って行く。これ以上テンションを下げないように、


「僕はどう狩れば良いでしょうか?」


 と話を先に進める事にした。


 狩の指導を受ける際に、獣に対するフェロモン作用など肉水の基本的な効用は教えてある。

 ソウジャが考えてくれた作戦の実行は、肉水に対してローチがどの位反応するかを見てから、と言う事になった。


 広大な谷は一直線の場所もあれば、曲がりくねった角もある。

 ローチは一定の地帯で集落を作っている為、二人はロウに乗って、大騒ぎになっているであろう集落をはなれ、隣りの生息地に移動した。


 谷の端から距離をとって岩場に身を隠すと、肉水を固めて噴射する。


 現在のイザは粘度を高めた肉水を、軽く2〜300m飛ばす事が出来る。

 今回の本気の射出は500m以上飛んで岩場に弾けた。


 暫くすると、


 〝ブオオオーン〟


 とローチの群れが黒雲の如き密度で湧き出して肉水に群がった。100匹以上の群れが一心不乱に集まる様に、


『上手くすれば共食いが始まってくれるかも知れない』


 と淡い期待を持ったイザは、


「ビィィイイイイイッッ!」


 という強烈な鳴き声で現実の厳しさを教わる事になる。


 興奮状態のローチ達がビタリと固まると、谷の奥から、体長5mを越す紫のオーラを纏ったアサルトローチの親玉がズルリと現れた。


 イザ達は知らないが、召喚主の魔導師を襲いその魔力を吸収し進化した個体〝ダークローチ〟のさらに上位種。配下を魔力付与の声で1000匹以上操る紫のオーラを纏う〝紫閻王〟である。


 紫閻王は肉水の元に巨大な身体をギシャギシャ波打たせ辿り着くと、ジックリと時間を掛けて肉水を舐め尽くした。

 暫くしてローチ達が巣に引き返すのを呆然と見送ったイザは


『「頑張れ」』


 ソウジャとスイに同時に励まされた。


 隣りを見ると、憐れみの目で見下ろすロウ。慰める様にベロンと舐められた頬っぺたは異様に臭かった。

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