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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第二章 タガル大陸へ
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外来種

 ピナカ村を出てしばらく北上すると、草原地帯にも灌木が目立つ場所に来た。

 ソウジャが指笛を吹くと、イザには聞き取れない位の高周波の笛の音に、灌木に隠れた獣が反応する。


 ダッ ダッ ダッ


 薄い緑灰色の綺麗な毛並をなびかせて、遠くから狼が駆け寄ってくる。近づくにつれ際立ってくる巨体は体長2m半を超え、体高もイザより高かった。


 イザはビビって鉄パイプを構えるが、ソウジャに抑えられる。


「大丈夫」


 言葉少なに、でも確信を持った態度で制する。指笛を鳴らして呼び出した事もあり、大丈夫なんだろうと思ったイザが見守る中、ソウジャに駆け寄った狼は尻尾をメチャクチャに振り回し彼を舐め回した。

 傍目にはどう見ても巨大狼に食べられる小人の図だが、ソウジャの言う事は何でも聞く様で、最後には伏せたまま大人しくなった。


 〝ウインド・ウルフ〟


 草原に住み着くグレイウルフ、その中に稀に現れる薄緑の混ざった上位種がウインド・ウルフである。

 草原の風精の力を取り込み疾風の速さで駆けるスピードは草原の四足獣最速を誇り、体躯はグレイ・ウルフの一回り上をいく。


 ソウジャは相棒、元はグレイウルフだったというウインド・ウルフのロウに跨ると、耳元でゴニョゴニョと囁き、


「お前も乗れ」


 と言ってイザに手を差し伸べてきた。


 グイッと引っ張られてロウの背中に跨ると一息に立ち上がる。何時もより断然高い視界に少しビビるが、ロウの背中にピッタリ張り付くソウジャに習い、ソウジャの背中にしがみついた。


 ソウジャがイザの手の位置を直し、ロウに声を掛けると、一歩二歩動き出す。始めての騎獣に慣れないイザは、体を左右に振られるたびに大きくバランスを崩しかけた。だがソウジャはまるでロウの体の一部の様に一体化している。


「行くぞ」


 合図と共に走り出すロウ、イザはずり落ちない様に必死でしがみ付いた。

 だだっ広い草原を疾風の速さで走り続けるロウは半日休まずに駆け続けると、小さな祠で止まる。

 ロウにとっては軽く流した程度なのだろう、息を軽く弾ませる程度でまだまだ元気そうだ。一方しゃがんだロウから降りたイザはフラフラになって地面にしゃがみ込む。

 車と違い、騎獣に直接乗ると言う事がどれだけしんどいか、身を持って体験したイザは逞しい巨狼を下から見上げた。


「薪を集めてくる」


 ソウジャはそう告げると、ロウを伏せたまま待機させて何処かへいってしまった。

 見知らぬ土地で巨大な狼と自分ひとり、ふと気付くととても心細い状況にある。せめて伏せて休むロウを刺激しない様に、背負った荷物をほどくと、軒下に毛布を敷いて身を休めた。


 屋根しかないが、祠の軒下にはちょっとした囲炉裏が有り、夜中でも凍える心配はなさそうだ。そんなことを考えながら毛布に包まると、安心したせいか急に眠たくなってしまい、いつの間にか瞼を閉じていた。


  バサッ


 何かの落下音で目が覚めると辺りは暗くなり始めていた。


「不用心だな」


 見ると、呆れ顔のソウジャが薪を足元に積んで立っている。


「 すいません」

 

 慌てて起きあがり謝るイザを制して、囲炉裏にマキを組むソウジャは、手慣れた動作で火打石を打ち付け、ほぐした繊維に火を起こした。

 そして囲炉裏の上に組まれた鉤に持ってきた小鍋を吊るすと革袋の水を入れて湯を沸かす。


 パチパチとはぜる焚き火を囲んだイザとソウジャは黙って火を見つめた。日の落ちた草原に赤々と燃える炎は暖かく、何故か見飽きない。

 やがて湧き出した鍋にひとつまみの茶葉を入れると、何とも言えない焙じ茶の良い匂いがたってきた。

 

「カホウ茶だ、飲め」


 二つのカップに注いだ茶の一つを勧めてくれた。


  「ありがとうございます」


 受け取ったイザは香ばしい匂いを堪能しながらユックリすする。素っ気ない味だと思ったお茶は、嚥下してから暫らくするとジワジワと甘みがやって来る。それからしばらく二人の茶をすする音のみが祠を支配した。


 気を利かせたイザが、荷物をあさって携行食料の干し肉と芋を取り出すと、ソウジャにも勧める。

 その中で干し芋だけを受け取ったソウジャはモクモクとしがみ続けた。ふたたびの沈黙の中、クチャクチャ、ズズーッという音のみが場を支配する。


「前にも言ったが」


 唐突にソウジャが話し出す。


「魔獣と言っても無闇に狩って良いものではない」


 出発前に話し合った際、一番に指摘された事だった。 人は勝手に魔獣と獣を分けるが、その違いは曖昧だ。

 単に食料や製品に加工されるものを獣と呼んだり、魔力の多い獣を一般的に魔獣と呼ぶが、魔力が無くても人喰い獣は魔獣と呼ばれるし、魔力があっても人と共に暮らしてきた種族は魔獣と呼ばれず、中には聖獣と呼ばれる事もある。


 そして、草原地帯などの大自然に棲息する魔獣は生態系の頂点に君臨し、その地で一つの役割を担っていると言う側面がある。

 つまり、余所者が勝手に魔獣狩などをすると、場合によっては生態バランスを大きく損ねる可能性があった。(個人で狩る量などたかが知れているが)

 そんな中、環境に配慮して魔石を内包した魔獣を狩るとなると、自ずと種類が限られてくる。


 〝外来種の討伐に黒子峡谷に向かう〟


 それが今回ソウジャがイザを手伝う際の取り決めだった。

 外来種は主に魔導師などが戦争時に召喚したり、使役した魔獣が野生化し、繁殖した厄介者の場合が多い。それは戦闘に特化した種が多いと言う事でもある。


 イザを峡谷まで連れて行き、最初の一体を狩る所まで指導する、その後はソウジャは他の仕事に向かうため、イザ一人での狩を行う事になる。事前にそれを聞いていたイザは、気を引き締めてソウジャの言葉を吸収した。


「黒子峡谷の魔獣にしてもそうだ、谷には谷のルールがある。谷の外来種は強く、そして連帯している。一回の指導で狩のコツを掴め」


 それだけ言うと、ロウの元に行き、丸まった腹を枕に毛布を出して包まってしまった。それに習ってイザも横になると毛布に包まる。


『明日っから頑張ろう』


 スイに思念を送ると、


『死なない程度にね』


 と水を差されてしまった。

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