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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第二章 タガル大陸へ
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満月の儀式

「満月の夜、魔力は最高潮に上がんべ」


 ギョランの言葉通り、イザは自身の魔力がたぎり、精神が高揚しているのを感じる。


 青の湖にある小さな島、その中心部に広がる青の洞窟はその下部が湖と繋がっている。今イザはその最下層に横たわり、身体を水に浸しながら周囲の水精に気を配っていた。


 しばらくそうして居ると母の胎内で羊水に浮かんでいるような不思議な安心感につつまれていく。


 小一時間ほど浸かっていると月が最高位に達した。その時〝ドプン〟と波紋が広がり身体を揺さぶられると、巨大な存在感を発しながら何者かが湖底から上がって来る。


 魚? と感じたそれは、巨大な水精の塊、いわゆる精霊の一種だった。それが大きな口を開けながら悠然と迫ってくる。ギョランから聞いていたイザは慌てずに力を抜いたまま身を委ねた。


 ザバアアァァァ!


 大精霊は辺り一面の水ごとイザを飲み込むと、ザブリと身を翻し湖底に向かって真っ直ぐに潜っていった。

 その中で半トランス状態のイザは今までに無い高揚感に満たされる。

 かなりのスピードでグングン潜っていくが、呼吸は全く正常に機能しており、水圧の影響も感じられない。


『ニンゲンー オマエー イイニオイー スルー』


 大精霊の意思が頭に直接響く、頭を揺さぶるような思念波でめまいをおこしながら、イザはいい匂いについて考える。

 肉水は野生の獣にとって堪らないフェロモン様の匂いを発しているらしいが、精霊にも通じるのだろうか?


 物は試しに大精霊の体内に向かって肉水をだして見ると、何かに導かれる様に今まで出した事のない程の濃い魔力が収束していく。


 トプン


 拳大のピンクの液体が球状になって大精霊の体内に運ばれると、


「「ブルンッ!」」


 大精霊がその巨体を震わせて喜びを表す。


『ブオオー ボアーー ソレー スキー モットー ヨコセー』


 にわかにさざめく大精霊の波動に本気で気絶するイザ、そこを無理やり揺すって起こされた。


『わかった わかった!』


 慌てて肉水を限界まで作り出すと大精霊がドンドン吸収して行く。


 超高濃度肉水の限界量までの生成を二度、三度と繰り返すと、最後は魔力欠乏寸前までいった。


『もう無理!』と言うのと『ボアーー マンゾクーー』と言うのが重なると同時に湖底の魔力溜りにたどり着く。

 大精霊の巨体が、プデンッとゼリー状の膜をくぐったと思うと、強烈な魔力の奔流に晒された。


 魚人族にとっての侵さざる聖域〝青の間〟そこに今、大精霊、イザとスイ、鉄パイプの水精に精霊ナイフの五つの魂魄が光の玉として存在していた。


 その間、スイは完全に沈黙している。同じ精霊という存在であっても、余りの格の違いに萎縮して縮こまり、存在感を消してひたすら時が過ぎるのを待っている。


『オマエラー オモシロイー フタツー タマシー イッショー』


 水の大精霊に認識されている事で、取り込まれやしないかと更に縮こまるスイに『大丈夫』と思念を送るイザ。


 最初に大精霊の存在を感じた時からある安心感。肌感ともいえる感覚でこの精霊との親和性を感じていた。


 ギョランが言う〝仕上げ〟とは、大精霊との契約、いわゆる洗礼と呼ばれる、魚人族でも限られた者のみが受ける事を許された儀式の事だった。


 ギョランの役目は大精霊の護人として青の湖の青の間を守る事で、魚人族以外の人間をここに通した事は余り前例が無い。だが、イザなら大丈夫だろうと、思い切って送り出してくれたのだ。


『ボアー オマエラー キニイッター ツナガレー』


 一際大きな光の塊である大精霊が更に光を放ちイザ達を呑み込んで行く。辺り一面に青い光が満たされると、イザとスイは自我を失い大精霊と同期した。元々自我もない鉄パイプとナイフも感覚的に同期しているのが分かる。


 自分が大精霊であり、大精霊が自分である。通常の思考は完全に麻痺して、巨大な精霊の意識を体感した。

 そのまま大精霊は湖底を悠然と泳ぎ青の間をズルリと抜けると、青の湖をグルリ周遊する。


 まるでイザ達に自慢するかの様に、大きな魚溜まりや、満月に浮かび上がる岩壁の絶景、辺り一面に広がる水草の草原などをたっぷり鑑賞すると青の洞窟に浮かび上がった。


 バサアァァァーッッ



 気づいた時、イザはまた一人、青の洞窟に浮かんでいた。辺りは何も無かったかのように静寂を保っている。


 ずぶ濡れのまま洞窟を出ると周囲は朝焼けに染められて鮮やかに輝いていた。イザの気持ちも周囲に負けない程充実している。


 そのままジャポジャポと湖に入ると、湖岸に向けて泳ぎだす。

 行きしなかなり苦労して渡った湖も大精霊の泳ぎを体感した今はスイスイと労せず泳げた。というか行きたいと思うままに滑らかに泳げる、端から見たイザはまるで魚のようであった。


 水を一かきする毎に水精の力を感じる。その力を助けに力を込めると、自分の力以上のものがイザを前へ前へと押し出すのだ。

 余りに気持ち良くて調子に乗って泳ぐうちに、あっという間に湖岸に辿り着いた。


 ギョランの洞窟に向かうと入り口前でギョランが待ち構えていた。


「なんぞいい事あったべな」


 ニヤリと笑うギョランに


「はいっ!」


 と満面の笑みを返すイザ。


 ギョランは満足気に頷くと


「どれ、見てやんべ」


 と目を瞑って手をかざした。


「うーん、精霊様にも相当気に入られたべな」


 唸りながら解説する。


 洗礼の効果は人それぞれで、どれだけ大精霊に気に入られたか、どれだけ深く同期出来たかによって大精霊から与えられる加護の強さが決まる。下手をすると、大精霊と会う事すら出来ないらしい。


 そんな中、イザは最高の加護を得たと言う、それはギョランが得たものと遜色ない位のものだった。


「これでおめえさんは最高級の魔力を得た。これからは普通に魔法を使っても威力が段違いになっぺ、だが精霊様の加護はそれだけでねえ、帰りしな泳いだからわかるべ」


 頷くイザ


「何だか魔法を使わないのに水精が力を貸してくれました」


 頷くギョラン


「たべだべ、それ以外にも人間でも極めれば魚人族の様に水中でも生活できる様になるんだ。あと、水分索敵の精度もかなり上がっとるはずだで」


 言われて索敵してみると、今までの範囲とは比べ物にならない広さで水分の分布を感じ取れたし、鮮明で精緻な感知ができた。


「すごいっ!」


 興奮するイザに、


「まんず座って話をすべ」


 と洞窟内に促すギョラン、完全に明けた空は青く澄み渡っていた。

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