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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第二章 タガル大陸へ
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湖水地帯②

 馬車を降りてから歩く事四日、自信満々だったセレミーは道に迷った挙句、ドロドロの湿地帯を彷徨っていた。

 キィキィうるさい虫かごを10個も抱えて食料品などの大荷物を全て持たされたイザは、肉体的にも精神的にも限界に達していた。

 買ったばかりのブーツに泥がこびり付いて、落としても落としても重くなる一方だ。


 最終的にドライアドの加護による勘頼みでギョランの住処〝青の湖〟に辿り着いた時、セレミーの威厳も半減していた。


「大体私は街中専門なのよ」


 苦しい言い訳をするセレミーをイザは冷ややかに見る。




 ギョランは土産の大陽光を一匹掴むと丸呑みにして目を細める。裏返るエラは気持ち悪い位真っ赤だ。


「ムフーッ」


 どういう作りになっているのか?満足そうにエラから吐息を噴き出すと、ギョロ目を見開き、イザを凝視する。そして近寄って顔を付き合わせて一言


「めんどいな〜」


 生臭い妙にパフつく声で呻くと、もう一匹の大陽光をパクリとやった。ブチュッとこぼれた茶色の体液を美味そうに舌なめずりする。


 ギョランは全長2mにも及ぶ大きな魚人で、曲がった背中と身体の大きさ、ヒゲの長さから、かなりの年齢と推測される。

 くたびれた真っ青な鱗を垂らして大儀そうに体をくねらせた彼は、セレミーから受け取ったバーモールの書状をチラリと見やる。


 バーモールには確かに借りがある、ギョランもまだ集落を率いる首長だった数十年前、正妻と妾との子どもを巡る争いで板挟みにあうピンチを、バーモールの色魔法で助けてもらった事があった。


 その時、確かに今度はこちらが何かあったら助けると約束していたのだ。


「う〜ん……しかたねぇ、お前さんが一人前になるまで鍛えてやるべか」


 事の顛末を見守っていたイザはホッと一息ついた。


「じゃあ私はこれで失礼するわ」


 と一人去ろうとするセレミーに、


「帰り道わかるの?」との素朴な質問をすると、


「わかるわ! なめんな!」


 と啖呵を切って去って行った。イザの手元にはダグラスからの書状だけを残して。


 その書状を要約すると、ギョランの元で修行を積み、一人前と認定されたら真っ先にダグラスの元に戻る事と書いてあった。

 そして、書状の最後には通信用の魔法印があった。イザの魔力を通す事でダグラスに合図を送れるようになるらしい。


 それを見ていたギョランは、


「おめさんだいぶ期待されとるようだな」


 チラリとイザを見ながら言った。


「はいっ!」


 笑顔で元気に答えるイザ、今だ社会的には何者でもない少年にとって、恩人であり教師のダグラスに期待されるという事はとてもうれしい事だった。


 ダグラス達からの書状を手にギョランは複雑な気持ちで少年を見つめる。だが、この子の魔力を手っ取り早く引き上げてしまえばそれで良しとすぐに割り切るギョランだった。


 ギョランの住処、青の湖畔にある小さな洞窟、その一室は膝位の水位がある半地下になっている。その部屋で先ずは今現在使える全ての魔法を見せるイザ。その間にもギョランは的確な指摘で、少しの間に拙い魔法を改善して行った。

 そんなギョランは魚人集落の首長をしていただけあって、人を指導する事に慣れていた。


「わかったわかった」


 手をベシベシ叩きながら、


「なかなか面白い魔法をつかいよるの。だがいかんせん変な癖が強すぎて力がだしきれとらん。今のままではだめだ先ずは基礎からやり直すべ」


 特殊な修行でないことにイザは少しホッとする。先ずは何故魔力が魔法の力となるのかという、正しい魔法発動のイメージトレーニングから始まった。

 水噴射魔法を基本に、先ずは体内の魔力を引き上げる方法を教わる。

 イザの場合は大魔力渦と呼ばれる下腹部が魔力の発生源であるが、同時に眉間や胸の奥にある小魔力渦も意識することで、基の魔力を引き上げることができた。


 それらの魔力元から魔力発現箇所である手先に、鉄パイプを共鳴させながら魔力をスムーズに移行していく。今まではここでのロスも多かったとの事。

 その後出した強力噴射は、今までとは比べられない程の威力だった。


「最初でこれなら上出来だべ、後は何遍も繰り返してサラッとできる様になれば、自然と威力もあがっていくもんだ」


 頷きながら評価するギョラン、その時バタンッ! と扉がひらかれた


「道、教えなさい!」


 そこには顔を真っ赤にしたセレミーが仁王立ちしていた。

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