表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第二章 タガル大陸へ
20/128

湖水地帯①

 船上の約三週間、肉水を代価にセレミー先生による近接戦闘と索敵、隠密行動のレッスンを受ける事ができた。


「まずは柔軟、それが終わったら素振り300回!」


 イザの出した肉水を舐めながら声を張る鬼教官セレミー、何回も口にするうちに肉水にも慣れたのか、酒を飲む様に頬を赤らめて、寝転がりながらどやし付ける。


 実戦の近接戦闘をするには体力、筋力が足りなさすぎると判断されたイザの、目下の課題である身体作りは地味で辛いものだった。


 汗だくになって訓練を終えると、水を生み出しそのまま被る。ドサッと仰向けにひっくり返り空を見ると、雲一つない青空にガンガン照りの太陽、そして粘っこい潮風が心地よく吹いてきた。


「オラオラ〜! 次いくぞ! 立て」


 容赦ない鬼軍曹の声が甲板に響いた。




 正中線を意識して、鉄パイプの重さに振り回されないようにバランスよく構えるイザに、木の棒で突きかかるセレミー。


 鉄パイプを小さく旋回させて棒を払おうとすると、目の前で突然グニャリと軌道を変えられ、少しバランスを崩してしまう。


 畳み掛ける斬撃を何とかかわして距離を取ろうとバックステップするも、ピタリと張り付いてくるセレミーは、棒を刃物に見たてて喉元を狙う。


 咄嗟に鉄パイプから弱水弾を放ち何とか距離を取ろうとするが、余裕で避けられて後ろを取られてしまう。


 喉元に棒を突きつけられ耳元で、


「はい死んだ! 鈍臭いんだからもっと考えて動け、逃げてばかりじゃ殺されるよ」


 と呟かれる。たまにやる模擬戦でいい様にあしらわれる悔しさが、イザを燃えさせた。


 自分の中にこんなに情熱的な部分があるとは、意外に思いながらも自分一人ではなく、スイの命も預かる身として、生き延びる事への執着が芽生えはじめていた。

 最近では少しづつスイから魔力のうねりを感じられる様になってきた。目覚めは近い、と更に魔力を注ぎ込むイザ母さん。


 そんな平穏で濃密な船上生活は四週間を過ぎ、途中嵐にもあわずに目的地に近づくと、遠く見えていた陸地が今ではハッキリと見えてきた。


 船は外海に繋がる大河を遡り、タガル大陸南部にある魚人族の支配圏である湖水地帯に進む。

 湖水地帯〝大バイアス〟は10もの巨大湖が集まった魚人族の一大生息地であり、世界最大の湖中都市が発展している。


 海岸部と大河〝焦げ茶川〟で繋がる第一の湖は外交都市として発達してきた最繁地ヨル湖。そこには魚人と外人が交わる賑やかな港と、湖底に広がる魚人族の街があった。


 長い海上生活から解放されて久しぶりの大地に安堵するイザは、大きく伸びをすると息をいっぱいに吸い込んだ。


「こっちだ、いくぞ」


 案内役のセレミーがさっさと歩き出す。イザは慌てて荷物を背負うと小走りで追いかける、しばらく歩くと馬車乗り場に着いた。

 セレミーが馬車の予約をしているのを横から見てやり方を覚える。


「こっから馬車で二日のセビレ村から、更に歩いて三日の湖に目的の魚人がいるらしいわ。ダグラスさんから土産を買って行く様言付かったから、今から市場にいくよ」


 異国の市場に行けるワクワク感で弾む心に、セレミーから


「都市部の市場にはスリも多いから気をつけな」


 注意を受け、慌てて財布を握りしめた。


 市場は嗅いだ事のない果物や干物の匂いがごちゃ混ぜとなった独特のにおいと、人混みの熱気でむせ返るようだ。

 山盛りになった果実は赤・黄・緑と色とりどりで、形もまん丸から角ばったもの、トゲトゲの物や馬鹿でかいものまで、初めて見る物だらけで味も想像出来ない物ばかりだった。


 果物好きのイザはどれか食べて見たいが、セレミーは何か確信があるのか、全く余所見をせずにズンズン進んで行く。

 イザも置いて行かれない様にでっぷり太った魚人達の間を懸命に進んだ。

 人混みに距離を離され、やっと抜けた所でセレミーが立ち止まって店の人と話し込んでいるのを見付ける。イザが近づくと、看板が見えた。


 〝食用虫店〟


 店先のケースには大小様々な芋虫やバッタ、水生昆虫の干物や魔虫と呼ばれるモンスターの死体まで売られている。

 一種異様な光景にビビりながら近づくイザに店員が、


「らっしゃい! とびきり新鮮な虫がはいってるよ!」


 陽気に声をかけてくる。


「大陽光って虫はあるかい?」と問いかけるセレミーに、


「ああ、大陽光ならこの虫さ」と一際でかい羽虫を指す店員。

 馬鹿でかい羽をブンブン鳴らしててカゴのなかをくね回る虫は、大きな顎でギチギチとカゴの繊維を噛みしきる。

 茶色でブヨブヨの身体に金色の斑点を持ち、羽は金色で、顎から茶色の液体を吐き出してシューシュー怒っていた。


「朝採りのとびきりフレッシュな奴さ、こいつはエサさえやれば一週間以上持つぜ、一匹一銀な」


 イザは余りの高さにビックリする。この虫に贅沢な食事と同じだけの価値があるとは到底思えない。


「じゃあ、そいつを10匹もらうから、エサ付きで6銀に負けな」


 そこから店主とセレミーの駆け引きが始まり、8銀半という所で折り合いがつく。

 無言でイザを見て顎をしゃくるセレミー、イザがポカンとしてると、


「何やってんだい!早く払いな、ここまで値引いてやったんだ、感謝しな」


 と、さも当たり前の様にイザを促す。


「ほらほら、お前の弟子入りの手土産だ! お前が払って当然だろ?」


 イザはどこか釈然としないままに代金を支払わされた。

 南国に来て好きな果物や名物を食べる前に、気持ち悪いデカイ虫を10匹も大金出して買う理不尽!


 急速に萎んだ旅のワクワク感を返して欲しいイザだった。

一銀=1000円位です、大体。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ