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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第一章 鉄パイプの魔法使い
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王都バイユ

 王都に着いたイザは余りの人の多さにカルチャーショックを受けていた。

 お祭り騒ぎどころでは無い人の多さ。目抜き通りは人でごった返し、揉みくちゃになる人で通りとして機能していない。


 なんだこの人達は! なにをしている? 人間ってこんなにいたんだ! イザは混乱しながら街並みを見送る。


「なにかあったな」ダグラスがつぶやく。


 横を振り向くと冷静な顔で外を眺めている。王都とはいえ普段はここまで人が居ないらしい。


「もしかしたら将軍が入れ替わる叙勲式に当たったかもしれん」


 聞けば、バイユ王軍のトップ〝言霊の〟ドルケス将軍が退官し、次期将軍に受け継ぐ事が近々決まっていたらしい。


 白髪白髭、眉間に深い皺が刻まれ鷲鼻に鋭い眼光。背が高く肩幅がある日に焼けて引き締まった軍人は、杖を突きながらも背筋を伸ばし、とても老人とは思えない威圧感を漂わせて広場に作られた壇上にいた。


 将軍と言えばバイユ正規軍を率い、国王に次ぐ位にあたる。その退官式となれば、いかに疲弊した国とはいえ、都を挙げての式典となっていた。


 友好各国のお歴々を貴賓席に、列を成す正装の軍人が通りを固め、その周りには老若男女様々な一般人がひしめいている。

 特にドルケスは数々の戦で武勲を上げた名将として知られ、先代の国王の時代からバイユを支えてきた男である。

 沿道の人だかりには、わざわざ遠くから来てこの日の為に長逗留していた人達もいるほど国民からも慕われていた。


 〝言霊〟と呼ばれる彼固有の魔法は発した言葉に力を与える事が出来る。困難な戦では味方を鼓舞し、敵に向かっては威圧し震え上がらせた。


 戦上手で内政会議等でも弁がたつ彼は、戦となれば銀色に輝く古代武装〝飛鞭〟を振るい自ら獅子奮迅の活躍をする猛将であり、周辺国から恐れられている。


 聡明な彼はその持てる力を最大に発揮して国に奉仕したが、齢70を超えた現在、半世紀も戦い続けた身体は酷使に耐えかねて言う事をきかなくなってきた。


 先の戦で痛めた左足を杖で支えながら壇上にのぼったドルケス将軍は、集まった観衆に向けて退官の挨拶をする。


「本日は記念すべき日である!」


 厳然とした断定口調で場を締める、言霊の乗った彼の一言一言が観衆の胸に染み入った。


「私ドルケスは50年、バイユ国軍に在籍させて頂いた。」


 辺りは静寂を守り、彼の言葉に聞きいる。


「その間、戦や飢饉などの国難を王と国民と共に幾たびも乗り越えてきた。時に失敗もし迷惑もかけてきたが、皆と共に何とか切り抜けて来た」


 その言葉に頷く観衆。


「この度老兵は引き、若き猛将マルディに将軍の座を譲る事が出来るのは至上の喜びである! 若き聡明なヤムセス王と猛きマルディ将軍が導く未来に一片の不安もない! 去りゆく老兵から最後の祝福を送らせて頂く」


 国民は次の言葉を待ちわびる。


「バイユ王国バンザーイ!」


「「バンザーイ!」」


 街が揺れるような大発声。


「ヤムセス王バンザーイ!」


「「バンザーイ!」」


「バイユ王国に光あれ!」


 沿道は割れんばかりの歓声に包まれた。涙を流す人もいる中、花吹雪が沿道を埋め尽くしていった。





 大興奮の沿道で立ち往生のダグラス一行はいたしかたなく大渋滞に大人しく並んでいた。


「先に用事を済ませてしまおう」


 ダグラスが騎獣車を降りると、人だかりを避けて裏道をスタスタと歩き出す。

 イザはズカを見るとアゴをしゃくって促された。ダグラスに遅れまいと騎獣車を降り、早足で後を追うと、しばらくして大きな建物の裏口に辿り着く。


 〝王立古代魔法院シーメンスバイユ〟


 比較的小さな建物の多いバイユにあって、王城に次ぐ大きさを誇る巨大建築は、地下深くにも根ずいている。

 地上部分でも充分巨大な建物の入口に佇むイザは、未開の地から運ばれた猿の様に身を竦ませた。


 門番に声を掛けるダグラス、やり取りも短く番所に通された。そして様々な検査魔具で検閲された後、武器を預けてからやっと入館許可が出る。


「余りうろちょろするなよ、下手すると殺されるからな」


 見ると完全武装の兵士が建物内を巡回しており、目が合うも物を見るような目で感情が伺えない。

 恐らく脅し半分だろうが、真顔で釘を刺されたイザは色々見て回りたい欲求を慌てて封じ込めた。


 全ての床、壁が大理石のモザイク模様で埋め尽くされた荘厳な通路をぬけ、更に検問のある部屋をすぎ、立派な部屋の中に入ると、ひょろ高い細身の老人が出迎えた。


「ようこそ〜ダグラスさん。用件は伺っているよ〜、早速例の封塔をみせてくれたまえ」


 急かすように言う白衣のひょろ男、しばらく日に当たって無いような肌の白さ。異様に突き出た額と、大きな目が特徴の彼は待ちきれない様に手を差し出す。


「サイプレス教授、直々のお迎え有難うございます。こちらが悪魔を封じ込めた6塔です」


 ダグラスは悪魔の封塔をカバンから取り出し、硬く封印術を施された包みのまま〝天才〟サイプレス教授に渡した。


「まさかこんなに早くオルトスの所から返ってくるとはね〜、クックックッ」


 嬉しそうに包みのまま巨大な実験装置にセットすると、その外側から窓の着いた封印器具でガッチリと覆ってしまう。


「かわいいぼくの実験体ちゃん、いまお顔をみせてもらいますよ〜」


 とろけそうなニヤケ顔で装置を操り封印を解き始めるサイプラスに、イザどころかダグラスさえも少し引いていた。


 金色の魔力が信じられない密度で操作され、魔封印を解いていくと、6つの塔が解体されていく。暫くすると中から黒い塊がドロリと出てきて、時間と共に小さな悪魔の形をとった。


 〝ブウーーン〟


 装置がこれまでに無い大きな音を立てて稼働すると、中の小悪魔が頭を抱えて苦しみもがき出す。


「さあさあ君はどんな子だろうね〜」


 トロトロに目尻を下げた教授は、素早く装置を操り悪魔を解体、分析して行く。それから6時間、二人は教授の実験に付き合わされた。

 ダグラスは魔鑑定を使い途中で参加したりもしたが、イザはただただ胸糞悪い実験に付き合うのみで、精神的に疲れてしまう。


 解析の結果で分かった悪魔の情報は、


 〝浄血のバンプ〟


 黒神の上位使徒であり、能力は腐血汚染という召喚した腐血による病気の蔓延。またその血を取り込む事で自身の力を上げることができる。

 強靭な肉体を持ち、完全体は黒焔のブレスや強力な召喚魔法、精神汚染魔法も使う。

 基本的に物理ダメージでは完全消滅させる事が出来ない。


「これはこれは、大物を捕まえてくれましたね〜」


 サイプレスはほころぶ顔のまま、ダグラスと悪魔の鑑定結果について議論し、チラッとイザを見ると、


「で、この少年は何ですか〜?」


 キラリと眼鏡を反射させて尋ねる。


 その余りの冷たい響きに凍りついたイザは悪い予感しかしなかった。

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